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「和歌山独自の価値観を創出」

和歌山県知事
岸本 周平 氏

――昨年12月に和歌山県知事に就任された。県政の課題は…。

 岸本 日本全体が抱えている課題がより色濃く浮き出ているのが、和歌山県のみならず地方自治体の特徴だと思う。少子高齢化や産業競争力の低下、教育水準の低下、公共交通網の整備不十分など、日本が取り組まなければならない課題がそのまま地方自治体の課題として立ちはだかっている。抜本的な解決策を見出すのは難しいが、県独自の政策で少しでも人口減少のスピードを弱めることや、都心とは全く別の価値観で巻き返すことを目指している。和歌山県が東京都を目指す必要はないと思っていて、和歌山県しかない価値観を生み出し、県民の皆さんのプライドを取り戻していきたい。

――少子化対策で歯止めを掛け、人口減少を食い止めるのは喫緊の課題だ…。

 岸本 日本の出生数は1970年代前半には年間200万人を超えていたが、昨年は80万人を切った。また、たとえ今から出生率が上がったとしても人口は減っていくことが予想され、この大きなトレンドを覆すことは不可能に近いだろう。このトレンドが続き、総人口が減少していくことを前提に、和歌山県としてはUターンやIターンを増やしていこうと考えている。とりわけUターンが大切だと思っていて、和歌山県で育った人が進学や就職で県外に出て行ったものの、都会の生活や価値観と合わなかった人達に戻ってきてもらいたい。Iターンも同様だ。令和の時代になり、拝金主義や経済至上主義とは異なった価値観が生まれ、脱炭素などこれ以上の成長を求めない考え方も増えてきている。実際に移住してきている若い人はおり、彼らは東京的な価値観ではなく、自然に触れながら自分たちの生活を送りたい、しかし自己実現をして社会に貢献したいという考えを持っている。彼らの自治体に対する要望としては、移住に対する補助金ではなく、交通網の整備などアクセスを良くしたり、教育水準を向上させたりするなど、自分たちにできないことをやって欲しいという声がある。和歌山の大自然の魅力や住んでいる人の人情など、そういう物に魅力を感じる人に来てもらい、県にしかできない永続的な支援をしていきたい。

――子育て政策については…。

 岸本 子育て政策については総合的な政策を考えていく必要があるが、まずは子育て世代の経済的な負担をどれだけ軽くできるかということだと思う。1期目4年のうちに目標を立てて成果を出したい。まずは、給食費を無料にするにはどうすれば良いかという問題意識を持っている。和歌山県内でも町単位では無料化できている自治体もあるが、財政規模が大きい自治体だと難しい側面がある。呼び水効果を狙って県が補助金を出すことを考えているが、どうやって財源を工面するかが課題だ。そして、ソフト面の応援も必要で、放課後の児童クラブといった働く親が安心して子育てができる環境作りをしたい。とりわけ大切なのは子ども食堂だ。全国的によくあるケースでは、祖父母世代も含め、大学生のボランティアで勉強を教えたり遊んだりする、食堂の枠にとどまらないコミュニティの場だ。親は子育ての心配事なども相談できるような、昔は当たり前にあったコミュニティの場が子ども食堂だ。これを小学校区ごとに1つ設置することが理想で、最初は中学校区で1つ設置することも大変だと思うが、これを進めていきたい。移住してきた人をつなぎ止める一番のポイントは、移住してきた人ともともとあった地元のコミュニティを上手くドッキングしていくことで、子ども食堂を通じて移住者と地元の人とを交わる場も作っていきたい。

――若者の県外への転出はどの県も頭を悩ませている…。

 岸本 転出の原因は2つあり、1つは親の世代の教育だ。親の世代がほとんどの人が和歌山県には働く場所がないと思い込んでしまっていて、自分の子どもを育てるときに「和歌山には働く場所がないからしっかり勉強して都会に行きなさい」と伝え、高校や大学で県外へ送り出してしまう。これでは若い人が戻ってくるはずがない。実際、優良な企業がたくさんある。親の世代の発想を変えることが大切だと思う。もう1つの原因として、どうしても東京や大阪などに比べれば和歌山県には大学が少ないことが挙げられ、大学進学率が50%を超えるなか県外へ出て行く人がいるのはしかたがないと思っている。Uターンとしていつか戻ってきてくれば良いし、県外へ出て行った人が帰りたいと思うような環境を考えたい。私も48歳で和歌山県に戻ってきて、戻ってきたからこそわかる良さがあると改めて感じているところだ。和歌山県庁も35歳まで中途採用をしており、Uターンも多く採用している。

――産業振興についての考えは…。

 岸本 産業振興の話をする前に伝えておきたいのが、今、言ったように既に和歌山県には素晴らしい中小企業がたくさんあるということだ。求人に困っているという声も聞かれていて、人材のミスマッチが起きていると思う。給与水準は東京や大阪の会社に比べて少し低いが、家賃や土地など住居費を考えれば、都会よりずっと良い暮らしができる。和歌山の中小企業に勤めれば、家を建てて車を2台持てて、子どもを学校に通わせられるだろう。とはいえ産業政策は大切で、第一次産業にこれまで以上に力を入れるべきだと思っている。和歌山県はみかんや柿や桃や梅などフルーツの日本有数の生産地だ。第一次産業は個人が脱サラして簡単に取り組めるようなものではないので、法人形式でサラリーマン的に就労ができるようにしたい。次に観光業だ。「紀伊山地の霊場と参詣道」が世界遺産に登録されているし、温泉も多くあり、「アドベンチャーワールド」は日本有数のパンダの飼育・展示施設だ。本州最南端の町である串本町にはロケット発射場もできた。これからは体験型の観光が拡大していくと予想していて、いちご狩りや魚釣りなど、第一次産業と観光が結び付いた産業を推進していく。それから、ワーケーション。実は、ワーケーションの第1号は和歌山県で、今まさに、南紀白浜を中心に、ワーケーションの施設を作ってメッカになりかけている。IT企業はどこでも仕事が出来る。実際に、和歌山に住んで在宅勤務でやっている人もいるので、これをさらに進めたいと思う。南紀白浜空港は羽田空港から1時間で着くので、ぜひ東京からたくさんの人に来てほしい。

――就任1期目の抱負は…。

 岸本 今回の選挙戦のキャッチフレーズは、「和歌山が最高!だと 子どもたちが思う未来を!」だった。実際にこれを実現するのは大変なことで、総合政策を打ち出していくつもりだ。ただ、これには心の持ち方の問題もあって、地方の方は自分のところを卑下する傾向があるが、そんなことはないと出戻りの私は思っている。和歌山県は自然の美しさや文化、歴史、伝統が根付いている土地だ。面白いことに中世の時代の和歌山は決定的な領主がおらず、地域の寺や地主が自治体を作って統治していた。将軍や天皇家などの権威の影響を受けづらかったので、和歌山弁(紀州弁)には敬語がない。強いものに対して許せないという気概があり、残念ながら負けてしまうが織田信長にも豊臣秀吉にも戦いを挑んでいる。こうした和歌山の良さをシェアし、県民の元気を取り戻してもらうような政策を打ち出していきたい。(了)

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