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「子供数減少でも先生不足深刻」

全日本教職員連盟(全日教連)
委員長
前田 晴雄 氏

――全日教連(全日本教職員連盟)について…。

 前田 全日教連(全日本教職員連盟)は、GHQの指示のもと結成された日本初の教職員団体である日教組(日本教職員組合)から分かれて結成した団体だ。日教組というと、教師の労働条件改善のためにストライキや反対運動ばかりを行っているというイメージをおもちの方も多いと思うが、我々はそういった行動に疑問を抱き、「教育は子供のためにあるべき」という思いを強くした教職員たちが集まった団体だ。労働条件よりも子供と向き合う時間を増やそうとする「教育正常化」を目指し、日教組を脱退し結成された全国各地の団体が大同団結して誕生した全日教連は、今年で結成40年を迎える。加盟数は全教職員数の約2%と、日教組の約20%に比べてまだまだ少数派だが、その推移をみると、日教組の会員数が減少の一途を辿っているのに比べて、我々は長い間ほぼ同数を維持している。現在無所属の約7割の教職員をどのように取り込んでいくのかが今の課題だ。

――全日教連が掲げる理念とは…。

 前田 我々の理念は「美しい日本人の心を育てる」というものだ。自己を愛し、人を愛し、自然を愛し、社会を愛し、国を愛する心をもつ。そういう素晴らしい日本人を育てていきたいという強い理念をもち、政治的思想に関係なく、日本の未来を担う子供たちをどのように育てていくかを一番に考えている。全日教連が注力するのは子供たちの教育環境の改善だ。学校現場の声をしっかりと吸い上げて、子供を巻き込まないよう十分配慮しながら、教育環境の整備を国に訴えている。また、教職員の資質能力向上にも力を入れている。例えば、教育環境に関するシンポジウムの開催や各種研修会を実施して、教職員一人一人の能力を伸ばすための活動に取り組んでいる。日教組が教師を「労働者」と位置付けているのに対し、我々は教師を労働者ではなく「教育専門職」と位置づけ、そう呼んでいる。そこが二つの団体の大きな違いだろう。

――今の日本における教育の課題は…。

 前田 教師一人が担当する子供たちの数が多すぎて、一人一人にきちんと目が届かないことだ。一昨年度の法律改正でそれまで40人だった小学校のひとクラス人数は35人に減らしたが、一方で通常学級に在籍する小中学生の約8.8%に学習や行動に困難のある発達障害の可能性があることが文部科学省の調査で分かった。国際化が進む中で日本語を話さない家庭に育った子や学習環境が整っていない家庭の子など、様々な背景を持つ子供たちがいることに加えて、今の教育方針として「個別最適な学び」を提供することも推進されている。学校に求められるものが肥大化し、保護者の期待も大きくなってきている今、35名のクラスに1人の教師ではとても対応できない。さらに社会構造の変化に伴い、学校でも金融教育やICT教育等、様々な分野を教えなくてはならなくなってきた。また、家庭や地域のコミュニティの中で自然と身についてきていたマナー等も今は全て学校が教えなくてはならない。そこに、給食費の徴収や学校内のアンケート調査等、会計や事務のようなことも全てが教師の業務になっている。「教師には夏休みという長期休暇があるのではないか」とお思いの方もいらっしゃるが、夏休みは教師にとっての資質能力を高めるための重要な期間だ。私は小学校社会科を専門教科として県の役員を担っていたが、夏休みになると各地方への出張や、色々なワークショップの企画、テストを作成するなど、かなり忙しくしており、年休の消化さえ難しかった。学校現場でも我々団体としても教師の資質向上のための研修には特に力を入れている。教師自身が毎年毎年ブラッシュアップして、子供たちに教える授業の準備をしっかりとしていくために、ある程度の研修時間は必要だ。その時間を確保するためにも、会計や事務といった仕事は他の人に任せて、教職員が本来行うべき教育指導に専念できるような改善を求めていきたい。

――教育現場ではオンライン授業の導入も進んでいるが…。

 前田 コロナ禍で全国の小中学校には一人一台ずつタブレットが配られるようになり、タブレットを使って沢山のドリル式問題をこなすなど、個別に学習を進める事が出来るようになった。しかし、学校は問題を解くだけではなく、心の成長も育まれる場所だ。他人と関わることで、自分とは違う価値観や考え方を知ることができる。文部科学省ではこれを「協働的な学び」と称し、先述した「個別最適な学び」と一体化させた教育を行うよう学習指導要領に示している。これら二つの学びをどのように組み合わせていくか、そして、子供達たち一人一人の幸せ(Well-being)が実現できる教育環境を整えていくかが、我々の責務だ。子供たちが学校の中でお互いに高め合ったり、支え合ったりしながら成長していくことを学べば、大人になり社会に出てからも、日本を構成する一員として助け合いながら生きていく事が出来るだろう。10年以上前から、子供たちの「生きる力」の育成にも力を入れている。それは物理的な生存というよりも、変化の激しいこれからの社会を生き抜いていくための確かな学力や体力、そして周りと協力する豊かで優しい心を育むことだ。我々全日教連の教職員たちは皆、家庭的に恵まれない子供たちからもすべての可能性を引き出し、一人一人が輝けるような教育をしていきたいと考えている。

――日本の公的教育費については…。

 前田 全日教連は、教育に対する国の責任を憲法に明記し、学校教育のさらなる充実に向けた法整備を進めてほしいという要望書を政府に提出している。というのも、現在の公的教育費の多くは国費ではなく、地方財政措置となる地方交付税で賄われている部分が多いため、使い方は自治体任せとなっている。実際にはそれが道路建設等の別用途に使われている場合があり、本当に教育費に回されていない実情も多く報告されている。教職員の事務仕事の負担を少なくするための統合型校務支援システムも、市区町村によって導入されていたりいなかったりと差があるのは、そのためだ。国が責任をもって未来を担う子供たちを育てるという事が憲法に明記され、教育費がすべて国の負担になれば、色々な法律がきちんと整備されるようになり、何処にいても同じ教育を受けられるようになるだろう。そして地域間格差もなくなってくる。

――日本の教育制度で早期に改善すべき点は…。

 前田 今、教師不足が非常に深刻な問題になっている。我々は、子供のためなら苦労もいとわないと思っているが、一方で、保護者等との関係に苦しむ事も多い。指導上で問題のある子供の保護者との面談のために、夜遅くに生徒の自宅を訪問することもあり、残業時間が過労死ラインまで届くような事例も少なくない。幾度か業務改善は行われているが、子供たちの事を考えるとどうしても削れない仕事は多く、そうなると勤務時間に見合った給与改善が必要になってくる。そうしなければ本当に優秀な人が教師になってくれなくなるからだ。実際に今、教師の採用試験倍率はかなり低下している。我々が政府に働きかけることで、デジタル化の導入と働き方改革、そして給与改善を実現させて教師不足を解消し、子供たちの教育内容をより良いものにしていきたい。「昔に比べて今は子供の数も減ってきているため、文科省に割り当てられる教育財源は減らすべきだ」という声も聞くが、教育現場の実態をよく理解すれば、そうした意見にはたどり着かない。また、教育は国の柱であり、教育こそが国の未来を作る道だ。何よりも率先して国は教育にお金を使ってほしい。同時に、教育費が実際にどのように使われているのかを、きちんとディスクロージャーすることも必要だと考えている。(了)

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