金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「日本人全体が資本市場化へ」

参議院議員
片山 さつき 氏

――新年の目玉政策は…。

 片山 やはり新しい資本主義の目玉である「貯蓄から投資へ」だ。税制改正大綱では、つみたてNISAの年間投資上限額を現行の40万円から120万円と倍増どころではなく3倍増とし、また現行の一般NISA(年間投資上限額は120万円)の役割を引き継ぎ退職金の運用などにも活用可能な成長投資枠(年間投資上限額は240万円)を設け、さらには生涯非課税限度額として1800万円(現行は最大で800万円)を設けた。しかも簿価(取得価額)残高方式管理のため、NISA枠の再利用についても格段に扱いやすくなり、制度恒久化とともに非課税保有期間も無期限となるなど、物凄く大きな拡充とした。税制に係るこのような大きな変更は通常であれば従来財務省主税局が認めてくれなかった。しかし、「貯蓄から投資へ」を推進することで、自分自身で老後資金に向けて計画を立てることができ、世の中の人々に安心感をもたらすことができるうえ、資本主義や成長の果実を国民が得ることもできることから拡充の意義は大きい。

――NISA拡充は国内資本市場に好影響を与える…。

 片山 現在、個人投資家の株式保有比率は16.6%(東証の21年度株主分布状況調査)しかなく、また国民の多くが加入している生命保険の国内株式の運用割合も7%程度、GPIFの国内株式の運用割合も4分の1程度と、成長の果実を得るにはこれではいくらなんでも少な過ぎる。このため、NISAを通じて日本の商品が選ばれる必要がある。もちろん利回りは重要で、また個人投資家の多くが投資しているニューヨーク証券取引所やナスダック証券取引所上場銘柄もよいが、トランジションやグリーン・トランスフォーメーション(GX)に関連する国内株式に投資したい人、日本がSDGsやDXを推進していく力となる投資をしたい人は増えており、こうした声を拾い上げて国内株式へ投資を呼び込んでいく必要がある。例えば、GXリーグ基本構想に賛同した、いわゆるGX銘柄が発行する社債のスプレッドはノンラベルよりも低い。これは、日本でGXが評価されているということだ。今後もGX銘柄をさらに増やすとともに、GX銘柄に投資する投資信託を組成すれば、利回り差があったとしても大義名分があるため、外国投信に勝てる実力を持つことができるだろう。そうすることで東京国際金融都市の再建にもつながる。このため、魅力ある商品を組成していただけるよう投資信託協会などとも連携していきたい。

――金融経済教育の改革も進めていく…。

 片山 金融教育を受けたことがある人が7%(金融広報調査委員会調べ)しかいないという現状では、NISAを拡充したところで活用は限られる。その問題を解決するために金融教育が必要だ。法改正を念頭に徹底していく。今後、金融教育の中心となる組織として金融経済教育推進機構を設立するが、しっかりとした組織とすべく金融調査会を通じて確認していく。年金や保険も含めて生涯を通じて必要な金融の知識が学べ、自己判断できる大人を育てていく。

――スタートアップ支援については…。

 片山 スタートアップ支援も拡充する。スタートアップへ再投資した場合は譲渡益に課税しないという優遇措置を設けるという一歩踏み込んだ施策を打つことになった。しかし、スタートアップ支援には難しさもある。エンジェル税制はかれこれ40年近く実施しているが、投資拡大につながっていない。つまり税制だけの問題ではないということだ。課題を改めて整理していかなければならない。他方では、NFT(ノンファンジブルトークン)についても本人保有分については証券などと同じように売却時課税とする。このように今回の税制改正では、いいものがたくさんできた。革命的進捗だと考えている。

――デジタル人材育成PT座長としてデジタル人材投資の拡充は…。

 片山 人材投資においては所得税において特定支出控除の条件がよくなる程度に留まっている。今後はDXの研修を受ければ特定支出控除額が広がるぐらいまで税制面での優遇を頑張らなければならない。現状でも東京都が講座を開き、受講者は1000人程度の規模までは拡大しているほか、大手クラウドサービス提供企業との連携を通じ、クラウド化に合わせた人材を開発している。しかし、例えば高卒・文系の女性で研修終了資格取得率5~6割に達するなど、イメージより簡単に資格取得できることを多くの人が知らないため、浸透・活用されていない。また、どういう資格を取ればどういった職に就けるのかというプラットフォームを作りきれていない。国も模索中、企業も模索中であることから国が全体をまとめていく必要がある。他方、デジタル教育が既に実践されている金融機関において、取引先である中小企業370万社に対してデジタル経営を指導してもらいたい。卯年は銀行ないし銀行子会社の専門会社が、こうした事業を新しい収益柱として展開していただくことを考えている。

――防衛費のための増税が決定された…。

 片山 防衛力強化のための財源確保にはとてもびっくりした。総理大臣から「これこれの税目で1兆円調達してほしいので具体的な税率やいつからかを決めてくれ」などあそこまで発言することはこれまでになかったためだ。私自身が防衛関係の主計官だったこともあり、よく承知しているが、防衛予算は伝統的に特定財源ではない。この度、法人税について4~4.5%の新たな付加税を課す方向が税調答申に書かれ、500万円控除とするものの、中堅以上の企業には負担となりかねない。コロナが明け始めているが、例えば大手のホテル・旅館で黒字化した割合は全体の3割に留まっている。これは、放漫経営をしたからではなく、国が移動制限を課したからだ。我々はゼロゼロ融資で支援してきたが、今年に返済のピークが到来するため、再度延長ないし何らかの債務圧縮を含む事業再生をしなければ乗り越えられないと考えている。100%保証の借換保証も新設しているが、大手となれば1億円の借換保証では足りない。一方で、今、事業を売りに出しても買い手は中国資本ぐらいだろう。そうなると彼らはお金はあるが地域と折り合った経営ができるわけではないため、日本中でおかしな状況が生じている。とくに温泉街は地域コミュニティの中にある事が多いことから国民が訝っている。今の世の中を象徴するようなシーンだ。

――景気後退のなかで増税は企業の負担となる…。

 片山 今年、企業はようやく自助努力で黒字転換したものの、まだ繰越欠損が出ているなかで将来は増税になるとなれば、それは怒る。せめてコロナの影響を受けている業種を対象外とすべきだと進言した。他方、宮沢洋一自民党税制調査会長はかつて、法人税収の基本税率を下げるために尽力したものの、尽力して下げた分を内部留保にされてしまったという悔しい思いがおありになる。そのため、今後の検討で内部留保が貯められた大企業に増税をシフトすることはあり得るだろう。内部留保の議論はあったが、今回の課税対象を一律としたのは非常に残念だ。

――DX移行債はどうなるのか…。

 片山 DX移行債の発行が決まり、その財源の一つとして考えているのが、いわゆるカーボントレードで、これは28~30年から始めることを予定している。なぜ時間を要するのか。企業にとって大きな負担となることから、準備に慎重に時間をかける必要があるためだ。カーボントレードについては、米国の動向はわからないが、我々はアジアでやるなら日本基準が権威を持つよう頑張っていきたい。そしてそうなれば、東京国際金融市場の目玉商品にもなり得る。

――最後に抱負を…。

 片山 日本人全体がキャピタルマーケット化することを目指す。国民みんなのお金で日本経済が循環している、という参加意識を持って、株式投資にも誰もが賢く加わっていただける世の中にしていきたい。これまで日本には紙屑にもきちんと値段が付くようなマーケットエコノミーがなかった。この点、電子記帳法やインボイスなどで合理化され、また経営者保証改革も進めることで債権の移転が容易となるほか、債権放棄も容易となっていく流れは良い方向だ。いつまでも過重債務に悩まされずに、早く経営の方向に結論を出して次に進む経済にすることで、日本は静かに革命的に変わるだろう。(了)

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