金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「波乱継続か株価回復か」

新春記者座談会2023

――新年は良い年になるかな?

  どうかな。今見えている大きな材料は、国内要因では春の日銀総裁の交代とその金融政策、岸田政権の持続力と秋の自民党総裁選だ。また、海外要因では引き続きロシア・ウクライナ戦争と中国の台湾侵攻の有無、そして米FRBの金融政策だ。これらが絡み合い、どのように金融資本市場が展開するのか、そして新たな材料が出てくるのかも注目される。

 B 確かにここ2~3年は、コロナ禍とロシアのウクライナ侵攻という予期せぬ巨大な材料が世界経済を大きく動かした。2度あることは3度あるというが、2つのビッグイベントにより世界経済が疲弊しており、かつ東西の分断という要素が今年も続くとあれば、世界大不況や第三次大戦の序章に入ることも考えられる。

 C 新年早々、物騒だな。逆に、コロナ禍がほぼ終了しロシア・ウクライナ戦争がプーチン失脚という形で終了すれば、FRBも金融緩和に舵(かじ)を取ることで株価が年末にかけて暴騰することも期待される。ただ、ロシアとウクライナの終結が痛み分けとなりロシアの領土がさらに増えれば、中国が経済悪化やコロナ対策の失敗から国民の目をそらすために、台湾総統選や自衛隊の増強前に台湾に侵攻する可能性は十分にある。

一気に変えにくい日銀政策

――Cの予想も物騒じゃないか(笑)。

  その前に、新日銀総裁によって金融政策がどのように変わるのかということだが、結論から言うと徐々にしか正常化できない。いわゆるソフトランディングだ。国債残高の巨額さや世界的な景気後退リスクを勘案すると、徐々にしか金利を上げられないためだ。何か革新的な手法があれば別だが、金利が上昇することによる財政負担の圧迫を政府は恐れており、そのため政府は日銀との共同声明を変えて「安定的に2%の物価上昇が実現する」ことで合意したい考えが垣間見られている。

 B アベノミクスだか黒田緩和だか分からないが、金融政策の大失敗だな。年末の「突然」の政策変更による市場の混乱を含め、中央銀行の世界史に残る失敗と言ってもいいんじゃないか。それを明確に表しているのが、アベノミクスの開始からここまで国債は5割近く増えたものの、GDPはほぼ変わっていないし、実質賃金は下がり続けてついに世界で20位以下にまで落ちてしまった。しかし、税収だけはしっかり増えている。江戸時代なら農民一揆だ(笑)。

 C そうした金融政策を徐々にしか変えられないから、この先もしばらくは国債残高の増加や低成長・低賃金が続く可能性が高い。ただ、救いは霞ヶ関や政治家が黒田緩和の問題点にようやく気付き始めていることや、賃金抑制の大きな原因であるROE経営も問題視し始めている。金融庁の銀行監督指針も本紙が問題を指摘してから改正するまで時間がかかったが、金融政策も昨年末にようやく改善の第一段階を歩み始めた。新総裁が一刻も早く金利を自由化・正常化させることを祈る。

 A 金利の正常化が一気にできない理由の1つとして、ゼロゼロ融資が3月に終了することもある。まだコロナ禍から本格回復していないことに加え一気に金利が上がれば倒産も増え、ゼロゼロ融資がかなりの規模で返済不能になる。私はかねて日銀政策を変えるべきだと主張してきたが、今となっては一定期間はゆっくり金利を正常化していくしかない。しかし、それには日銀の市場からの信頼回復が大前提だが。

金融面でも安保リスク

  金利の正常化に一歩踏み出したことで国内要因では少しは楽観視もできようが、海外要因、例えば中国が台湾侵攻と同時に日本国債と日本株と円に巨額の売り仕掛けをしたらどうなるのか。戦費調達の思惑から国債は売られやすく、台湾と中国にある巨額投資の没収懸念から日本株は暴落し、それらの連想から円も売られる。つまりトリプル安に乗じて中国は巨額の売却益を得ることができる。台湾の領土と金融収益の両取りだ。

――そうなった時も日本の政府は想定外だと(笑)。

  笑い事では済まされない。経済安保はようやくその概念が世の中に伝わり始めたが、霞ヶ関の取り組みや経団連の問題意識はまだ相当遅れている。また、金融面における経済安保の意識はさらに低いのが現状だ。本紙は10年以上前から、中国は日本企業の3分の1を支配下に置くとの目標を立てていると警鐘を鳴らしてきたが、多くの経済人は見て見ぬふりをしてきた。

 B 台湾侵攻と国債の売り仕掛けを勘案すると、財務省が防衛費の一定部分を増税で賄うといった姿勢は悪くはない。国債で防衛費を賄えば台湾有事に国債を売り崩しやすくなる。また、埋蔵金の金額を公表することで、売り崩そうとしたら埋蔵金で反対売買をして痛い目に合わせることができる懐刀になる。もっともそういう意識が政府や財務省にあるのかは分からないが(笑)。

「中国産BMW作戦」

  中国が水面下で密かに進めてきたハイブリッド戦略もようやく表面化しつつあり、国民もそれに気付き始めている。中国は日中友好で接近した後に「中国産BMW作戦」などで、日本人に対中防衛意識を極力持たせないように働きかけ将来は属国にしようと狙っている。「中国産BMW」とは、中国によるbusiness=ビジネス仕掛け、Money=金仕掛け、Woman=色仕掛けだ。この3つによって、経済界はもちろん役人や政治家、メディアまで中国に取り込まれており、それが中国に対するさまざまなガードを甘くしている。

 B 日中友好で中国に招かれ会議をした後に、ホテルの部屋に若い女性が現れたという経験をした人は多い。その時、ことに及んで脅迫の材料に使われる写真を撮られてしまったという話も広くささやかれている。今でも政治家の美人秘書が中国人であったり、対中ビジネスで間接的に利益を得ていたり、カジノで賄賂をもらったりしていることが表沙汰になっている。どことは言わんが、大手新聞の3紙は中国の都合の悪い記事は小さく扱い、良いことは大きく書き、大した技術もないのに技術大国と紹介するなどしており、読者の皆さんもよく読むと分かる(笑)。

 A 日本のEEZ内に中国のミサイルが撃ち込まれても文句1つ言わず、また米で危険視されているTikTokを使わせ続けており、マイナンバーカードにも情報漏えいの懸念が絶えない。経済安保面でも、高度な技術を持った未上場企業が中国人が日本で設立した「日本企業」に買収され、その技術を中国に移転するといったケースが問題視されている。

――この国は大丈夫かね…。

  平和憲法の下、70年間余り性善説でやってきたからね。すべての国は国際法やモラルを守るし話せば分かるから軍備はいらないと思っていたら、中国の香港制圧、ロシアのウクライナ侵攻、北朝鮮のミサイル乱発によってそれまでの甘い常識がドテンした。いわゆる「お花畑」は世界の非常識であることを気付かされた。しかし、日本人の意識はまだまだ「お花畑」だ。特に、政治家、官僚、マスコミがひどい。核保有を含め国民の方が問題意識を先に持っている。

 C 中国などからすれば日本の支配層に対する「BMW」が一定の成果を上げているということだろう。しかし、BMWの母国ドイツよりはまだましだ。ドイツは天然ガスをロシアに支配され輸出を中国に握られており、もはや中露なしには身動きが取れなくなっている。メルケル前首相の失政によって経済を東側に握られており、その結果、ウクライナ支援も相当消極的でウクライナやEUからの批判の的だ。日本は50兆円ともいわれる投資残が中国にあるが、経済取引の中心は米国でありエネルギーのロシア依存度も低い。

大きい国内の政策リスク

  中国もリスクだが、国内の経済政策もそれ以上のリスクだ。アベノミクスもそうだったが、わざと日本を弱くする政策をしている。黒田緩和はもとより、脱炭素化を含むバラマキ政策、ROE重視、残業時間の削減、雇用の流動化など海外から言われたことをよく考えずに鵜呑(うの)みにしててしまい、墓穴を掘り続けている。そうした政府・霞ヶ関の姿勢は、バブル崩壊の原因となったいたずらなBIS規制や時価主義、株式の持ち合いの解消の導入などと同じ構図だ。日本経済を悪くしているのは自分の頭で考えない政府・霞ヶ関の権威主義だ。

 A 権威主義というより米国の言いなりだ。世界一の軍事力で日本を守ってくれているから仕方ない面もあるが、30年余り前の「ジャパン・アズ・ナンバーワン」の時に日本を弱体化させるべく半導体産業と金融をめちゃめちゃに壊し、特に半導体は力ずくで韓国と台湾に移転させた。日本が米国より強くなっては困る一方で、韓国と台湾の経済が強化されれば、北朝鮮と中国からの脅威の防御壁となる。米国は日本より韓国を贔屓(ひいき)しているといわれるが、米国にしてみれば韓国は北朝鮮と中国に直接対峙しているわけだから当然だ。

 B しかし、バブル当時と違ってもはや日本は世界一ではないし米国を打ち負かす存在でもなく、また、米国の敵は中露であることがはっきりしてきている。むしろ米国はかつての日本にやったことを今の中国とロシアにやっている。このため、もういい加減に自分の頭で自分の国のことをよく考えて、バブル崩壊やアベノミクスの二の舞いは避けないと、今度は二流国どころか三流国に成り下がってしまう。

――霞ヶ関や政治家にその能力はあるのか…。

  微妙だね(笑)。政治家は地元民を通じ国民から聞く能力はあるが、それらを組み合わせてマクロ経済政策を作ることはできない。役人は頭は良いが権威主義であり、市場に目を凝らし現場で何が起きているのか理解する姿勢と能力に乏しいため、トンチンカンな政策を推し進めてしまう。市場と対話せずに500兆円も国債を買い込んでしまった黒田緩和が良い例だし、金融庁にしても未だに直間比率を直せない、いつまでたっても「規制庁」のままだ。

 B 日銀の最大の課題は市場との対話による信頼の回復だ。昨年末のような市場が予測できにくいことをやって市場を敵に回すようでは、お金がいくらあっても足りない。国債残高が増えるばかりだ。日銀のオペを極力行わずに、かつてのように口先だけで市場を誘導すればせいぜい日銀銀保有の国債残高は100兆円で済んだだろう。その意味では新総裁は市場をよく理解している人がふさわしい。となるとやはり日銀プロパーがふさわしいかな。民間人でも良いと思うが、市場をよく知る人ほど黒田緩和の尻拭いはしたくはない(笑)。

 A 金融庁は今回はNISAでよくやった。恒久化や1800万円の枠拡大などとりあえずは満額回答と言って良い。これで、株式の民主化が進み外国人主導相場が抑制され、金融資本市場が経済安保をてこに自国主導型になれば、防衛力の抜本強化とともに日本の安全性が増す。同時に株式投資益によって国民所得が増えるとともに、株式市場の流動化によって市場経済が活発化されればようやくGDPも動き出す。めでたし、めでたしだ。

――本当にそうなるように YCCを含めた市場規制の脱却・市場化元年になれば良いね。また、それには担保制限条項の見直しなど社債市場の活性化も不可欠だ。(B)

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