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「会計検査院とは別の機関を」

衆議院副議長
海江田 万里 氏

――衆議院の副議長となられて1年。今の国会の仕組みは…。

 海江田 国会議員が衆参各議院の議長と副議長を選ぶ際には、総理大臣を選ぶ首班指名との時と違い、無記名での投票になる。つまり投票した人の名前を記す必要がなく、そのため満票にならないこともある。しかし、私は満票で副議長の信任を得た。それだけに、国会を運営していくうえで偏った判断をしてはいけないと肝に銘じている。もちろん一議員として自分の意見はしっかりと持ち、表明もするが、何か揉め事があった時には、議長とともに公平な立場で判断していかなければならない。そのために、議長及び副議長は会派を抜けることになる。基本的に、国会はすべての物事が会派によって決められていく。例えば委員長のポストや、どの委員会に入るのかといった事も、すべて会派毎に決められていくのだが、議長と副議長には会派がないため、国会でも質問が出来ない。ただ、基本的な政治活動を行うために党籍は残してあるため、私の政党助成金は党へと入る仕組みになっている。

――この1年で難しい判断に迫られた事は…。

 海江田 今のところはないが、これからどうなるのかは誰にもわからない。この1年で残念だった事は、安倍晋三元総理大臣の国葬の件だ。本来ならば閣議前にでも報告や相談を議長や副議長に行うのが筋なのだが、その事前の相談が全くなかった。吉田茂元総理の時には、国会でその議論がきちんと行われていたからこそスムーズに国葬が執り行われたのだが、今回は事前の相談がなかったために我々としても十分な根回しが出来ず、結局、国会軽視、つまり国民の意思を蔑ろにしたと捉えられ、それが今の与党の支持率低下に繋がってしまった。しかも、閣議決定後の議長への連絡さえなかった。岸田総理が一言でも議長や私に相談してくれれば、葬儀までの流れが円滑にいくよう私としても力を尽くせたと思う。それがこの1年間で一番残念なことだ。

――国会の会期が短すぎる…。

 海江田 今国会の会期は12月10日までだったにも関わらず、11月15日時点でも正確な補正予算案が国会に提出されていなかった。それは参議院選挙直後に3日ほど臨時国会を開き、その後は国葬が終わるまで国会を開かなかったからだ。岸田総理としては国葬の問題がある中で国会を開き、色々な批判を受けるような事態を避けたかったのかもしれない。しかし、物価高や旧統一教会問題等、審議すべきことは山積している。それらを早く片付けて、早めに補正予算を組まなければ来年3月迄の執行期間には間に合わない。これは安倍元総理の時代から感じていた事だが、国会が閉幕している期間が長い。野党が臨時国会の開催を求めても、与党がストップをかけている。昔は与党が国会を開こうとすると、野党が躊躇していたものだが、今は逆になっている。

――臨時国会の招集権は内閣にあるが…。

 海江田 通常国会は年1回、1月に招集することが憲法で定められている。会期は150日間だ。他に解決すべき問題が出てくれば臨時国会の招集を決定するが、招集は内閣が行う以外にも、憲法53条によって「いずれかの議院の総議員の4分の1以上の要求があれば、内閣は、その招集を決定しなければならない」と規定されている。しかし、ここには要求から召集までの期間期限が記載されておらず、これが非常に大きな問題になっている。昨年6月には野党が要求した臨時国会の召集を3カ月も引き延ばして9月に閣議決定し、結局10月4日に招集された臨時国会で、与党は衆議院解散と内閣総辞職を宣言し、第2次岸田内閣へとつなげるという事があった。安倍政権時代や菅政権時代にも同様に召集拒否が行われている。今年は特に、コロナ問題やウクライナ問題、物価高騰など世の中で対応しなくてはならないことが沢山ある中で、臨時国会がスムーズに開かれないという様な事はあってはならない。この辺りはきちんと変えなければならないと感じている。

――国会の予算委員会を見ていると、予算とは関係のない議論に時間が費やされている…。

 海江田 予算委員会ではあらゆることについて話をすることが出来る。どういった問題を取り上げるかは政党や個人の判断であり、そこで良識のある判断をしなければ、国民世論に繋がってくることは言うまでもない。また、行政が動くためには予算が必要であり、その予算を獲得するためには一見関係のなさそうな話でも、実は繋がっていることもある。とはいえ、確かに最近は議員の不祥事などを取りあげて、それだけで予算委員会の貴重な時間が無くなり、本当に議論すべき事が出来ていないというのも事実だ。本来、不祥事を起こした議員は自ら政治倫理審査会へ出向いてその経緯を説明し、説明責任が果たせなければ、相応の懲罰を受けなくてはならないのだが、そういった議員を見る事は少ない。だから予算委員会などで追及される事になるのだろうが、それで良いのかという国民の声があるのならば、各党は謙虚にその声に耳を傾けなくてはならない。

――国民の税金が無駄遣いされていないかどうか、国政調査権を使って徹底的に調べる時期に来ているのではないか…。

 海江田 例えば、緊急時に必要とされる予備費が、本来の目的以外に使用されるという事例があるが、この問題点は予算が先に確保され、資金使途については後から報告するだけでよいという形がとられているからだ。こういった点は改善していく必要があろう。衆議院には決算行政監視委員会、参議院には決算委員会があり、それぞれに税金の使い方に対する規律を審議する委員会があるが、特に参議院では、最終的な目標を大臣になることとする議員が多い中、決算機能を強めるような取り組みは手を付けづらいという実態もある。この解決策としては、参議院議員からは大臣を出さない代わりに強大な権限を持って任務にあたってもらう様な仕組みも必要かもしれない。或いは、スウェーデンで始まったオンブズマン制度のように、高い見識を備えた第三者が国会議員になり、財政を監視していくという仕組みも一つの方法としてあろう。また、日本には会計検査院というものがあるが、森友事件の時のように、政権に対する忖度が働くことは否めない。国が政策として考える財政規律や成長率予想には非常に恣意的な面があるからだ。そのため、会計検査院とは別に、もう少し総合的に政策の合理性を検証する独立機関があっても良いのではないか。これだけ財政の借金が積みあがってきている中では、中立的な立場からの視点が欠かせない。

――最後に、抱負を…。

 海江田 通常国会にしても臨時国会にしても、一日も多く国会が開かれて、与党と野党がしっかりと議論できる場が確保されることを願っている。過去には各委員会で自由討議の機会があり、それぞれの意見を述べる場もあったが、今は国会のスケジュールがタイト過ぎて、そういった時間も無くなってきている。十分な議論が出来ないような国会では意味がない。また、米議会ではよく公聴会を行うが、日本では法律を作る時や予算を審議する際に行う程度で、基本的に公聴会はあまり行われない。各政党が勉強会として専門家の意見を聞くことはあっても、それはもともと党の主張に沿った人を選んでいるため、見解の相違にぶつかることはなく、それ以上発展しない。だからこそ委員会として公聴会を開くことは重要だ。違う意見に遭遇した時に、どのように対応し、答弁していくのか。そこに政治家としての資質が現れてくると思う。日本にとって何が一番必要なのか、色々な議論を行うことでより良い形を探っていく、そういった開かれた国会を目指し、国会改革に務めていきたい。(了)

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