金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「東京にシリコンバレー創設を」

衆議院議員 自民党経済安全保障推進本部
本部長 甘利 明 氏

――経済安全保障推進法が5月に成立、8月から段階的に施行されている。政府・自民党としての現在の取り組みは…。

 甘利 現在は、日本の経済活動・市民生活にとって欠かせない品目を選定し、それぞれのサプライチェーンの脆弱性を克服し、いかなる経済安全保障上のリスクに対しても供給不安が起きないようにする作業を行っている。基幹インフラの電気・放送通信・金融・陸海空などの事業運営者に対しても、経済安全保障上のリスクの点検をさせて、扱っている機器が安全保障リスクや緊張関係のある国からの供給ではないか、業務委託先が緊張関係のある国と関与していないかなど、あらゆるリスクを回避することを国から指示している。また、日本にとってのチョークポイントを克服すると同時に、世界にとって日本に依存せざるを得ない品目を探し、技術の構築にも取り組む。日本にしかない技術を持っているということが他国に対する抑止力になる。そのために、JST(科学技術振興機構)とNEDO(新エネルギー・産業技術総合開発機構)に補正予算で2500億円を積み増し総額5000億円とした。とはいえ、経済安全保障推進法は常にアップデートしなければならない。経済安全保障と言う言葉自身が10年前にはなかったもので、当時、私が問題提起をしたときは誰からも理解されなかったが、最近ようやく時代が追いついてきた。

――日本はサイバー防衛でも後れを取っている…。

 甘利 サイバーリスクへの対処は、日本が最も苦手にしているところだ。サイバーセキュリティの世界では、攻撃相手を特定するアトリビューションを行うが、サイバー空間で特定するためには相手側のシステムに入り込まなければならない。そもそも日本では、この行為が不正アクセス防止法違反になる。すぐにでも例外規定を作り、サイバーリスクに対処することが違法にならないようにすることが必要だ。また、各国では、サイバー攻撃を通じて対象国の世論を攻撃国に屈服するように誘導するインフルエンスオペレーションが行われている。しかし、日本国民はサイバー戦争の尖兵として乗せられてしまっていることへの意識も弱く、分かっていても反発する道もない。サイバーの世界は平時と有事の区別がなく、常時有事状態だ。日本も常に他国の攻撃を受けているし、サイバーの世界は物理的な世界とは違い、国境もない。現実世界と同じ専守防衛の概念では全く安全でなく、アクティブディフェンス(攻撃的防御)によって先手を打ち相手の攻撃を止めさせる力が早急に必要だ。

――日本はスパイ防止法がなければ、憲法で通信の傍受も禁止されている。既に憲法9条が形骸化されているといっても無視はできない…。

 甘利 憲法は法律を規定する最高法規だが、時代の変遷に伴って想定しない事態が出てきている。憲法作成時にはサイバーセキュリティという概念はなかった。国際的には、法律が時代を捉えてアップデートしていくのは当たり前のことで、憲法を変えないことを崇める極めて特異な意識が日本を覆い、憲法9条があるから日本は平和だという非科学的な、根拠もないことを言う人がいる。米国でも中国でも日本の通信の傍受をしているのに、日本だけ傍受をしてはいけないというのは、世界の実情が何も分かっていない。世界中の先進国で憲法改正をしていない国は日本だけで、国民もこの点には目を向けたがらないきらいがある。

――その意味でもセキュリティクリアランスも重要となってきた…。

 甘利 セキュリティクリアランスとは、重要な技術開発や重要情報に関係する人を事前に審査し、参加資格を付与する制度だ。もし巨額の投資をして最新技術を開発しようとしても、開発段階で他国に情報が漏れてしまったら、官民の投資が全く徒労に終わってしまう。現在は特定秘密保護法によって、政府の特定秘密に関係する公務員と関連する民間人は制約を受けるが、国際共同研究でもセキュリティクリアランスが求められ、その場合、制度のない日本人は参加することができない。欧米では民間人に対するセキュリティクリアランスが法制度に準拠した仕組みとなっているが、一部のマスコミが個人情報の保護などと煽っており、未だに世界的な常識のレベルに追いついてない。

――一方、コロナ禍では半導体不足が顕在化した。日本の半導体の生産体制をどうしていくのかも、経済安保で重要だ…。

 甘利 DXの浸透で、アナログ社会がデジタル社会に変わり、データ駆動型社会になった。長期的に見ると世界で必要な半導体の量は10倍、100倍に膨らんでいく。半導体は経済安全保障上の重要物資で、半導体というのは世の中を動かす仕組みになり、データ駆動型社会というのは半導体駆動型社会とも言えるだろう。今後の半導体のステージは3ナノの世界が広がっていき2ナノの世界も見えて来る。日本はポスト3ナノに米国の設計能力と日本の製造能力を合わせ、日米協力によって開発に挑戦していく段階だ。日本の強みは材料と製造装置にある。半導体の材料となるシリコンウエハー製品等で、日本は世界シェアの55%を供給している。日本の技術はシリコンウエハーの純度を限りなく100%に高めることができ、日本の材料メーカーはイレブンナイン(99.999999999%)と呼ばれる純度の半導体材料を供給している。これは日本の経済安全保障上、大きな武器であり、これを他国に奪われないようにするほか、生産体制を強化していかなければならない。しかし、既に世界シェアの55%を供給している日本の材料メーカーの体力では、莫大な設備投資をして生産を何倍も膨れ上がらせることは難しい。現在の売上を超える体力以上の投資をしなければならないため、ソブリンファンドを立ち上げ先端技術を持つ企業に出資するのがベストだと考えている。

――日本も米国などのように新しい技術を生み出していくことが経済安保につながる…。

 甘利 大事なことは、イノベーションが起きる生態系、エコシステムを作ることだ。それには、まずは大学を改革することを考えている。これまでの日本の大学は、自分の研究をマネタイズしてスタートアップ企業につなげていくという発想がなかった。まずは大学を改革して、大学を運営する従来の研究者に加え、経営する人を新たに置き、研究を事業につなげられるようにする。日本の国立86校の年間予算は、合計で1兆1000億円だが、例えばハーバード大学は自身の基金で5兆円を運用しており、日本と他国の研究費の差は歴然だ。そこで私は、東京に世界最大のシリコンバレーを作ろうとしている。そこにグローバルに展開できる大学のキャンパスを誘致し、さらに世界のベンチャーキャピタルや人材が集い、次々にスタートアップがデビューしていく生態系を作ろうとしている。これを今年の骨太方針に盛り込み、3年以内の実現を目指す。先端研究の成果は研究費に左右され、国からの一層の資金支援が必要だが、大学自身も研究産業の一面を自覚し、自身でも稼げるようになるべきだ。(了)

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