金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「需要不足15兆円の経済対策を」

国民民主党
代表
玉木 雄一郎 氏

――海外に比べ、わが国の賃金だけが上がらない…。

 玉木 わが国の経済政策における最大の課題は賃金が上がらないことで、国民民主党は賃金を何とか上げようということを一貫して主張している。こんなに真面目で一生懸命働いている国民が多いのに実質賃金がマイナスなのは、経済政策に原因がある。緊急経済対策として15兆円ある需要不足の埋め合せを提案しているが、需要が不足しているときにどんな経済政策をやっても無駄だ。価格転嫁の推進が叫ばれているが、需要が不足している時に価格転嫁なんてできるはずがない。供給に対して需要が不足しているときに商品が売れないのは当たり前のことで、常識的に考えたら売れない商品の価格を上げるなんて狂気の沙汰だ。その逆の現象が起こるのが理想的で、欲しい人が多くなればより高いお金を払ってでも買う人が出てくるし、そうなれば価格転嫁もしやすくなる。この考え方のもとで、われわれの考えるベストシナリオは、消費税の減税などによって物価を下げながら可処分所得を保つことだが、現政権ではそれを否定している。その代案はインフレ手当として10万円を給付することだ。物価上昇によって1世帯当たり8万9千円ほど負担が増えているので、10万円でちょうどカバーできる計算だ。2020年にコロナ対策で10万円を配ったときは合わせて13兆円ほどかかったが、それでも15兆円の需要不足を8割以上埋められる。残りの2兆円は公共投資を増やせばよい。

――消費税の減税の具体策は…。

 玉木 われわれが提案している、消費税の一時減税というのは、なにも税収を減らせと言うのではなく、今のままでは過剰な増税になってしまうので、レベニュー・ニュートラル(増減税同額)まで調整しなければならないということだ。イギリスやドイツも消費税に類似する付加価値税を減税した。今後は消費税を設計するときは上下しやすい制度にした方がよい。消費税率は物価と同じと見ることができる。例えば、1000円のサラダオイルが2000円に値上がりした場合、全く同じ商品を購入しているにもかかわらず、1000円の時の消費税は100円だが、2000円の時は税率も何も変えていないのに支払う消費税は200円と倍になる。インフレで物価が2倍になれば、同じ商品を購入したとしても消費税による税収は2倍になるが、物価高に国民が苦しんでいるなかでこれを徴収してもしょうがない。もし、物価高に合わせて賃金が上昇し、税金を払えるだけの能力が国民全体で高まっていれば良いが、負担は増えるのに払える能力が高まっていないときには減税しか道はない。

――円安・物価高はある程度容認し、財政支援を行うことが政府の基本スタンスだ…。

 玉木 経済の好循環の回し方の最初の一回転目をどこで作るかが需要だ。いわゆるトリクルダウンの理論で、規制緩和して法人税を減税するだけでは、企業が潤うばかりで国民には波及していない。やはり単純だが、家計消費の拡大から始めるのが良い。小泉政権以降言われ続けてきた大企業優先のトリクルダウンでは内部留保だけが積み上がり、家計を含めた経済への波及効果はほとんどなかった。今のままでは、景気が悪いのに物価が上昇するスタグフレーションに陥り、1970年代と同じ状況になる。一方、円安で儲かっている人や企業がいることも事実で、一番儲かっているのは国だ。財務省の外国為替資金特別会計(外為特会)は1・3兆ドルものドル資産を持っていて、円安効果で30~40兆円の評価益が出ている。国は円安で得をしたのだから、円安で困窮している人や企業を助けるための財源として使うべきだ。

――一方で、国民は野党の親中姿勢や平和外交に強い疑問を持ち始めている。今の中国をどう考えるか…。

 玉木 中国は引っ越しできない隣人なので、ある程度経済的な関係を維持することは大事だ。私は反中を訴える方のように中国人の国民性や国自体が問題だとは思わないが、3期目続投となった習近平国家主席の動向には注視が必要だ。習近平氏は実際に台湾の武力統一を考えているので、日本の中国投資が凍結されたり、日本のシーレーンである台湾沖のバシー海峡が使えなくなる可能性もある。日本や米国が予想しているより速いペースで中国は台湾に対して統一の圧力を掛けてくると想定されるが、そういったシナリオを考えて党内で議論している。

――国家安全保障については…。

 玉木 政府が国家安全保障戦略と防衛大綱、中期防衛力整備計画の防衛3文書を年内に見直すので、それに対抗できる国民民主党独自の安全保障戦略を、遅くとも12月初めまでにまとめ、それを岸田総理に提言する予定だ。与党が言えないようなこともしっかりと政権に届けていく。今や安全保障に対して現実的な戦略を提示できない政党には、票が入らない時代になってきた。われわれはあくまで現実的な外交、安全保障、エネルギー戦略を打ち出していきたい。

――原発にミサイルが落とされたら核兵器と同じ威力を持つ。これに対する抑止力として核兵器を持つべきではないか…。

 玉木 日本が独自に核兵器を保有するよりも、核抑止が日米で機能するようにすべきだ。現在の核抑止は地上配備型のミサイルではなく、射程が1万2000キロのSLBM(潜水艦発射弾道ミサイル)で担保されている。かつては非核三原則によって米国の核搭載艦が横須賀に寄港するのも問題となったが、私は「持ち込ませず」の定義を整理した方が良いとの考えだ。潜水艦からのSLBMがあれば核抑止は働くので、日米のいざというときの協力関係を築くことが必要で、地域の緊張が高まったときに、日本と米国がどう対応するのか、具体的なオペレーションを詰めて、日本がいつでもスタンバイしているという姿勢を外国に見せることが一番効果的だ。今から独自に核ミサイル開発をしたり、核弾頭を持ったりするのはコストが莫大であるうえ、国際的な批判もあるため、現実的ではないと考えている。

――習近平は台湾を統一した後に尖閣諸島をねらっている…。

 玉木 中国が台湾と同時に尖閣諸島を侵略するシナリオは現実的ではないと考えている。まずは台湾で、その後、尖閣諸島へ侵攻するだろう。台湾防衛について日本がどう対応するのか、日本がどこまで関与するのか、詳細な議論を詰めなければならない。また、尖閣については、海上保安庁の船だけで尖閣周辺の大海原を守るのは限界がきている。中国が過敏に反応するので、海上自衛隊の船を近づけるのは慎重にやった方が良いが、海上保安庁と海上自衛隊が連携を取れるようにすべきだ。米国では沿岸警備隊と海軍が連携できるが、日本には有事の際に防衛大臣が海上保安庁を統制できるとされるが、必要な政令や統制要領も制定されておらず、一度も合同演習をしたことがない。もうひとつの憲法9条とも呼ぶべき海上保安庁法25条では、「この法律のいかなる規定も海上保安庁又はその職員が軍隊として組織され、訓練され、又は軍隊の機能を営むことを認めるものとこれを解釈してはならない」と決められている。海上保安庁と海上自衛隊は燃料の融通すらできず、統合運用ができないようになっていて、あまりに時代遅れだ。

――わが国では、憲法21条で通信を傍受できないが、海外からはスパイ工作を受けている…。

 玉木 現在のサイバー防衛は、アクティブサイバーディフェンスといって、こちらから積極的に情報を取りに行かないと効果的なサイバー防衛ができないが、憲法21条に定められた通信の秘密のなかでどこまでこれが認められるのかというのは、憲法審査会のなかで議論する必要がある。これは憲法9条の議論より急ぐべきだ。サイバー空間における情報操作や情報収集はこれからの主戦場になる。ロシアとウクライナの戦争でも、ディスインフォメーション(偽情報)やフェイクニュース、悪意に満ちたプロパガンダなど、情報戦が繰り広げられている。日本がサイバー空間の安全保障を確保するためには、憲法21条を憲法9条並みに解釈改憲することも考えられるが、これも憲法審査会で事前に議論を進めておかなければならない。

――ベーシックインカム制度の導入を提案されている…。

 玉木 ユニバーサル・ベーシックインカムを日本で実施した場合、100兆円くらいかかってしまい、現実的ではないが、対象を限定した3つのベーシックインカムを提案する。1つ目は子どもが生まれた世帯に対するベーシックインカムで、現行の児童手当を拡充し、所得制限をなくし、中学3年生までの給付対象を高校3年生までに延長し、金額も月当たり1万5000円に揃える。これで子どもがいる世帯の基礎的な所得保障を行っていく。2つ目は高齢者向けベーシックインカムで、厚生年金を十分受け取れる人は心配していないが、基礎年金だけの人は満額受け取っても月6万5000円程度に過ぎず、これでは生活ができない。高齢になっても最低限の生活を守る所得保障制度についての議論は必要だ。3つ目は求職者向けのベーシックインカムで、AIやDXによって失業者が増加し、新しい仕事や産業に移動しなければならない人が多く出てくることに対応する。新しい仕事に就くためにはトレーニングが必要で、学び直しや職業訓練を受けること自体は大切なことだが、その間は収入がなくなる。新しい仕事に向けてトレーニングしている間は、一定の所得を保障することで、将来への希望を持つことができるはずだ。これら3つのベーシックインカムであれば10兆円で済む計算で、消費税換算では4%分だ。もちろん消費税だけで賄う必要はないが、消費税であれば3%程度を財源に充てるのが良いのではないか。いざというときのセーフティネットを整備することで、かなり人生に安心できる。子育ての不安と職を失ったときの不安、老後の不安の3つの不安を解消させることで、消費の伸びにつながり、経済が好循環すると考えている。(了)

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