一水会 代表 木村 三浩 氏
本紙 編集局長 島田一
島田 ロシアとウクライナの戦争が長期化しているが、その背景にはソ連の復活を望んでいるプーチン大統領の強い願望があるとの見方がロシアの周辺国ではもっぱらだ。ロシア国境に近いEU各国は、プーチン大統領はウクライナを制圧したら、次は自分の国に攻めてくるとの警戒感を改めて強めている。同時に経済が貧しかったソ連時代には戻りたくないという思いも強い。このため、プーチン大統領が周辺国の経済を富ませる方法でソ連復活への道を作れれば良かったが、ウクライナに軍事侵攻したことで改めてロシアに対する警戒感が強まってしまった。フィンランドやスウェーデンがNATO加盟を申請したのは武力によるソ連復活への警戒心の強さを象徴している。
木村 ロシアのウクライナへの特別軍事作戦は正当防衛という面がある。ロシアは2月24日、ウクライナ右派や米国に支援されたゼレンスキー・ネオナチ政権の攻撃からウクライナの親ロ派住民を守るために特別軍事作戦を取った。その結果、その行為は国際社会から 「侵略」と捉えられている。もちろん、主権国家に軍隊を派遣するのは一般的に「侵略」の定義に当てはまるが、この8年間に及びウクライナから親ロシア地区(ドンバス地方など)への攻撃が行われたという事実があり、プーチン大統領はゼレンスキー大統領が欲するNATOの東方拡大への防御を行ったまでだ。ロシアも外交条件を満たせば、いたずらに周辺国へ攻撃をすることはない。ワルシャワ条約機構はソ連の崩壊とともに消滅したが、それならばNATOも本来は解体しなければならないはずだが、NATOはそうしていない。多くの西側メディアはロシア悪玉論に立って、定期的にロシアが脅威である姿を報道しているが、ウクライナには140社の戦争広告代理店が入っていて、競うようにロシアの悪玉論を世界中に報道していると言われている。逆にプーチン大統領がまともなことを言ってもマス・メディアは取り上げることは少なく、ロシアは宣伝合戦で負けてしまっているかもし れない。
島田 確かにウクライナの東部にはロシア人がたくさん住んでいて、以前からウクライナ人とロシア人の間で価値観の違いや争いがあり、紛争化してきた。現在の戦争下においてもウクライナ国内では、反ロシアが鮮明な西側地域の国民と、国外逃避を望まない多くの東側住民では戦争に対する評価も違うようだ。また、東部に住んでいるロシア人を救えという大義名分は十分にロシア国内で通用するし、ロシア人が大多数を占めているクリミアでは「平和理」に併合に成功した。
木村 ウクライナはモザイク国家を形成しており、立国以前から親ロシア派と反ロシア派がグラデーションを描くように混在していることを理解する必要がある。現在のウクライナは、91年12月に独立に関する国民投票が行われ、独立が確定したことで建国した。その後は、クチマ政権(1994~2005年)などEUやNATOへの加盟を緩やかに目指しロシアをけん制する政権もあった一方、ロシアと穏便な関係を築き共存を目指す親ロシア派もあり、ウクライナ国内でさまざまな勢力が混在していた。全体としては、旧ソビエトの一員としてEUやNATOには加盟せず、ややロシアに近いポジションにとどまる従来通りの状況を続けようとする考えが多かった。ただ、反ロシア(反ソビエト)運動は元々存在しており、西のガルチィア地区でバンデーラという人物は、第2次世界大戦前後にソビエトに対抗してウクライナ民族解放運動を主導し、ヒトラー主義者となって戦っている。
島田 ポーランドサイドの分析によると、ウクライナはEUに加盟したポーランドの著しい経済成長を羨ましく思い、とにかくソ連時代から収奪されてきたロシアから離れEUに加盟することを熱望した。しかし、その西側への接近がプーチン大統領の琴線に触れ、かつロシアがウクライナに侵攻できる口実を作ってしまったというわけだ。東部地区の紛争停戦合意であるミンスク合意も所詮は同床異夢であり、ロシアから離れたいウクライナのゼレンスキー政権とロシアの衛星国としておきたいロシアのプーチン大統領との現地住民を巻き込んだ紛争だった。これが大きくなったのが現在の戦争だ。
木村 ウクライナはゼレンスキー政権でバランスを失った。遡れば2010年、親ロシア派のヴィクトル・ヤヌコーヴィチ氏が大統領選挙で選ばれたが、2014年にキエフの「マイダン革命」というクーデターで失脚し亡命する。「マイダン革命」の非合法状態から、東部のドネツクやルハンスクで親ロシア派が独立を望むようなり、混乱状態に陥った。これを解消するため、「マイダン革命」後、オレクサンドル・トゥルチノフが臨時の大統領を務めたあと、選挙でペトロ・ポロシェンコが大統領になり、混乱を抑えながらロシアと対話を進めた。ポロシェンコは独立を望む東部の立場も尊重し、ミンスク合意ができた。その後、ポロシェンコの任期が終わり、2019年にウォロディミル・ゼレンスキーが大統領に選出された。ゼレンスキー氏はクリミアや東部すべてをロシアから取り戻すと主張し、ミンスク合意を無視し続けた。また、EUやNATOに加盟することも希望し、ウクライナが急速に西側に傾き、元々モザイク国家でバランスを崩しそうだったウクライナは、ゼレンスキー政権樹立でより脆弱になってしまった。
島田 東部地区の地元住民の意思がどこにあるのか、仮にロシアの衛星国としてウクライナからの独立を望んでいるとしたら、それはロシアからのプロパガンダや軍事的圧力により形成されたものでは無いのか。ウクライナとロシア双方の軍事・外交政策や領土争いが絡んでなかなか第三国からは分かりにくい。しかしながら、今回のような軍事力による侵攻は国際的には評価されないし、ましてや平和主義を掲げる日本は軍事侵攻を否定しなければいけない。それは「平和理」に行われたクリミア併合とは異なる次元だ。
木村 ウクライナ大統領府顧問であるオレクシイ・アレストビッチ氏は、ウクライナがNATOに加盟できなかったなら、「ロシアと3回も戦争をして、NATOに加盟を認めさせるしかない」と指摘し、ロシアの軍事行動以前から戦争の準備を始めていた。アレストビッチ氏によれば、ウクライナの計画として、ロシアと3回戦争するという。第1回は今現在、その後停戦を挟み第2回は2025~2026年、最後は2030~2032年ごろだ。一方、プーチン大統領としては、クリミア帰属は住民の意思を踏まえた正式な合意の元で成り立っているうえ、東のドネツクとルハンスクも独立志向にあり、ミンスク合意を壊され、ウクライナのアゾフ連隊により虐殺を受けており、ウクライナこそ合意を破って戦争を準備・画策していたとの立場だ。東部ではロシアのワグネルという民間部隊が入って親ロシア派を保護していたが、西側は欧米の訓練を受けた正規軍を動員して、また、アゾフ連隊は日本の公安調査庁もテロ組織と認めていた団体であり、ウクライナは積極的に火の粉を撒き散らしているとロシアは思っている。
島田 まず地元住民に今の政府が悪いという思想を植え付け、それを解放するのが我々だと言ってその地方を戦争による犠牲を最大限抑え併合するやり方が、いわゆるハイブリッド戦争だ。クリミアはその成功の典型例だとも指摘されている。この手法は、北朝鮮による韓国、中国による沖縄や関西地方にも利用されている。また、プーチン大統領はKGB出身で、これまで様々な策謀をめぐらしてきた。足元では、ロシアの新興財閥のトップが次々に不審死を遂げている。そうした経歴から、クリミア大橋を爆破したのも自作自演で、それによりウクライナへの空爆の口実を作り、また近い将来は戦術核を使用する布石とも見られている。
木村 プーチン大統領の言ってきたことを「すべて嘘つき」だとするのは、私は間違っていると思う。プーチン 大統領の発言をウクライナ側が捻じ曲げていることも見受けられる。オレクシイ・アレストビッチ氏が3回戦争すると言っているように、ウクライナは既に戦争のプランを立てていたのであり、そのプランに基づいて武器が西欧から輸入され、軍の訓練が行われているようでは、ロシアとしても見過ごすわけにはいかなくなる。一方でゼレンスキー大統領もクリミアの奪還を主張している。ゼレンスキー政権はクリミアを取り戻すと言い続けなければNATOからの武器が手に入らなくなるが、現実的にクリミアを取り戻すのは難しい。なぜならば、クリミアの住民の8割が住民投票でロシアに帰属することを支持しているからだ。ただ経済制裁によって、人々は不自由な生活を強いられている。この困難は西側のやり口だが、これがなければロシア帰属に不変はない。しかし、人間の意思を変えさせる制裁という犯罪を西側が行っているのだ。これまで、クリミアはリゾート地で海外からの観光客がお金を落とすが、ウクライナがキエフにそれをすべて吸い上げてしまっていたことがある。ウクライナは貧乏な国で、ドル箱であるクリミアを手放したくなかったが、ゼレンスキー政権とクチマ前政権の地方経済政策が良くなかったことも、クリミアの住民がウクライナではなくロシアを選択した理由の1つだ。
島田 プーチン、ゼレンスキー両大統領ともに最早ひくに引けない状況になっている。その結果、紛争地域の住民の犠牲がますます大きくなるとすれば、どこかで折り合いをつけるのが賢明であり、この役を日本政府が買ってでるぐらいのパフォーマンスをしなければ国連の常任理事国入りなどは夢のまた夢だ。私論だが、東部4州は独立しクリミアと合わせロシアの衛星国とし、ウクライナはEUとNATOに加盟しNATOの軍事基地を設け、双方痛み分けとする。その点、4州の住民は自らの意思で4州から出て移住することを可能とする。これでプーチン大統領の野望を一時的に抑え、そのうち彼が高齢で死ねばロシアの脅威は去る。
木村 現実的な解決方法は、第3国が間に入って仲裁することだと思う。ウクライナはロシアからのミサイル攻撃で甚大な被害を受けているが、ゼレンスキー氏は親ロシア地区の主権を放棄できず、ロシアも損害がひどく、プーチン大統領の面目にかけて兵を引くに引けない状況だ。本当なら米国が仲裁に立つべきだが、米国産の武器を使ってほしいがために、外野から呼び掛けるのみに留まっており、ヨーロッパの主要国も様子見を決め込んでいる。第3国の候補として、トルコやスウェーデン、ノルウェーなどが仲裁に入る可能性がある。双方が受け入れられる停戦の条件は、ゼレンスキー氏が提案している、2022年2月24日以前の状態に戻し、矛を収め、領土問題について15年間の交渉をすることだ。ドネツクとルハンスク、クリミア、ヘルソンは、国際的には認められないだろうが、一時的にロシアが認める独立国家として成立し、ウクライナも主権を放棄したわけではないものの独自の地位を認め、その後15年間の交渉を行うということであれば、プーチン大統領の顔も立つだろう。ウクライナは表向きにはロシアとEUのどちらにも与しない中立が成立し、表面上はNATOとの関係がなくなることでプーチン氏の面目も立つ。ウクライナは裏では軍事や貿易でEUとの関係を維持することになるため、ゼレンスキー氏もウクライナの安全保障を保ち国土復興を大義として認めるだろう。ただ、ウクライナ側に3つの戦争計画プランがあるとすれば、第1期は来年ごろ終わる。第2期は2025年ごろにまた始まることになる。国際社会にはロシア側が侵攻を止めないという、一方的な見方があるが、西側諸国の報道に左右されず、侵攻はウクライナ側によって仕組まれ画策されているという認識も必要だ。