金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「金融の役目は経済の転換促進」

金融庁
監督局長
伊藤 豊 氏

――金融監督上の問題意識は…。

 伊藤 金融機関も一(いち)事業会社であり、その点他の業態にも言えることだが、とりわけ金融機関にとって重要だと考えているのは、どういう経営戦略やビジネスモデルを展開し、その経営戦略やビジネスモデルを展開していくための経営基盤や営業基盤、財務基盤、人的な基盤およびしっかりとしたリスク管理体制を有し、そしてこれらすべてが一体として機能しているかどうかという点だ。高いビジネスモデルを掲げてもそれを実現できる基盤がなければならず、またリスクが過大になれば当然経営は困難となる。また忘れがちとなりやすいが人的な基盤を有しているかは非常に重要で、人的な基盤がないのに理想を実現することはできない。一方で、リスク管理においては、よく営業が先行してしまい、リスク管理ができていなかった、チェックができていなかったケースをこれまでたくさん見てきた。このように各要素は相互に連携している。逆を言えば、基盤がしっかりしていれば高度な経営戦略を立てることは可能で、背伸びもできる。基盤自体は可変的であり、外部人材の採用や提携も戦略や展望に含まれる。つまりビジネスモデル高度化を目指すならば、並行して基盤を整えなければ難しい。織田信長は桶狭間で勝利したが、兵がついてこなければ、今川義元に1人でやられていた。後続部隊はいるのか、補給船はいるのかどうかを考えて攻め込まなければならず、そうした点を我々はチェックしている。

――監督のやり方は…。

 伊藤 これらすべてを監督することは大変だ。ただ、経営戦略や基盤についてトップがどのように考えているかはとても大事だと考えている。またトップが考えていることが部下にも伝わっているか、さらに顧客や取引先にも支持されているかも大事だ。これらが成立していなければ経営戦略は上手くいかないためだ。こうした要素について我々はトップとのコミュニケーションを通じて聞いているし、最近では現場を対象としたアンケート調査も実施しており、しっかりと意思疎通が図れているかもチェックしている。もちろん綺麗にすべてできている金融機関は少なく、評価は必ずしも優(ゆう)でなくてもよい。しかし、不可だと危うい。そうした金融機関に対しては、モニタリングレポートやフィードバックレターなどのコミュニケーションツールを通じてメッセージを発信している。

――金融育成庁を掲げている…。

 伊藤 とくに地銀関係では、制度的に統合を促進したり、システムのオープン化、人材マッチングなど支援施策を進めている。また顧客本位の業務運営の原則についても、ある意味、経営者をサポートしている。昔は検査に入り、不備を指摘すると、どこまで本音かはわからないものの、頭取からお礼を言われることがあった。銀行自らが気が付かない不備を指摘するコンサルティングとしての機能を有しているためだ。今は不備を見つけて是正するだけではなく、金融機関が発展してもらわないと困る。そのため、産業育成、事業者支援の側面がより強くなっている。ただ、基本的には金融機関がいかに健全に基盤を整備し、良いサービスを提供し、顧客にとっても地域社会においても良しとされ、サステナブルにビジネスを発展していくことを望んでいるし、そうすれば我々も安んじていられる。

――業態別の課題は…。

 伊藤 主要行は地域金融機関と比べて事業範囲が広い。海外に進出していれば、海外当局や海外マーケットにおける課題もある。そうした課題に対し、日本本社が全体をどうやってガバナンスしているのか、リスクを関知しているのかといった体制面を確認している。海外については、リーマンショック以降進めてきた海外当局との連携もさらに進めていかなければならない。どの国が発火点になり、世界的な危機を招くかわからない。それぞれのマーケットで何が行われているかを把握すべく、海外当局との情報交換を密にしている。また銀行だけではなく、保険会社も証券会社も同様のことが言えるが、業態を跨がっていたりする。その点、全体をマネジメントできているかどうかが我々の関心事項だ。

――地域金融機関の課題は…。

 伊藤 地域金融機関におけるビジネスモデルは一様ではない。メガバンクグループより複雑さは小さいが、それぞれに応じた経営戦略、基盤の確認が必要だ。また、地域金融機関は地元の取引先と成長していくことが必要だ。近年、急速な規制緩和を図った。これによって、地域金融機関は地域商社や人材仲介も営めるようになり、いろいろな経営戦略を立てることが可能となっている。また合併の補助金も提供し始めている。どれを使い、どうやって顧客や周辺に貢献し、リターンを得るかが今後の勝負となる。ただ、本当に経営が危うい地域金融機関に対しては我々が出て行かざるを得ない。そうしたことが起こらないことを期待したい。また、金利の上昇を受けた運用リスクについても監督を強化していく。

――証券会社の課題は…。

 伊藤 社会のデジタル化で環境が変化し、昔ながらの証券会社のビジネスモデルは薄れてきているが、各社とも試行錯誤の状態が続いている印象を受ける。環境が変わり、顧客のニーズが変化しているため仕方の無いことだ。ただ、基本的にはどうやったら顧客が満足するかを中心に据えなければサステナブルとはならない。焼き畑農業のような真似をすれば顧客の支持は得られない。やはり顧客が満足するようなサービスを提供し、良い関係を構築する、もしくはデジタルで使いやすいサービスを提供することなどが考えられる。手数料を取ること自体が悪いわけではない。ただ、顧客を満足させることができなければ、証券会社のみならず証券市場全体の参加者が減少することとなる。

――保険会社の課題は…。

 伊藤 基本的には同様で顧客の満足に尽きる。ただ、節税保険は保険会社の仕事ではない。保険商品ではないのに保険の免許を取った者が保険会社のふりをして販売しないでいただきたい。顧客は満足するのだろうが、国税庁が入ったら継続はできない商品を販売すべきではない。そのコストを払う価値があるのか、その責任を持てるのか。保険の免許を取り、保険販売のフリをしている者は、保険の免許を返上してからそうした行為をすべきだ。本当に顧客のためになっているのかを真剣に考えていただきたい。また外貨建て保険については我々としては運用商品として位置付け、投資信託と同様にKPIの公表を求め、運用商品らしく販売すべきとしている。他方で25年を目処にソルベンシーマージン比率を経済価値ベースとする。これは各社がこれまでやっていたものをルール化するものだが、システム対応など大変な面もあるかと思う。ただ、保険会社の健全性をよく見るという観点でやるものであるため、ぜひ協力していただきたい。

――デジタル化については…。

 伊藤 デジタル分野における発展は、金融との親和性が高い。そのため、今後も影響は拡大していくと考えている。金融庁としても様々な部署を設置して対応している。また国際的な議論にも参加し、遅れを取らず、むしろリードしていこうとも考えている。ただ、暗号資産から始まり、メタバースやWeb3.0など様々なことが加速し、かつ国境がなくなっており、対応は難しくなっている。そうしたなか、とりわけデジタル分野における課題として、マネーローンダリング、本人確認を意識している。例えば、メタバースにおいて本人確認が不十分なまま、アバター同士でお金のやり取りが行われた場合、国境を越えて悪いことに使われたりする可能性はある。こうしたことが起こらないように、どのように技術的に解決できるのか、規制を設けるべきかが課題となっている。

――コロナや地政学的リスクなどこれまでにない不安定な局面にある…。

 伊藤 コロナは資金繰り支援から始まり、債務過多の事業者への前向きな投資資金の調達やアフターコロナに合うビジネスモデルへの転換支援に変わり、また金利上昇や円安進展で事業環境が大きく変化しているなか、今後のビジネス展開や防衛策も検討していかなければならないが、ここに金融機関の役割がある。一方では、3年間据え置きのゼロゼロ融資の返済が23年の春から本格化するため、返済期限の延長や借り換えなどの対応も必要となる。アフターコロナに向けては、ゾンビ企業を淘汰するということではないが、生産性を上げれば賃金も上がる。コロナを大きなきっかけとして、日本経済の転換点とすることが金融機関の役目だ。(了)

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