金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「国債管理政策を総点検し継承」

財務省
理財局長
齋藤 通雄 氏

――政府は、脱炭素社会に向けた新たな国債の発行を検討している。そのポイントは…。

 齋藤 欧州では、政府が発行するグリーン国債をグリーンボンド市場のベンチマークとするような取り組みも始まっている。世界各国で環境分野への取り組みが加速する中、日本でも、「GX経済移行債(仮称)」が新たな国債として検討されている。しかし、具体的には未だ殆ど白紙状態だ。というのは、その資金使途によって、グリーン国債として発行できるのか、トランジション国債になるのか、或いはそもそもそのような国債として認証されないかもしれないからだ。それは予算編成プロセスに大きく関わってくる。理財局としては、その辺りを横目で見ながら、この新たな国債をどのような形で出せるのかを考えているところだ。また、「GX経済移行債」の償還財源は別途議論されていく予定になっている。その償還財源が何年後にどれくらいの金額なのかといった議論の成り行き次第で、何年物の国債が発行できるのかが決まってくる。我々としてはその議論を見守りながら考えていくしかない。「GX経済移行債」をどのような形で発行しうるのかは、資金使途と償還財源次第だ。

――今後の国債管理政策について…。

 齋藤 先ず、日本銀行の金融政策のこれからについて、我々が何か具体的なスケジュールやシナリオを想定しているというようなことは一切ない。一方で、今の日銀の金融政策が未来永劫続いていくことは無く、いずれ長期金利は、昔のように市場の動きによって決まっていく世界に戻っていくだろう。そうなった時に、国債発行当局としての課題は、いかに安定的に低コストで資金調達できるかだ。それは私がかつて国債課で課長補佐や課長を務めていた時代に行ってきたことと大きな違いはない。橋本内閣から小渕内閣に変わった時には国債の発行額が急激に増えたが、それを安定的に消化していくために、発行当局として出来る事を行い、しっかり管理してきた。そういった、これまでの経験の中で積み重ねてきたものは、きちんと整理されている。

――低コストで安定的な資金調達を行うために必要な事は…。

 齋藤 近年は日銀の金融政策によって低コストで発行出来ているが、その分、今の市場関係者の多くは「動かないマーケット」に慣れてしまっている。マーケットが再び金利の動く世界に戻った時に安心して取引できるようにするためには、流動性と厚みのあるマーケットが必要だ。それをもう一度きちんと育てていかなければならない。そのために、今、国債両課が一丸となって海外の国債管理政策の研究などを進めているところだ。特にトレジャリー(米国債)は私が課長補佐を務めていた時代にも参考としていたものであり、米国の発行当局がどのように国債を発行しているのか、円滑な資金調達のために何を行っているのかを見ながら、日本の制度改革を行ってきた歴史がある。そういったものを改めて研究することで、今後に役立てていきたい。

――今後の国債市場は「動くマーケット」を経験している人たちの力が必要になってくる…。

 齋藤 再び到来し得る国債市場の「動くマーケット」に備えて、昔を経験した人材を確保するのか、若い人たちの勉強の場として経験させるのかは別の話として、マーケットが金利の動く世界に戻っていくとなると、割安なのか割高なのかなどきちんと相場観を持って、押し目買いに入ったり逆張りしたりする人が必要になる。順張りする人ばかりでは市場が一方通行になってしまうからだ。しかし、そういう人材をどのように確保していくのかは、我々発行当局だけでどうにかできるものでもない。市場関係者の方々と情報交換・意見交換しながら、民間でもそういった体制を整えてもらう必要があると考えている。

――「GX経済移行債」とは別に、50年国債など新たな国債を発行する可能性は…。

 齋藤 長い目線で見て、それなりのニーズが期待でき、流動性と厚みのあるマーケットを作り上げることが出来るものでなければ新商品として導入することは難しい。そういった観点で、今直ちに期待できそうな新商品はなかなか見当たらない。また、50年債については、日本では超長期ゾーンは20年、30年、40年の3本建てと既に品揃えが豊富にある。国債の入札スケジュールもかなり過密になっている。そんな中で単純に新商品を追加して入札スケジュールがさらに込み合う事になると、それはそれで、また大変なことになる。来年度の国債発行計画については、発行額もこれからの予算編成の過程次第であり、財投債やGX経済移行債についてもどうなるかわからないため、今の段階で話せるようなことは殆ど無いが、需要と供給を見ながら安定的に消化できるように、厚みと流動性のあるマーケットにしていくという事に尽きる。そして、それは毎年やってきた事とあまり変わらない。

――マイナス金利政策の影響で、第二非価格競争入札限度は15%から10%に引き下げられた。コロナ禍の今、これを再び戻す予定は…。

 齋藤 マイナス金利であるにもかかわらず利付国債として発行するためにクーポンを付けると、オーバーパーでの発行となり発行収入金が増え、国債発行による資金調達は計画での想定以上に増えてしまう。そこで、第二非価格競争入札限度を一旦下げるとともに、最低クーポンを下げることでオーバーパーの度合いも減らした訳だが、もともと、第二非価格競争入札は、プライマリーディーラー向けの特典という性質を持つものでもある。市場関係者のニーズによって変えていくことはあり得ると思うが、今の段階では、第二非価格競争入札限度の割合を元に戻してほしいという声はそれほど届いていない。

――超長期国債はスティープ化している。この需給関係をどのように見ているのか…。

 齋藤 イールドカーブの形状や長短金利差についてはコメントする立場にないが、超長期国債の需給については、発行する立場としては、入札結果が大きな参考となる。札が集まらなければ発行のロットが多すぎるという事を意味する。その観点で言えば、今の超長期債の入札が弱いとか、札が流れているとか、そういう感じは受けておらず、足元の状況において超長期が発行過多とは言えないと考えている。

――最後に、局長としての抱負を…。

 齋藤 先ずは、今の時点での国債管理政策の総点検を実施しておきたいと考えている。というのは、私は長い間この国債関係に携わりながら、これまでのキャリアを築いてきた。しかし、私の後にこのポジションに就く人物が、私の様な経歴を持っているとは限らない。総点検してまとめ上げたものを、私の時代に実行に移せるかどうかはわからないが、これまで長く国債関係を歩んできたものとして、その経験をしっかりと後任に引き継いでいきたい。それが私の責務だと思っている。(了)
※8月29日に伺いました。

▲TOP