金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「サステナブル評価で世界上位」

日本格付研究所(JCR)
代表取締役社長
髙木 祥吉 氏

――そもそもESGとはどのような概念か…。

 髙木 ESGは、投資家が投資判断においてリターンだけではなく企業の社会的責任も考慮するという、いわゆる責任投資の視点から生まれた概念で、企業経営には環境(Environment)や社会(Social)、ガバナンス(Governance)の3つの観点が必要だという考え方である。現在では、環境問題や社会問題が深刻化するなかで、さまざまな文脈で使われている。厳密に定義すれば、サステナビリティという大きな枠組みのなかに投資家主導のESGと国連が定めるSDGs(持続可能な開発目標)がある。環境問題や社会問題に対する投融資を指す場合には、国際的にはサステナブル・ファイナンスと呼ぶのが正しい。

――ESGの観点から投資家が具体的に注目しているのはどのようなポイントか…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスが急拡大するなか、第三者評価や信用格付けに関連して、市場が関心を持っているポイントが3つある。1つ目はESGが信用格付けにどのような影響を与えるか、ESGと信用格付けの関係性についてだ。信用格付けではこれまでもESGの要素が織り込まれていたと考えられるが、今後はいかにシステマティックに信用格付けに織り込むかという観点が重要である。2つ目は、ESGをうたう金融商品の信頼性だ。乱立するサステナブル・ファイナンス商品に対して、国際的な基準に合致しているかを第三者の視点から専門的・かつ一貫性を持った評価をすることだ。3つ目に、企業がESGに対する全般的な取り組みをスコアリングするESG格付けがある。JCRは当該商品に対応していないが、企業の公開情報だけで企業のESGへの取り組みに点数を付けることが主となるため、情報の品質の問題、ESG評価各社の評価の適切性に未だ課題があると思っている。

――JCRではどのような取り組みを行っているのか…。

 髙木 JCRは信用格付会社であるので、信用格付けにESGがどのように影響しているのかを分析することが重要だ。JCRは、ESGの要素を格付けにシステマティックにできるだけ織り込むような取り組みを行っているほか、信用格付けのリリースとは別に、「ESGクレジットアウトルック」という新たなレポートを国内の格付会社では初めて提供を開始した。このレポートでは、ESG要素がそれぞれの信用格付けにどのような影響を与えるか、詳細を開示している。具体的には、環境や社会の要素において、多くの企業で共通して重視している項目を選定し、事業基盤や財務基盤への影響度を数値化して示している。

 信用格付業とは別に、企業が資金調達する際にグリーンやソーシャルといったESGのラベルを付けるいわゆるサステナブル・ファイナンスに対する第三者評価のリクエストも増えている。この要請に応えるため、JCRは2017年から独立した部門を設置し、サービスを開始している。また、より組織立った対応を可能とするため、個別に企画機能や広報機能も持たせた本部制を2021年から採用している。案件として代表的なものは、グリーンボンドやソーシャルボンド、サステナビリティボンドなど、資金使途を環境・社会に資するものに限定する金融商品がある。他にも、サステナビリティリンクファイナンス、トランジションファイナンスやインパクトファイナンスなど年々金融商品の種類が増え、多岐にわたっている。マーケットがまだ発展段階にあるため、JCRが提供する第三者評価を活用していただくことにより、投資家が安心して投資できる仕組みづくりに貢献できていると自負している。金融商品も公募債、長期借入金、証券化商品とさまざまな商品に対応している。例えば、発行体は起債時に、自身の信用リスクに関連して信用格付けを取得し、資金使途や中長期戦略におけるESGの取り組みを訴えたい場合には、JCRのサステナブル・ファイナンス評価も取得するといった活用をしていただいている。

――信用格付機関の業務範囲が拡大している…。

 髙木 ESGをめぐり世界的な潮流が形作られるなか、信用格付機関の間でもこの大きな変化に対応できるかが問われている。JCRは21年のサステナブル・ファイナンスに関する社債の評価件数で、日本でトップ、世界でも上位に位置しているという公表データもある。サステナブル・ファイナンス評価本部には、十数名が所属している。現状では、信用格付けによる収益を上回る段階ではないが、今後急速に伸びていくだろう。業容拡大に伴い新たな人材も募集している。信用格付けなら発行体の財務状況や経営状況を専門とするアナリストが対応するが、サステナブル・ファイナンス評価では多様な人材が必要で、環境や社会問題に対する専門的な知識を持つ人を採用したいと思っている。従来の金融の枠にとどまらず、グローバルな基準に合致する資質も求められ、専門性とグローバル性を持ち合わせた人材が必要だ。

――ESGの概念には一致するものの、経済安全保障の観点から見ると問題があるケースが出てくる可能性がある…。

 髙木 国際的な議論のなかで、グリーン性やソーシャル性について本質的な議論をしなければならない。例えば、エネルギーにおけるカーボンニュートラルが一例として挙げられる。ドイツでは、エネルギーミックスにおける天然ガスの比率を増やし、石炭の比率を減らしたが、ロシアから天然ガスの供給を止められてしまった途端に、石炭火力の稼働を増やさざるを得なくなった。そして、EUでは原子力発電をサステナブル・ファイナンスのタクソノミーに加えるという方向性が打ち出された。日本でも、エネルギー基本計画を基にエネルギーの安全保障の観点から電力・ガスについて経済産業省が移行ロードマップを策定していて、これらは重視されるべきだ。グローバルで2050年までにカーボンニュートラルを達成するという大きな目標を見据えていれば、その過程で一時的に化石燃料が残るのは、地理的特性や産業構造・資源の制約を考慮すればやむを得ない側面があると考えている。どの時点で化石燃料から次世代燃料に移行するのかといった、2030、2050年を見据えたロードマップがしっかりしていれば、その過程にはある程度企業の自由な経営判断があっていいはずだ。

――今後のJCRの経営については…。

 髙木 サステナブル・ファイナンスをめぐる大きな市場の変化に対応して、新しい業務とあわせて信用格付けの方にも好影響が出るように努力して発展したい。財務上の計数だけではなく、信用格付けにもESG要素を取り入れないと、社会的に評価されなくなっている。この点、信用格付けは3年の単位を基本としているが、サステナブル評価は2050年のカーボンニュートラルといった長く広い視点で企業を評価することが求められる。JCRでも考え方や意識を変え、さまざまな視点を取り入れた業務運営を行っていきたい。(了)

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