金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「柔軟な経営で地元振興に貢献」

JR九州
代表取締役社長
古宮 洋二 氏

――コロナ禍で鉄道事業は厳しい状況にあったと思うが、御社では22年3月期で黒字転換となった。その理由は…。

 古宮 JR九州の連結営業収益に占める鉄道旅客運輸収入の割合は3割程度であり、不動産事業や流通・外食事業をはじめとした、その他の事業の収益が大きなウエイトを占めている。22年3月期は、鉄道旅客運輸収入の緩やかな回復とマンション販売の好調な推移、私募REITへの当社保有資産の売却等により、連結営業利益は黒字となった。もともと当社の鉄道事業は、昭和62年の会社発足時から赤字で、発足時の営業赤字は280億円にも上っていた。その後、九州内では高速道路の整備が急速に進み、平成8年には鹿児島、長崎、大分など、九州内の主要都市を巡る高速道路が完成した。我々はその頃を在来線の鉄道収入のピークと考え、鉄道以外の事業展開に急ピッチで取り掛かった。そういった背景から現在のような多角的経営となっており、それが今に活きている。

――現在、一番大きな収益となっている事業は…。

 古宮 賃貸・分譲を含むマンション事業や駅ビル事業だ。すでに九州の主要な駅では、駅ビルの開発を終えつつあるため、今後は、主要駅周辺でのマンション開発、あるいは主要駅から少しエリアを広げたところでの商業施設の開発や新駅の設置など、新規開拓に力を入れていきたい。ただし、九州ではローカルエリアでの人口減少が著しく、都市部を中心に不動産開発は進めていく考えだ。また、JR九州のフラッグシップトレインとも言える「ななつ星?九州」のチケットの売れ行きは好調だ。2022年10月からの新コースにおいて最高級の部屋は3泊4日2名様の御利用で340万円と高額だが、申し込みは殺到している。長時間の飛行を強いられる海外旅行ではなく、国内でゆっくり贅沢に旅行を楽しみたいという方が沢山いらっしゃる。私自身この列車の開発には責任者として携わっており、乗車料金の設定には色々な意見があったことを記憶しているが、販売から1~2年の平均抽選倍率は30倍という程の人気を博した。中でも1部屋しかない最高級の部屋への申し込みは一番多く、その抽選倍率は200倍や300倍という時もあったほどだ。

――今秋に開業予定の西九州新幹線について…。

 古宮 西九州新幹線の開業は今年度の最大イベントだ。車両は現在東海道・山陽新幹線で運行されている「N700S」を6両編成にしたもので、内装や外装に力を入れて独自性を出している。長崎県や佐賀県の方々にとっては待望の新幹線だ。特に、有名な温泉があるにもかかわらずこれまで鉄道がなかった佐賀県嬉野市は初めて通った鉄道が新幹線という事で大いに盛り上がっている。これまで在来線で約2時間かかっていた博多-長崎間は、西九州新幹線の開通によって最速1時間20分にまで短縮される。また、九州の新幹線は駅間の距離が短く通勤や通学に利用する乗客も多いため、隣接特定の自由席の乗車料金は870円と設定し、利用しやすいようにしている。

――SDGsに対する取り組みや、IR活動については…。

 古宮 公共交通機関である鉄道の利用はCO2排出量の削減、環境負荷の低減につながるということで、鉄道は「人と地球環境に優しい乗り物」として社会的に注目されている。実際、当社グループは、2050年CO2排出量実質ゼロを目指しており、資金調達の面においては、昨年からグリーンボンドを活用するなど取り組みを強化している。コロナ禍の影響で、21年3月期の営業収益はコロナ前の6割程度にとどまり、200億円強の赤字も出したが、22年3月期でようやく92億円の経常利益を上げることができた。今期は300億円の経常利益を見込んでいる。今後、鉄道旅客運輸収入が想定通りに回復していけば、資金調達にもそれほど大きな問題はないだろう。現在、四半期報告書を廃止する案が議論されているが、これまで同様、IR等を通じて積極的な情報開示を行っていく姿勢は変わらない。

――今後、注力していくビジネスは…。

 古宮 コロナ禍で鉄道の利用が減少し、駅に人が集まらなくなると、駅中のコンビニや商業施設への立ち寄りも減り、ほぼ全ての事業が共倒れとなった。そこで、昨年、人流に依存しないビジネスを強化するために、物流事業へ参入した。現在は物流施設の保有と賃貸の事業を中心に行っているが、九州でも宅配の需要は急増しており、将来的に良い運送会社との巡り合わせなどがあれば事業提携や合併などで、さらに新しいビジネスを広げていきたい。実際に今、ドローンで鉄橋の検査などを行っていることもあり、ドローンを活用したビジネスなども考えている。

――今後の抱負は…。

 古宮 これまで鉄道事業は基本的に大きな浮き沈みがないビジネスであったが、コロナ禍では50%の減収というこれまでに経験したことのない落ち込みを見せた。これを乗り切るために、我々はこれまで経費削減などに取り組んできた。今後は、会社全体で新しい発想を生み出し、メンテナンスコストを下げられるようにしていきたいと考えている。例えば、これまで線路をひたすら歩きながら目視で行っていた検査を、営業列車にカメラをつけてチェックするような取り組みも始めている。新しい技術を使う事で、人間の負担を減らしていくことはこれからのビジネスには欠かせない。こういった取り組みをもっと色々な分野に広げ、メンテナンスコストを下げていきたい。我々の会社の規模は鉄道会社の中ではそれほど大きくない。そのため、機動的な運営が可能だ。この規模のメリットを十分に活用して、かっちりと固めすぎることなく柔軟な経営を心掛けていきたい。

――新社長として投資家の皆様へ伝えたいことは…。

 古宮 本年3月に2022年度~2024年度の新たな中期経営計画を発表し、国内外の投資家に対してIR・SR活動を実施した。海外の投資家は九州の地理感はあまりないと思うが、鉄道沿線に都市が並んでいて、鉄道沿線の開発余地が大きいということを我々の強みとしてアピールしている。新たな中期経営計画では、2019~2021年度の前中期経営計画で実現できなかった570億円の営業利益を、何としても実現させたい。そして、我々のフィールドが九州全体であるというメリットを大いに活用して、人の集まるところや、これから活性化しそうな地域に投資を行い、それぞれの地元の産業振興にも貢献できるようなビジネスを展開していきたい。(了)

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