金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「環境対応や人材投資がカギに」

ニッコンホールディングス
代表取締役社長
黒岩 正勝 氏

――原油価格の高騰が続いているが、エネルギー価格高騰が御社の業績に与える影響は…。

 黒岩 燃料価格の高騰は物流業界への影響は非常に大きいが、70年代のオイルショックに比べ、今回は燃料の値段が上がっているだけで、供給難に至っているわけではない。トラックというものは動かさなければただの鉄くずだ。業績に与える影響は、燃料単価1円当りで月に400万円程度で、2021年度は10億円程度のコスト上昇があった。ただ燃料価格については、多少のタイムラグはあるが、主要取引はサーチャージ制により価格調整され、その他の取引先についても荷主との交渉により価格の適正化を図っており、次第に緩和されると期待している。

――米中デカップリングを受けて国際分業から自国生産の動きが出てきている…。

 黒岩 米中のデカップリングについては、顧客のサプライチェーンの変更等により当社が間接的に影響を受ける可能性はあるが、今のところ大きな変化はない。物流は以前に比べ構造が複雑になり、ビジネスモデルが日々大きく変化していることから、一概に自国生産に回帰する動きがあるとも言えない。ただ、コロナ禍が物流業界に与えた影響は大きく、海外都市でのロックダウン、コンテナ不足もあり、需給がひっ迫した。当社の業績にも間接的な影響が相当あり、自動車産業や住宅建材、精密機器の輸送などが中心の当社は一時的に業務量が減っているのは事実だ。一方で、物流というのは半導体やコンテナが不足すると、逆に仕掛品が積み上がったり、部品の一定程度の物量をストックしておこうという動きになり、業績面ではプラスに働いた。全てが悪い方向に行くわけではなく、どこかが悪ければ、別の点で良い面もある。需給バランスは競争市場の経済法則で、あまりにも物価が高騰するなら需要が先細りするだろう。最終的に運ぶ・運ばないは顧客荷主が判断することだが、物流に対する需要自体がなくなることは決してないので、コンテナが不足しているならば、コストを掛けてでも空輸ケースもある。それ以外にも生産や販売自体を取りやめる、生産地を変えるといったことも考えられる。そうした刻々と変化する物流の状況を読んで経営をしている。

――物流における省力化を進め、コストカットに取り組んでいる…。

 黒岩 省力化はソフトとハードの両面から積極的に進めている。コストカットの定番として人件費削減が挙げられるが、そもそも私どもは人手不足にあり、今以上に人員を減らす余地はない。ソフト面でいうと、作業の効率化によるタイム・パフォーマンスの改善に努めている。当社の取組として、一人の人間に複数の職務を兼務させることにより、迅速な意思疎通や重複作業の削減など、生産性を向上させることに成功している。また電子稟議書の導入・印鑑レスなど、システムによる効率化を進めている。さらに、優秀な人材を確保するためには賃上げが喫緊の課題だ。バブル期は例外としても、高度経済成長の時のように給料が毎年10%くらい上昇しなければ、今いる優秀な人材も他の企業に流出してしまうだろう。一方、ハード面では、ロボットによるピッキングなど、物流施設内の省力化を積極的に進めていく。ただ、私どもが扱う貨物は多岐にわたり、メーカーの物流子会社のように決まった物のみを扱うわけではない。どんな貨物にも対応できる汎用性の高いロボットが求められるが、そのようなロボットを導入するには莫大なコストが掛かる。人間の手で行った方が安く済む場合もあり、人件費とロボット導入を天秤にかけることになる。

――海外への進出については…。

 黒岩 海外に進出して顧客から言われることは、「日本並みのサービス品質で、現地並みの価格」でやってくれということだ。逆であればいくらでもできる。また「日本並みのサービス品質で、日本並みの価格」で海外へ進出していく場合も、米国やヨーロッパなどの先進国でないと価格的に成り立たない。東南アジアでも既に現地の業者のレベルが高くなってきたため、私どもが出て行く余地はそれほど大きくない。あくまで日本をビジネスのベースに考えており、日本の顧客の事業戦略に応じて必要なら海外にも展開していく。海外は1987年に米国に進出して以降、現在9カ国、29の現地法人がある。2022年3月期の海外ビジネスの連結売上は267億円で、全体に占める比率は13.5%。フォワーディング業務は国内売上に計上しているので、国際業務という観点ではもう少し割合が大きい。当社の海外展開の考え方は、主要拠点が東京にある企業が国内の他の地方へ進出していく場合と同じ理屈だ。例えば、東京の工場を、賃料の高騰などを理由に地方に移すといった場合に、私どもは地方の物流についてもお手伝いするが、それが海外になっただけだと考える。もともと、当社の事業戦略は、総合物流事業者としてワンストップであらゆるサービスを提供するというもので、海外事業を単独で伸ばすというより、当社の業界別、顧客別の事業戦略の中で、日本メーカーの海外進出に合わせて日本の品質を提供していくのが我々の仕事。現地の物流のみならず、流通加工や通関業務など、国内と海外のロジスティクスの流れの中で付加価値をつけていく。

――「物流は経済の鏡」とも言われる。現在の経済をどう見ているか…。

 黒岩 モノの動きで日本経済を見ても、今のままでは厳しい状況にある。まず、そもそも日本でモノを製造していない。さらに、少子化で需要が細っていく。高度経済成長を支えたように、輸出産業を育てていかなければならない。少子高齢化は先進国共通の課題だ。日本は物質的に豊かになり、既にあるモノの代替需要はあっても新規の追加需要がない。社会が便利になりすぎてしまったので、現状ではこれ以上の成長が見込みづらくなっている。

――今後取り組んでいく事業は…。

 黒岩 今後も従来と同様、顧客のニーズに機動的に対応し、付加価値を上げていくだけだ。他の企業がやらないことに需要がある。例えば、産業廃棄物のリサイクルなど静脈物流だ。儲けは後から付いてくるだろう。巣ごもり需要で宅配業界が活発になっているが、元々BtoBを得意としているので、極端にBtoCに舵を切ることはない。仮にEC業務を手掛ける場合も最終消費者に1件1件宅配していくことは考えておらず、あくまで取引先が問屋から通販業者の大規模倉庫に変わるだけだ。また、現在は連結売上の半分を自動車産業に依存しているが、自動車産業の売上を減らすことなく、新規荷主を拡大することで他の業種の取り扱い比率を上げていく。付加価値の高い医薬品や流通加工を伴うメーカーの製品など、利益にこだわった事業展開をしていきたい。重要なのは、物流業界の先行きを見通した場合、2024年問題による労働力不足への対応、ESG経営による環境対応や人材投資が成長のカギになる。これらの問題に対処できない企業は淘汰され、イノベーションによる変化を続ける企業のみが生き残ることができるということだろう。

――M&Aを活用した事業拡大は…。

 黒岩 自社で一から展開すれば10年掛かる事業も、既存の事業を手に入れられれば、すぐに展開できるように、時間を短縮するための手段としてM&Aを活用している。それが金額に見合うか見合わないかだ。案件があれば積極的に進めていきたいが、買収先あってのことなので、簡単にはできないだろう。当社のM&A戦略は、運輸事業をコア事業として、枝葉の事業を拡大させるというのが基本で、全国ネットワークの空白地域に対する輸送基地の拡大、メーカーの物流子会社など新規荷主の拡大につながる案件をターゲットとしている。また事業の多角化についても、運輸事業を中心とした川上・川下への事業展開を考えている。

――今後の抱負は…。

 黒岩 会社を発展させるにはさまざまな手段があるが、最終的には地道に一歩ずつ進んでいくしかない。第12次中期経営計画では、23年3月期に売上高2300億円、営業利益230億円という目標を掲げたが、コロナ禍の景気低迷、半導体不足、海上コンテナ不足、燃料高と矢継ぎ早に課題が出てきたため、計画の進捗は約1年遅れとなっている。当社はもちろん将来的に日本一、世界一の物流会社を目指しているが、道筋を描くのは簡単ではなく、必ずしも規模ではなく質を重視していきたい。ここでいう経営の質というのは、交通安全、仕事の品質、環境投資など社会とサステイナブルに共存していくなかで、従業員が活き活きと活躍できる環境を整え、会社を発展させるということだ。ただ、忘れてはいけないのは、営利企業として利益を上げ続けるということが大事だ。当社自身と従業員、株主が求めているものは全く同一だと考えており、今後もそれぞれのステークホルダーが豊かさを享受できるよう積極的に事業を展開し利益を極大化していく。(了)

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