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「解雇の金銭解決には断固反対」

日本労働組合総連合会
会長
芳野 友子 氏

――日本労働組合総連合会(連合)が自民党寄りになってきていると報道されているが…。

 芳野 先日、自民党政務調査会の「人生100年時代戦略本部」に出席したことをマスコミ等では「異例」とし、連合が自民党寄りになってきていると報道している。しかし、過去にも連合は自民党に呼ばれてこのような意見交換を行ったり、連合会長が自民党の党大会で挨拶をしたこともある。「人生100年時代戦略本部」への出席についても、私が連合会長に就任した当初から依頼を受けていたものであり、騒がれるようなことは何もない。連合の方針は変わらず、組織内議員がいる立憲民主党と国民民主党の2党と連携を取っていく。また、統一戦線を掲げる綱領や、安全保障や社会保障、経済対策といった基本政策が連合とは全く異なる共産党と手を携えることはない。

――労働組合の組織率は低下してきている。その背景は…。

 芳野 現在、組織率は17%を下回っている。理由の一つに働き方や雇用形態が変わってきたことが挙げられる。正社員が減少し、非正規雇用やフリーランスが急増してきた中で、組織化の取り組みが追い付いていない。また、分社化や業務のアウトソーシングといった企業モデルの変革への対応が遅れている部分もある。近年、「曖昧な雇用」によって労働基準法で保護されない人は確実に増加しており、連合としてはそのような方々を如何に組織化していくかを考えているところだ。この点において昨年、「Wor-Q(ワーク)」という連合ネットワーク会員制度を新設した。労働組合の枠組みではなく、フリーランスや「曖昧な雇用」で働く人たちと緩やかにつながるしくみで、共済制度も導入した。これは年会費3000円でフリーランスの方々も共済の保障が受けられるサポートシステムだ。現在400名程度が加入しているが、認知度はまだまだ低い。もともとフリーランスという働き方を選ぶ方々は個人で動くことを好み連帯を煩わしいと感じる人が多いのかもしれない。しかし、制度的には良いものなので、口コミやSNSなどを通じてもっとこの輪が広がってほしい。そして、将来的にはこのようなネットワーク会員も、きちんとした法律の下で安心して働くことが出来るよう、政策制度の策定に取り組んでいきたい。

――非正規雇用の方々への対応は…。

 芳野 正規、非正規といった雇用形態にかかわらず、すべての働く人に労働組合に入ってもらいたいと考えており、労働組合がある企業では、その企業の組合が非正規雇用で働く仲間の組織化に取り組んでいる。具体的には現在、連合の構成組織と全国47都道府県に所在する地方連合会が2025年までの組織拡大対象を定め、それぞれの目標に向かって、同じ職場で働く仲間の組合加入を進めている。一方、労働組合がない企業で働く方々に関しては、フリーダイヤルやメールによる労働相談で、困り事や組合づくりの相談に乗っている。相談は、地方連合会や構成組織でも受け付けているので、ぜひ利用してほしい。

――男女平等参画への対応について…。

 芳野 連合にはジェンダー平等推進計画があり、2030年までに意思決定レベルにおける女性の参画率を50%にすることをめざしている。女性役員の多い組織のほうが、新しい視点が入り幅広い課題に対応できているという調査結果があり、女性の声が反映しやすくなるという強みもある。50%という目標は国際組織ではすでに達成できている数字だが、連合では現在34.5%だ。百貨店やスーパーマーケットを組織しているUAゼンセンや日本教職員組合などは女性役員の比率が高いが、製造業や運輸業等では圧倒的に男性の比率が高い。そもそも従業員全体における女性の割合が低ければ女性役員の数も少なくて当然なのだが、それには歴史的な背景がある。これまで女性は長期雇用の対象ではなく、採用者数自体が男性よりも少なかった。なぜなら女性が結婚や妊娠・出産によって休職や退職していく可能性が高かったからだ。それが良い悪いにかかわらず、社員の教育投資というコスト面から考えて、長期で働いてくれるかどうかわからない女性に会社として活躍の場を設けるという考え方が昔は弱かった。その後1992年に育児休業法が施行され、女性が働き続けることが出来るようになったが、この法制度が浸透するには時間を要し、全体的に女性の採用者数も少ないままだった。そのため、女性は有期・パートなど非正規雇用の仕事に就かざるを得ず、職場における男女平等参画が遅れたという経緯がある。

――今では政府の補助金などもあり、育児休業制度を取り入れやすくなっている…。

 芳野 コロナ禍となり在宅勤務が普及することで、男性も家事育児にかかわるようになるだろうと期待していたが、ふたを開けてみると、男性の家事育児時間が増えたのと同じくらい女性の家事育児時間も増えていて、女性に負担が偏っている状況は変わらない。日本には性別役割分業意識が根強く、簡単には払しょくできないのだろう。ただ、歩みは遅いが確かに男性の育児休業取得者も増えてきている。例えば子育てのために1年間の休業期間が必要だとして、母親と父親で半年ずつ休業したり、職種によって一年間の長期休業が難しい場合は、休業期間を短くして短時間勤務で働くといった制度もあり、今は色々な働き方が可能になってきている。少子化による人手不足感を補うためにも、企業は人材を大事に育てていくことが求められており、女性が働き続けられる環境が整ってきた。働き続ける女性が増えたことの延長線上として、今、女性の組合役員が増えてきているのだろう。また、男女間の賃金格差は、女性の勤続年数と女性管理職の数が少ないことが理由だとされている。したがって、長期に亘って働くことの出来る環境を整えていくことが重要だ。労働組合のある会社では、常に組合が会社と協議しながら職場環境の改善を進めているが、特に労働組合のない会社では、女性は出産を機に退職せざるを得ないケースも多く、実際に第一子出産を機に約半数の女性が退職している。また、会社を辞めると次は非正規雇用として働かざるを得ないような実態もある。そのため、育児休業制度の周知に加え、いったん退職しても正規雇用で働けるような政策が必要だ。

――ベーシックインカムと解雇の自由化を組み合わせて導入するような政策や、解雇の金銭解決も議論されているが…。

 芳野 連合はこの両方について断固反対している。ベーシックインカムの導入については、全国民に同額の現金給付を行う案や、最低限の給付を行いつつ個別の制度による給付を行う案などがあり、共通認識が図られているとは言い難い。他方で、障がいや傷病、高齢や一人親家庭などそれぞれに対応した支援は連合でも引き続き重要だと考えている。また、解雇の金銭解決について、労働契約法第16条には「客観的に合理的な理由を欠き、社会的通念上相当であると認められない場合は、その権利を濫用したものとして無効とする」と明記されている。労働契約の解消を金銭で解決するような制度には断固反対だ。労働条件は公正にあるべきものであり、労働組合は一人一人の雇用をしっかりと守っていく。

――最後に、抱負を…。

 芳野 コロナ禍となったことで、弱い立場の人たちがより明確になった。それは非正規雇用で働く方や曖昧な雇用で働くフリーランスの方や一人親家庭など、とりわけ女性が非常に多い。昨年は生活に困窮して自殺する女性が増えたというショッキングな調査結果も発表された。私たち労働組合は本当に弱い立場で働く人たちの処遇改善に力を注いでいかなければならない。各加盟組合がそれぞれの会社の中で日々労使で話し合って改善を進めていくとともに、連合は、労働組合のない企業で働いている皆さんのために活動をしていく必要がある。労働者としてはもちろん生活者の立場で運動を展開していきたい。(了)

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