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「台湾有事の際の難民課題に」

石垣市長
中山 義隆 氏

――今回で4期目の市長当選となった…。

 中山 前回2018年の3期目就任を目指した選挙の際は、私の対立候補として反中山の自民党現職県議と革新系現職ベテラン市議の2候補が立ち、彼らを破り私が当選したものの、対立候補2人の獲得票を単純に足すと私が負けているという状況だった。そのため、今回の選挙に向け相手側は、2つの陣営が手を結び対立候補を1本化する図式が生まれた。これは、2014年11月の沖縄県知事選で、連敗していた革新陣営が保守系那覇市長の翁長さんを候補者とし、共産党など革新派がそれを後押しする形で翁長知事を誕生させた「オール沖縄」の構図と同じだ。実際に石垣市長選よりも先に行われた宮古島市長選では、この図式がうまく成立し「オール沖縄」系が勝利した。ただ、石垣市に関しては中途で候補の保守系前県議が病気で亡くなってしまい、新たな候補として、保守系市議が擁立されたが、彼の保守思想が強いために一部の革新派が離反。最終的に候補者と革新派が協定を結ぶことになったものの、この協定は革新派の支持を得るため革新寄りの主張となり、対立候補の保守色が薄れ、元保守で革新系といった形の候補となった。結果として、今回の市長選は、これまでで一番厳しい戦いとなったが2454票差で勝利し、前回の選挙での相手側の得票を合計した票数よりも上回ることができ、4期目再選させていただいた。

――3期目の実績が評価された…。

 中山 今回の選挙は2月に実施され、多くの高校3年生が18歳となり選挙権を持っている状況だったため、高校生ボランティアを募るなど工夫をし、選挙に行ってもらおうと考えた。生まれて初めて選挙をする高校生に対して恥じない選挙戦にしようと、地方の選挙でよくある誹謗中傷ネタをばらまくような相手を攻撃することを行わないようにした。また、実績についてはコロナ前まで観光客を増やし地元経済を伸ばしてきたことに加え、3期目のコロナ対策を評価してもらったと考えている。観光が中心で回っている石垣市においてコロナの影響は大きかったが、ワクチン接種を沖縄県全体と比べて2倍以上のペースで進めたほか、PCR検査を市独自に整備するなど、しっかりとコロナ対策を実施してきた。今回の選挙の最大の公約として、3回目のワクチン接種を迅速に終わらせて観光客を呼び戻し、5月のゴールデンウイークにはコロナ前まで経済を回復させると宣言した。こうしたコロナ対策の実績が経済界、観光業界の方をはじめ、市民にご理解いただき、4期目もお任せいただいたのだと思う。

――コロナ禍の収束の兆しが見えないなか、観光客の足は戻ってきている…。

 中山 石垣市への客足は、3月に入りコロナ前の6割ほどまで回復した。石垣市民の70%が3回目の接種まで済んでいるため、受け入れる側としてはコロナの重症化の心配をする必要がなくなってきている。さらに、石垣市では陽性者が確認されたときに、接触者すべてを無料で検査する体制を整えた。積極検査を行っているので新たな陽性者が出てはいるが、小規模にとどまっており、大規模なクラスターに発展することはない。感染が確認された人のほとんどが沖縄本島や本州へ旅行に行った方で、市中感染で拡大しているものではなく、それにより病床がひっ迫していることもない。このため、ぜひ石垣島へ観光に来て欲しいと思っている。

――石垣市の人口も増えている…。

 中山 地方創生に力を入れていて、全国の離島でも珍しく人口が増えている自治体となった。石垣島は生活環境が整っており、観光をはじめとした経済も発展しつつある。コロナの影響はあるものの、元々は出生率も高く、再び観光産業が伸びれば人口の社会増も見込めるだろう。また、子育てをしやすい環境を整えるなかで去年4月に待機児童をゼロにできた。これは沖縄県内の市では初の実績だ。

――世界的に安全保障への関心が高まっている…。

 中山 中国機による台湾領空侵犯などもあり、自衛隊の配備について市民の中では容認する意見が多数を占めるようになった。われわれは、4期目の選挙運動をしながら現職市長として尖閣諸島を訪れた。野党からは、外交への影響を心配した反対の声もあったが、現職の今しかできないと思って決行した。妨害が入らないように極秘に準備を行い、東海大学の海洋調査船を使った。これは外洋を自由に航行できる船で、法的に問題はなく、海上保安庁とも密に連携をとり、非上陸を条件に行った。石原都知事時代に東京都が行った10年前の調査を引き継ぐ形で、漁場としての可能性や海洋汚染の程度などを調査し、とても価値ある調査となった。選挙戦で対立候補からは、政治の私物化だと批判され、「中国の領海侵入が月に1回ほどと落ち着いているのに中国を刺激するな」と抗議された。ただ、中国の領海侵入などは年に1回であっても許せるものではなく、そうした批判を行うこと自体が中国を利することになる。このため、選挙で信任を得たこともあり、次回は夏に同様の調査を実施すると宣言をしている。

――ロシアによるウクライナ侵攻に呼応し、新たな中国の動きはあるのか…。

 中山 尖閣に関しては、新たな動きは見られていない。ただ、ロシアのウクライナ侵攻に連動して台湾方面では動きが出てきたようだ。ロシアの要求通りにウクライナ情勢が解決するのを国際社会が認めてしまうと、次は中国が台湾に侵攻していくだろう。そして、台湾侵攻の際には、台湾を挟み撃ちにするため、尖閣諸島が利用されると考えられる。台湾は国土を大きな山が縦断しているので、尖閣諸島から山の東側を、大陸本土から西側を攻撃すると見ている。さらに、侵攻が実際に行われれば、台湾にいる2300万人をこえる人口の多くが漁船などを利用してでも避難民として日本の沖縄県、石垣市へ流れてくることは間違いない。人口5万人の島でそれだけの避難民をどう受け入れられるのか。また、パスポートがない方が入国した場合、中国の工作員が紛れ込んでいても区別がつけられない。石垣市では4年前、台風による光ファイバーケーブル断線により、大規模な通信障害が起きた。石垣島の海底ケーブルは沖縄本島から宮古島などを経由して周りの島々をループ状につないでおり、1本が断線しても別の1本で、最低限の通信はできるようになっているはずだった。ただ、そのときは通信できるはずのケーブルが与那国島の土木工事の事故で切られており、2本のケーブルが切れ、固定電話を含め一切の通信が取れなくなった。これは後からわかったことで、当時は状況がわからなかったので、台風を利用した工作員によるテロの可能性も考えた。結果的には不慮の事故だったが、これが台湾進攻の際に避難民に紛れ込んだ工作員により意図的に行われたら、島外との通信は一切取れなくなり、国家安全保障上の大きな脅威になる。

――国は何をすべきなのか…。

 中山 国に対して、尖閣諸島の実効支配を示すことができる施設を作って欲しいと伝えている。例えば灯台や無線の中継局などで、自民党の勉強会などで話すと多くの国会議員の皆さんが賛同されている。石垣市では独自に、石垣市尖閣諸島情報発信センターという資料館を作った。石垣港離島ターミナルにあり、無料で開放しているので、離島へ訪れる際に立ち寄ってくださる方も多い。ただ、これも国が動かないために石垣市が作ったが、本来ならもっと大きな資料館を国の予算で作るべきだ。とにかく、ロシアのウクライナ侵攻で多くの国民の皆さまが理解されたように、日本周辺でも安全保障や政治リスクは確実に高まっている。そうした危機意識を持って政府は迅速に対応してもらいたい。(了)

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