金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「横浜以外の都市とともに発展」

キタムラ
代表取締役社長
北村 宏 氏

――今の横浜をどう見るか…。

 北村 今の横浜も素晴らしい街だと思っているが、それを放っておくだけでは横浜が良くなっていくとは限らず、何もしなければ成長が止まってしまう。横浜市民はIR誘致というビッグチャンスを得て、5年間いろいろな形でIRを推し進めてきたにもかかわらず、IR推進派の市長候補が敗れたことで残念な結果になってしまった。これはIR誘致で我々推進派が浮かれてしまったことが原因だと反省している。私は、IRがダメなら他のことをやろうと、横浜港開港200周年に向け、151周年から毎年開催している「Y151~Y200」という市内最大級の「ハマフェス」により注力している。同様に15団体で立ち上げた関内・関外地区活性化協議会は今や参加団体は55団体まで拡大した。

――IRをどう評価するか…。

 北村 IRは、今まで横浜で積み重ねてきたイベントのほんの一部分であるにもかかわらず、仕掛けてきたすべての街づくりのなかでIRだけが突出してしまったことが失敗の原因だ。しかし、横浜は東京と違う発展をしなくてはならないし、横浜だけで発展するわけではなく、川崎や東京、湘南、小田原、箱根など近隣都市と一緒になって発展していくべきだ。民間事業者に同じようなことを言ったら、なぜ横浜以外のことを考えているのだと言われるが、横浜だけで客を呼べるはずがない。横浜活性化の志を持つ私の仲間、15~20歳下の若い世代が、10年後、20年後の横浜の未来を考え、今着々と進めている。横浜は伸びしろのある街だから、東京や他の大都市と同じことをやってはいけないし、グローバルな特色をどんどん出していくべきだ。地方から来た学生の声を聞くと、横浜市のIRには賛成する声が多い。それだけ横浜を真剣に見ているということだ。心強いと思う。

――現在の市政については…。

 北村 近年の12年間は素晴らしかった。積極的に企業の誘致が行われ、多くのイベントも開催されてきた。長い目で見て次の世代を考えたときに、多少苦しくても、市政として進めなければならないことがある。子育て世代をいかに呼んで、子育てをしやすい街に変えていくべきだし、横浜市単体ではなく、神奈川県全体で考える必要がある。今以上にいろいろな意見をこれから取り込み、横浜の経済人が横浜市の活性化のために動くようなスローガンが求められる。

――街づくりで重要なことは…。

 北村 どんな事業でも時代とともに進歩する必要がある。街やブランドは磨いていかなければ光らず、時代に合わせて変化していかなければならない。例えば、横浜市に約2700の公園があるが、子育て世代に目を当てて、きれいでバリアフリーなトイレを整備すべきだ。ハンディギャップを持つ人達にも配慮したまちづくりが求められる。それやこれや街づくりの積み重ねも1つの地域貢献につながっていくし、それがまた活性化につながっていく。

――一方、社業の小売業はオンライン展開が主流になりつつある…。

 北村 現在、キタムラは全国に35店舗。これまでは自社の店舗とスタッフで丁寧に売っていくマーチャンダイジング(MD)を中心に展開してきたが、例えば高速道路のサービスエリアでの店舗展開など、時代によってMDは急激に変化し、店舗設計や売り方も変わってきている。また、時代はオンライン展開がベースとなったMDに変わった。このため、現在はアナログとデジタルの両方を攻める必要があり、私はよく「アナログとデジタルの間のカオスを嗅げ」と言っている。いたずらにオンライン展開させただけで商品が売れることはなく、実店舗などのアナログな手法によりブランドを浸透させ、そのブランド力をベースにオンラインを展開していくことが求められている。従来の日本の商人は客に気に入られようと常に研究を重ねてきたが、そういったモノづくりだけではなく、売り方も常に進化していかなければならない。

――コロナ禍でよりオンライン展開が求められるようになった…。

 北村 コロナ禍で、緊急事態宣言により店舗の営業停止をせざるを得ない時期もあり、厳しい状況もあった。そんな状況下で、先ほど述べたようにオンライン事業を徹底して強化したことが奏功した。またコロナ禍により、オンライン上で下見をしてから来店されるお客様の増加など、買い物の仕方にも変化が見られ、SNSの強化も合わせて行っている。こういったなかで、今まで培ってきたノウハウに、若い世代の新しい発想力をプラスして、キタムラも常に進化し続けなければならないと考えている。また、キタムラではエコバッグの展開拡大やエコ素材を使用した商品づくりなどを通して、SDGsに取り組んでいる。なかでも、横浜市がごみ削減の為に行っている「ヨコハマ3R夢(スリム)」プランに賛同し、オリジナルエコバッグを製作している。今後もキタムラらしいモノづくりを通して、SDGsへの取り組みにも注力していく。

――キタムラの将来像は…。

 北村 将来像は、キタムラの名前さえ残っていれば何をやっても良いと考えている。数十年前、スターウォーズの1作目を初めて見たとき、「遠い昔、遥か彼方の銀河系」の登場人物たちはバッグを持っておらず、いずれバッグ屋は廃れるだろうと気が付いた。しかし、服と靴はまだ利用されていると思い、バッグ以外のアパレルも手掛け始めた。新しいアイディアを取り入れ、商売の軸を変えていかないと商売は劣化していく。だから若手には、新しいチャレンジをし、いろいろなことに携わることが大切だと常に伝えている。片方だけに重心を置きすぎると、人間は崩れてしまう。時代の流れに素早く対応できる柔軟さが必要だ。同様に横浜市の活性化についても、時代の先を読み、かつ横浜市のことだけを考えるのではなく、大きな広い視野で前進させていくことが望まれる。(了)

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