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「子育て支援で地域活性化 」

明石市長
泉 房穂 氏

――明石市の人口は9年連続で増加し、特に子育て世帯の増加が目立つ。好循環の秘訣は…。

  端的に言えば、市民から預かっている税金を市民のために使うだけだ。まさに市民に必要な施策のために税金を使う。市民の税金で雇われている市長を含めて公務員は、知恵を出し、汗をかいて市民にお戻しする。よく市役所で言っているが、預かっている税金に、知恵と汗の付加価値をつけて戻せば、市民はもっと税金を預けたくなる。そういった街には人が住み続けるし、さらに人が集まってくる。それぞれの市民に安心が生まれれば地域経済が回り、市民のための政治をすれば市が発展するのは当然のことだ。市長や県知事は国会と違って独任制であるため、議会の承認次第ではあるものの、預かっている税金の使い道はトップである市長や県知事が決めることができる。

――その考えに沿って市長になって行ったことは…。

  まず、子どもや高齢者、障害者、犯罪の被害者といった、支援を必要とする方々に対してお金をシフトしていった。明石市は、人口30万人、一般会計1000億から1200億円ほどの中核市だ。私が市長に就任した当初の子ども関連予算は100億円程度だったが、250億円に倍増させた。この予算の使い道は大きく2つあり、1つは子育て層の負担軽減、もう1つは安心の提供だ。1つ目の負担軽減については、①高校生までの医療費②中学生の給食費③第2子以降の保育料④公共施設の入場料⑤満1歳までのおむつ――の5つを無条件で無料化している。また、駅前に一時預かり保育を作り、いつでも子どもを預かることができる。つまり明石市という行政が、かつての大家族のおじさん、おばさん代わりをするということだ。その結果、私が市長に就任してから、人口はV字回復し9年連続で増加している。人口増加率は全国の中核市で1位になり、全国で最も人口が増加している街の1つと言えるだろう。

――人口が増加するに連れて税収も増加する…。

  明石市の特徴は、特に中間層、つまり小さなお子さんのいる共働きの世代が引っ越していることだ。明石に引っ越してくるのは、ローンを組んで家を買ったりする世帯で、ある意味一定の収入がある優良納税者だ。さらに共働きでダブルインカムなので2人とも納税者となる。そういった方々が入ってくると、マンションを買ったり一戸建てを建てたりして建設業が潤うので、明石市は建設業バブルとなった。明石市の人気が高まると地価もどんどん上がり、固定資産税も土地計画税の収入も上がる。明石市で子育ての負担を軽減しているが、さらに子どものためにお金を落とし、駅前の店々も過去最高益につながった。子育てが安心してできる街にすることで教育熱心な中間層が転入し、市民税収が増え、法人税収や固定資産税収も増え、さらに地域にお金が落ちるので、地域経済が活性化していくという好循環が生まれている。

――税収増をねらって工場を誘致する自治体はオールドモデルだ…。

  明石市では工場誘致をする気は全くなく、工場誘致をして街が良くなるわけがない。工場は、高速道路沿いのインターチェンジ付近など一定の利便性の高いところに、集まって位置付くのが本来の姿だ。明石のような密集的な街に工場があること自体が望ましくない。「わが街にも工場誘致」などは皆が言うことではないにもかかわらず、多くの政治家は間違ったことを言っている。そもそも、江戸時代の大家族、大コミュニティ、村社会といった古き良き日本をベースに、明治維新を通過し、近代化を進めていくなかで、上から目線の全国一律政策や殖産興業が誕生した。今は昔と違って大家族でもなく、殖産興業で国が発展する時代ではないため、時代に即したような政策転換ができていないのが今の日本の課題だ。

――国民健康保険料の増額を求められているが、据え置く方針か…。

  これから議論を進めていくが、基本的に明石市は、支援に必要な弱いところにこそ光をという方針だ。特に国民健康保険の場合は、公務員や大企業のサラリーマンは所属先も負担するので自己負担は少ないが、そうではない方々には支払いが難しい方も多い。保険料を払えないから病院に来にくくなってしまっては意味がない。明石市はなんとか踏みとどまって、他市に比べれば明らかに安い額で押さえてきた。ただ、市が国民健康保険を一般財源で補填すると、国が市への交付金を減らす仕組みになっているため、国との調整が必要だ。同じことは子どもの医療費でも起きており、明石市は18才まで完全に医療費を無料化したが、その結果、国から1800万円の財源を減らされた。政府は子育て支援と言いながら、嫌がらせや制裁をしている。政府には「子どもは国の宝」という考え方がなく、家族の問題を家族で解決しなさいと言っている限り、出生率の低下は進んでいくだろう。残念ながら多くの学者やマスコミは貧乏な子どもだけを救済するという発想だ。しかし、貧乏であろうがなかろうが、子どもそのものをしっかり応援しないと中間層が2人目、3人目を生めない。貧乏人だけを助ける発想ではなく、社会の未来を作っていくという発想で子ども子育て支援を行う必要がある。

――国と地方自治体の関係を見直す必要がある…。

  そもそも、国の下に都道府県があり、都道府県を経由して市町村に命令するという、いわゆる上から目線の全国一律施策が時代に即していない。当然だが、それぞれの地域には地域ごとに特性があり、新型コロナウイルス感染症1つとっても全国同じ感染状況ではない。国が全国一律に命令するのではなく、地方に行政運営を任せる時代だ。現状では、地方の財源を国が勝手に取り上げ、交付金として地方自治体に交付するというひどい形になっている。国が地方にしっかり権限を委譲し、併せて財源も国が没収するのではなく、地方のお金は地方に任せるべきだ。

――明石市はコロナ禍でも医師不足などの問題を乗り越えている…。

  医療権限は都道府県と政令指定都市が持つ。明石市は中核市なので、残念ながら医療権限はないが、中核市は保健所を持つことができる。明石市は「官民連携」をキーワードに、保健所を新設し、そこに医師を集約する形をとった。地元の医師会と連携し、家庭を訪れ診療する往診を20名超の体制で行うなど、民間との連携がうまくいったことが医療崩壊を防いだ要因だ。さらに、医師との連携には、官民の信頼関係に加えて、しっかり財源の裏付けをした。お願いベースの綺麗事では物事は進まず、お金の裏付けが必要だ。もちろん、医師がワクチン接種や感染者の診療をしやすい体制を作ることも重要で、医師会と相談もしながら、明石市が支援をした。また、明石市はコロナ禍以前から医師会とさまざまなテーマについて協定を結んでいる。例えば、認知症についての協議会やLGBT関連の協定などで、日頃から信頼関係が構築されていることが、このコロナ禍でも成功した背景にある。

――今後の課題や抱負は…。

  私自身はずっと「やさしい社会を明石から」作りたいと思っている。子どものころから自分のふるさとである明石の市長になりたいと思って、実際になることができた。過去には市長選に勝てずすぐには市長になれない状況もあったので、国会議員なども経験したが、本来は市長になりたかった。念願の市長になって、明石をやさしい社会に変えている途中だ。さらに、明石市だけではなく、明石市の政策を他の市町村でも参考にしてもらい、国単位でもやっていただきたい。「やさしい社会を明石から」のスローガンを掲げ、これを全国に広げていく段階に入った。そこで最近は個人のSNSも始め、明石のことを発信し、他の自治体や国のご参考にしていただきたいと思っている。(了)

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