金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「地域と自らの持続的成長実現」

全国地方銀行協会
会長
柴田 久 氏

――足元の地銀の経営は…。

 柴田 2021年度中間期の決算においては、会員銀行62行のうち、全行が経常利益・中間純利益ともに黒字を確保した。これは、官民一体となった資金繰り支援により倒産が抑えられ、信用コストが前年同期比で40%以上減少したことや、資金利益・役務取引等利益が増加したことによる。通期業績予想は、銀行単体ベースで、業績予想を開示した61行のうち6割超が上方修正となった。ただし、足元、新たな変異株の出現など予断を許さない状況が続いているほか、半導体不足や資源価格を中心とする物価上昇圧力が、原材料や物流価格の上昇というかたちで、企業収益にマイナスの影響を与えており、先行きの懸念材料となっている。

――コロナ融資で不良債権が多くなる可能性もある…。

 柴田 ご指摘の点については、お客さまの経営状態と銀行収益へのインパクトの2つの面を考える必要がある。お客さまの経営状態については、先ほど申し上げたとおり資金繰り支援を通じて、倒産件数が低水準で推移している。今後も、お客さまの経営状態にしっかりと目配りし、資金繰りに支障が生じることのないよう、柔軟かつ適切な資金供給に取り組んでいく。業種を問わず個々の企業が置かれた状況により、回復の度合いは異なるが、まずは、お客さまの本業収益の改善が第一義であり、これをしっかりと支えていきたい。銀行収益へのインパクトについては、各行、現在の経済情勢を踏まえ、それぞれのお客さまの状況をしっかりと把握した上で、予防的なものを含めた引当を実施していると認識している。第6波の懸念も残る中地域経済がコロナ禍前の状況を取り戻すには未だ時間を要すると考えている。引き続き状況を注視していきたい。

――日銀のマイナス金利政策により資金運用にとっては難しい局面が続いている…。

 柴田 金融政策は日銀の専管事項であり、地銀協会長としてコメントすることは適切でないため、個人的見解として回答するが、デフレ的な状況の脱却や、実体経済の下支えという点では、金融緩和の政策効果が相応にあったと考えている。一方、運用環境の悪化という副作用が顕在化していることも事実である。足元、預金が順調に増えている反面、コロナ資金の一巡により貸出金の増加率は鈍化し、銀行の抱える流動性ギャップが拡大している。このため、銀行収益にとって、資金運用の重要性が増している。多くの銀行が、米国債等の運用を行っているが、今後、米国金利が上昇局面にある中で、十分にスプレッドを確保しないと含み損を抱える可能性もあり、これまで以上に市場環境には注意していく必要がある。

――SDGsやDXなど、銀行にさまざまな目標が課せられているが、地銀は何を目指すのか…。

 柴田 地銀各行が置かれた環境や優先的に対応すべき課題はそれぞれ異なるが、共通しているのはどの地銀も根差す地域の成長・発展があってはじめて自らの持続的な成長が実現できるということだ。地域、そしてお取引先をいかに元気にしていくか、ということがわれわれに課せられた重要なテーマであると認識している。SDGsやDXといったテーマは、地域のお取引先にとっても今後避けては通れないテーマであり、知見の共有も含め、お取引先の取り組みをリードしていくことがわれわれ地域金融機関の役割である。地域金融機関のビジネスモデルは、預金を集めて貸出金利の利ざやで稼ぐという伝統的なかたちから、地域のお客さまの課題やニーズに対応したサービスの提供へと大きく変化してきている。

――国も中小企業のM&Aを促進している…。

 柴田 われわれのお取引先の大半を占める中小企業は、経営者の6割以上が70才以上である。このため、円滑に事業承継を行えるよう支援することも、これからの地域の発展には重要であり、その手段のひとつとしてM&Aがある。また、お取引先の経営支援や資金繰り支援を行う中で、解決策として、M&Aを提案することもある。

――地銀の経営では再編が1つのキーワードだ…。

 柴田 再編といっても、統合・提携など様々なかたちがある。今、地銀には地域と自らの持続的な成長を実現するために、創意工夫のもと、ビジネスモデルを変革することが求められている。地銀がビジネスモデルを考えていくなかで、経営資源やノウハウが足りないといった課題が明らかとなったとき、必要に応じて、金融機関同士の経営統合・アライアンスや異業種との連携などを手段として選択するか否かがあると考えている。いずれにせよ、まずは、ビジネスモデルをどう変えていくかが地銀には問われている。近年、地銀においては、デジタル分野に重点的に取り組むところもあれば、地域商社を作って地域活性化に寄与するなど、創意工夫した取り組みが出てきている。一方、資産運用が難しくなるなか、銀行によっては、外部から資産運用の助言を受けたり、外部に運用を委託するなどといった動きも見られる。こうした課題を共有する地銀同士が共同で運用するということは十分に考えられると思う。

――フィンテック業界が盛り上がってきている…。

 柴田 かつてフィンテックという言葉が最初に出てきたときは、銀行界にとって脅威になると言われたこともあったが、今では、フィンテック業界と競合するのではなく、共同で事業を作り上げ、連携していく相手へと認識が変化してきている。フィンテックを活用しながら、地域のお取引先に対し、より付加価値の高いサービスを提供していきたい。各行において、フィンテック事業者とともに、スマートフォンアプリの開発や、APIを通じた情報連携したサービス提供など取り組みが広がってきている。

――金融行政への要望は…。

 柴田 2021年11月22日に改正銀行法が施行され、銀行本体・グループ会社でできる業務範囲が広がった。一方、われわれが従前より提出し続けている規制緩和要望の中で、いくつかまだ実現されていないものは残っている。例として、銀行の保険窓販に係る弊害防止措置、銀証間の情報授受規制、不動産仲介業務といったものがある。こうした点も含め、2021年11月17日、政府に対し2021年度の規制改革・行政改革要望を提出しており、新政権のもとで前向きに検討が進むことを期待している。(了)

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