金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「収入範囲内の予算で財政再建」

大阪市長
日本維新の会代表
松井 一郎 氏

――日本維新の会が躍進している…。

 松井 昨年10月の衆議院選挙で日本維新の会は自民党と立憲民主党の批判票の受け皿となり、議席数を伸ばした。しかし、それでも自民党が単独過半数を獲得していることを考えると、まだ我々の考え方は広がっていないのだと認識している。維新の会は2010年に大阪を変えるために立ち上げた地方の政治集団であり、立ち上げた時のメンバーは殆どが元自民党の地方議員だった。自民党は様々な既得権益の団体が支持母体となっている。一方で我々維新の会は、日本の伝統文化などにおいて保守的な思想を持ちつつも、時代に合わせて国の形を変えなければならないという想いを持っている。

――今の日本で変えなければならない事とは、具体的に…。

 松井 変えるべきは行政の規模と仕組み、そして規制緩和だ。規制があることで新規参入が阻まれている。そのため、新しいチャンスが生まれない。昭和の時代であればアジアの中に日本と競える程の技術を持つ国がなかったため、そのような形でも問題はなかったが、今は違う。アジア各国がそれぞれに力をつけ始め、特に一党独裁で台頭してきた中国は、経済成長のためにありとあらゆる手段を使って世界の富を集めようとしている。日本も新しいビジネスチャンスを作り、世界中の人がチャレンジできるような開かれた国にしていかなければ、この少子高齢化時代において経済力を保つことは出来なくなるだろう。今のままでは、世界に認められるようなポジションからどんどん遠ざかってしまう。

――国のデジタル化においては、既にASEAN諸国からも追い抜かれている…。

 松井 デジタル社会を作るためには情報を管理する必要があるが、日本では個人情報を政府が管理することに対して強いアレルギーがある。しかし、個人を特定しないような形にしてでも政府が個人情報を管理しなければ、役所に余分なマンパワーと経費がかかり、様々な公的サービスを効率化することは難しい。今後の行政の仕事自体も成り立たなくなるだろう。

――財政再建を反映して大阪市債も府債も販売が順調だ。財政再建の秘訣は…。

 松井 当たり前のことだが、「収入の範囲内で予算を組む」ということだ。2008年に橋下徹氏が大阪府知事になった時、大阪府は11年連続赤字で、減債基金の借り入れという禁じ手とも言える財政手法まで行っていた。それまで「役所はつぶれないし、いつか誰かが何とかするだろう、今はどこも景気が悪いから自分の世代ではどうしようもない」というような意識が府庁内には蔓延しており、これを見直すために先ずは職員の意識改革を行った。そして、ドイツでは財政運営の法律があるが、それに倣って大阪では財政運営基本条例を作った。それが「収入の範囲内で予算を組む」という条例だ。

――「収入の範囲内で予算を組む」ために、実際に行った事は…。

 松井 人件費の削減だ。会社の経営と同様、赤字であれば固定費を削らなくてはならない。役所での固定費はほぼ人件費だ。私の大阪府知事時代には約10年間で大阪府庁1万人の職員を7300人まで、つまり約2700人減らした。もちろんそこに警察や教員などは含まれない。そして一番苦しかった時期には給料を平均10%減らして人件費を削減した。役人は大体民間で働いたことのない人たちばかりが集まっており、公務員に指示を与える政治家も7割程度が2世か3世、或いは公務員出身だ。議会を含めて大多数が民間企業で働いた経験がないため、赤字に対する危機感が全くない。これは国政にも言える事であり、それではいつまでたっても財政再建などできない。

――景気が悪化すれば普通の先進国は減税するものだが、日本政府はそういったことを行わずに財政出動ばかりしている。これでは経済が良くなるはずがない…。

 松井 景気回復をさせるためには個人消費を上げるしかない。個人消費意欲がわかないのは消費税が上がっているからだ。この点、コロナ禍ということもあり、日本維新の会では2年間限定で消費税を5%に下げる案を出しているのだが、財務省の抵抗もあって政権側の人たちは首を縦に振らない。政治家というのは、余程の胆力と体力と気力がなければ役所からはお客様として扱われ、官僚に操られてしまう。また、組織を動かしていくためには職員との意思疎通も大切だ。そこで如何にガバナンスを効かせるかが重要になる。国は議院内閣制で大臣も数年で交代する。こういった制度では、財務省のような巨大な組織のガバナンスを効かせることは難しい。このため、国も我々地方自治体の長のように選挙で選ばれるようにすればよいのではないか。そのためには、首相公選制にして任期も決めるような憲法改正が必要だ。

――日本維新の会が掲げるベーシックインカム導入においては、労働者を解雇しやすくするためのものだという意見があるが…。

 松井 先ず、今の日本の制度において簡単に労働者を解雇するようなことは出来ない。日本維新の会が目指しているのは「雇用の流動化」だ。今の社会は企業が終身雇用制を守るために内部留保をため込んでおり、そのため社員の給料が上がらないという構造になっている。それを、業績が良い時には労働者にきちんと還元して、経営が悪化した時には金銭を支払って労働者を解雇できるような仕組みを作らなければ労働力は流動化しない。労働者側からしても、自分には合わない会社に入ってしまったと思っても給料が無くなることを考えるとなかなかその会社を辞めることができないが、流動性があれば代わりの職場を探しやすくなる。そういった部分で滞っていた人材を流動化させるためのベーシックインカムでもある。先ず国が国民に最低補償を先に支払い、それで給料をきちんと稼げた人には、税でお返ししてもらう。そうすることで、労働者側も自分に合った職業を見つけやすくなるというものが我々のベーシックインカムに対する考えだ。

――日本維新の会の対中政策、台湾問題政策そして経済安全保障についての考えは…。

 松井 中国に対しては「戦略的互恵関係の中で毅然とした態度で挑んでいく」というスタンスだ。中国の軍事的脅威に対する備えは日米できちんと作っていくべきであり、ここにも憲法改正が必要だと考えている。日本の経済安全保障は当然強化すべきだ。同盟国である米国の傘下にいる中で中国の覇権主義がさらに広がっていけば、米国の前に日本が被害に遭うだろう。米国が中国よりも力を持っている今のうちに、日本は西側諸国と連携しながら是々非々の態度で挑んでいかなくてはならない。また、台湾問題については当然集団的自衛権の範囲内だと考えている。台湾が香港のようになれば、30年後、例えば日本でも沖縄が同じ道を辿るかもしれない。そうならないために、今からそれを抑える取り組みを行うのは今の我々世代の責任だと思う。(了)

▲TOP