金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「自民党の成長戦略は大失敗」

衆議院議員
立憲民主党
落合 貴之 氏

――アベノミクスを振り返って…。

 落合 アベノミクスによる金融緩和では、最初の1年は効果があったと思う。しかし、カンフル剤は何本も打つものではない。直前の民主党政権時にカンフル剤を打たな過ぎたことも作用し、アベノミクスで最初に打ったカンフル剤は金融市場に好反応を起こし、一気に経済が伸びた。ただ、その後もカンフル剤を打ち続け、それも効かなくなったところにETF等を大規模に買い入れたことは間違いだった。公的機関が大株主になれば、それは国有化であり、副作用が生じる。国債のように満期があるものならばまだ出口があるが、株式には終わりがなく、売却するためには時価総額を上げるしかない。また、上場企業の競争力を弱める事にもつながってしまった。そういった事を知ってか知らずにか、ETFをなりふり構わず大量に購入し、カンフル剤以外のところをおろそかにしてしまった事がアベノミクス最大の問題だ。さらに、苦し紛れのマイナス金利によって特に貸し出しの利ザヤに頼らざるを得ない地域金融機関は弱り、地方経済にマネーを供給するという本来の役目を果たすことも出来なくなるという状態を引き起こした。マイナス金利をだらだらとやり過ぎたことで、地方の格差を広める結果にもなってしまった。

――国債をこれだけ大量に発行しているのにGDPは大して変わらない…。

 落合 国債を発行する事は否定しないが、発行するならGDPを上げていかないと、借金だけが増えてしまう。それは持続可能な社会ではない。金融緩和によって少しだけデフレ状態から脱したとは言っても、それは消費税増税による物価の消費税分が機械的に数字を押し上げている局面もある。結局、アベノミクスは金融緩和だけの一本足打法で、需要を高めていくような財政政策もできず、大企業の体力がついたわけでもない。そして、第2の矢として消費増税したことで、GDPの6割を占めていた消費にブレーキをかけてしまった。GDP全体が少し大きくなったとしても消費の割合が下がっていれば、国民の福祉には繋がっていない。

――規制緩和についても、どこへ行ったのか…。

 落合 安倍元総理の施政方針演説では特区が肝になっていたが、その特区の使い方が、加計問題など後々のスキャンダルとなった。結局、自分たちの周りの人たちを儲けさせるためだけの特区になっており、ITや再生可能エネルギーといった、国が注力して伸ばすべき今の時代の成長産業をことごとく逃してしまっている。特に、太陽光パネルなどで今一番必要な半導体は、30年前には日本が世界のシェアの半分を持っていたのに、今ではすでに1割程度しかシェアを持っていない。今、日本がこのような状態になっているのは、明らかに自民党の成長戦略の失敗だ。

――仮に立憲民主党が政権を取った場合、どのような金融政策を行うのか…。

 落合 金融政策のカンフル剤を一気に止めることは出来ない。異次元が続き、本来の次元がわからなくなっている中で、突然、量的緩和や金融緩和自体にブレーキをかけるというメッセージは発信すべきではないだろう。しかし、購入する資産に関しては見直す必要がある。大量に購入したETFは、社債や国債等、少なくとも満期があるものを中心に組み替えるべきだ。また、小さな市場REITなどに力を入れるのも、企業にとっては家賃や固定資産税などの負担が大きくなり、利益の上がらない経済環境ができてしまうため、終わりのあるものにシフトしつつ、金融緩和を続けると発信する。そして、アベノミクスで失敗に終わった財政政策と成長戦略に関しては、新たに自民党とは違ったものを打ち出していく。

――消費税については減税の方向性ということだが…。

 落合 今、ミリオネアが増えている一方で、貯蓄ゼロの人も増加している。それは個人消費に火がついていないからだ。そうであれば、消費性向の高い低所得層の人たちの可処分所得を増やしていく必要がある。所得移転はあまり意味がないという経済学者もいるが、今のように富が偏在している状況においては意味のあることだ。貯蓄ゼロの人が20歳代だけでなく60歳代以上のシニア層まで広がっている事実を考えると、シニア層の貧困問題が本格化してくる前までに、若年層の所得を一定程度まで押し上げていかなければならない。全体の税負担をどうしていくかは改めて議論するとして、少なくとも庶民の税金は減らし、富裕層にもう少し負担してもらう仕組みが必要だ。最近では、みなし個人事業主が増えており、巨大企業と個人事業者が契約を交わすような形態が増えてきている。非正規雇用や派遣で働く人たちの賃金と同様に請負単価も引き上げる必要や、社会保障の仕組みを新たに作っていく必要も出てきている。個人を強くしていくためには、労働法制や規制の一部強化も重要だ。

――野党の一つ「日本維新の会」では、ベーシックインカムを取り入れて、解雇を自由にするという政策を打ち出しているが…。

 落合 維新の会が現在掲げているベーシックインカムは80兆円規模であり、一人当たり金額は月6万~10万円とそれほど高くない。皆が満足できない金額を給付するために、ガラス細工のように積み上げている今の社会保障制度をわざわざ壊して大改革し、後戻りできないようにする必要があるだろうか。私が実際に計算してみても、新たな問題が出てくる可能性が大きく、国政を預かるものとしては容易に手を出すことが出来ないことが分かった。そこで立憲民主党では、まずは既存の必要不可欠なサービスを無償に近づけていくほうがよいと考え、「ベーシックサービス」という現物給付の案を考えている。保育所や義務教育等に組み込まれている公的補助の部分を大きくし、教育や福祉サービスを強化していく方針だ。

――為替については、円高に戻すべきだという意見もあるが…。

 落合 今回のコロナ禍で、日本の食料自給率がこれだけ低いにも関わらず物価がそれほど上がっていないことが分かった。それは、日本のサプライチェーンがグローバル化し、且つ複雑化していて、どのような状況にも対応できるようになっているからだ。世界は持ちつ持たれつ協力している。そして、日本ではプラザ合意などを経験したことで、色々な事態を吸収できるマーケットに出来上がっている。円安にしても円高にしても、急激な上下の変化がなければ全体には影響しない。振り返って、旧民主党政権時代の過度な円高は、当時の白川日銀総裁の絞りすぎた金融政策が背景にあったと思う。必要なのは、経済学の固定観念にとらわれすぎない、社会の実態に沿った柔軟性だ。

――中国と米国のデカップリング状態は、政府の経済政策にも日銀の金融政策にも関わってくる…。

 落合 コロナ禍で貿易も大変な中で、米国と中国の貿易額は上がっている。米国に本当に壁を作る気はあるのだろうか。一方で、日本は米国の目を気にしてなのか中国との貿易額は減少している。そう考えると、日本もある程度米国と共同歩調をとりつつ、現実路線を歩んでいくのが良いと思う。ただ、軍事的な問題に関してはしっかりと担保を取っていかなければならない。機密情報は機密情報として、国民間の交流とは切り離して考えていくべきだ。覇権国家同士の争いの中で周辺国がどのように舵取りをしていくかという問題は、長い歴史においても繰り返し起こっている。だからこそ有能なリーダーを選ばなければならない。国同士で複雑な対応をしながら、いかに国民の生活を守っていくのか、それはリーダーの力量にかかってくる。複雑な対応が出来ないようなリーダーを選んでしまうと、米国と中国に翻弄され、国益を損なうことになるだろう。民主的な国際秩序を作っていくには、もっと欧州と組んでいくという事も必要かもしれない。(了)

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