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「地熱発の潜在力は原発23基分」

日本地熱協会
会長
有木 和春 氏

――日本地熱協会が発足した経緯は…。

 有木 日本で最初の地熱発電が運転開始したのは1966年と、その歴史は古い。1970年代の2度にわたる石油ショックによる石油代替エネルギー政策に後押しされて、地熱発電の事業化や調査・研究開発が行われてきた。その後、停滞する期間があったが、地球温暖化対応や2011年の東日本大震災によるエネルギー政策の見直しをきっかけに再生可能エネルギーの導入拡大の機運が高まり、既存の地熱業界団体を中心に有志が集まり、秩序ある地熱発電事業の普及推進を図ることを目的とし、国への政策要望や会員相互の情報交換を主な活動とする業界団体として、2012年12月に当協会を設立した。現在、正会員77団体、特別会員10団体が加盟している。

――日本は世界第3位の地熱資源ポテンシャルを持つ国であるにもかかわらず、地熱発電が効率的に利用されていないのは、何故か…。

 有木 地熱発電は、地下資源である地熱資源の調査、評価、開発と地上設備の建設を経て運転が開始されるため、長い開発リードタイムを必要とする。また、日本の有望な地熱資源の約8割は国立・国定公園の中にある。そのため、自然環境への影響の懸念、或いは、温泉地が近くにある場合、温泉業に関わる方々は、地熱発電が温泉に悪い影響を及ぼすのではないかという心配を持っている。そういったことに配慮して、調査やモニタリングを行って対応し、多くの地点で地域の方々から受け入れてもらえれば、日本の地熱発電はもっと進んでいくだろう。また現在、地熱開発を進めるためのきちんとした法律が整備されていないことも地熱発電が拡大しない一因だ。地下資源である地熱は、実際に掘削してみなければ発電所建設まで繋がらないこともあるが、我が国には豊富な地熱資源があり、安定的な電源であることに間違いはない。地熱発電を推進する価値は大いにある。

――省庁間の縦割行政が、地熱発電開発が進まないことに影響している…。

 有木 温泉や自然環境を所管しているのは環境省であるが、同時に、環境省では今、再生可能エネルギーを重視する中で地熱発電を加速させるプランの導入を進めている。昨年10月、菅総理が2050年のカーボンニュートラルの実現を宣言したこともあり、再生可能エネルギーである地熱発電を推進するため、自然公園法や温泉法についても、内閣府の規制緩和のタスクフォースに則って緩和する方向で動いている。地熱発電を所管する資源エネルギー庁と環境省が力を合わせて進めていくことを期待している。地熱発電業界としても、温泉と自然環境が大事なことは理解しているので、調査やモニタリングを行いながらしっかりと対策を立てて着実に地熱発電事業を進めていきたい。現場レベルで温泉の方々の理解を得て、自然環境といかに両立させていくかが今後のポイントとなろう。

――熱川のバナナワニ園では、温泉の熱水を二次利用してバナナをはじめ南国植物やワニを育てている。こういった取り組みについて地熱協会の考えは…。

 有木 地域のエネルギーを地域の方々が創意工夫して有効活用するのは、とても良いことだと思う。例えば、温度の高いところは地熱発電に利用し、温度が下がった部分を色々な事業に生かしていくといった事例として、北海道の森地熱発電所では噴出蒸気は発電に利用し、噴出熱水を熱交換して温室栽培を行っている。鹿児島県の霧島国際ホテルでは温泉井の蒸気で地熱発電を行い、熱水でホテル内の浴用や暖房などに利用していた。福島県の土湯温泉バイナリー発電所で発電後の熱水をエビの養殖に活用している。温度帯の違いでカスケード式に利用していくことは、エネルギーの有効利用の観点からも重要なことだ。ただ、こういった個別の事業については、地域の事情に合わせて、自治体を含めた地域の方々と話し合いながら進めていくべきことだと捉えている。というのも、実際に地熱発電所が建設される場所は需要から離れた遠隔地である事が多く、立地条件によって変わってくる。その辺りの問題をどの様に解決していくのかが、こういった取り組みの一つの課題となっている。

――地熱の電力料金が安くなるのであれば、地熱発電の近くに工場等を作るような動きも出てくるのではないか…。

 有木 経済性という点で言えば、地熱発電は石炭火力などと比べて高い。また、発電事業という点では時間と資金の問題があり、地下資源開発の難しさ、系統連系の問題もある。一方で、現在の固定価格買取制度(FIT)では、地熱発電の場合、出力1.5万kW以上の場合26円/kWh、出力1.5万kW未満の場合40円/kWhと設定されており、2012年のFIT施行以来、多くの事業者が参入し、地元の事業者などが既存の温泉を利用して地熱発電に取り掛かるといった動きがあり、小規模な地熱発電所が建設されてきた。これまでは開発リードタイムの短い小規模な地熱発電が先行していたため2030年度の政府目標の150万kWにはまだまだ遠いが、地元の方々の地熱発電事業を通じて、地熱発電に対する人々の理解が深まっていくことを期待している。

――発電機も数が増えれば値段は安くなると思うが…。

 有木 地熱発電は地下から噴出する蒸気を利用する性質のため、タービンも特注になる。小規模事業であればモジュール式で量産型の発電機もあるだろうが、大規模事業となるとなかなかタービンや発電機のコスト削減まで至らない。ただし、世界の地熱発電所のタービンの約7割が三菱パワー、東芝、富士電機という日本のメーカー3社で占めているほど日本の地熱発電技術は優れている。地熱発電は、他の再生可能エネルギー電源と異なり、FIT期間は20年でなくて15年で、その後は市場価格で勝負し、50年以上の実績があることを考えれば、地熱発電のコストは他の再生可能エネルギーに比べても高くはない。地熱発電の認知度はまだまだ低いが、資源エネルギー庁、独立行政法人石油天然ガス・金属鉱物資源機構(JOGMEC)とともに広報活動を行っており、認知度を高めて、一般の方々の理解が進み、地熱発電が今後さらに普及していくことを期待している。

――その他、日本政府に対する提言や要望などは…。

 有木 現在、再生可能エネルギーの規制緩和が進められているが、現場レベルで実効性のある規制緩和をお願いしたい。また、地下資源開発ということで、国による先導的な調査についてはその拡充を、また、送電線の整備についても支援をお願いしたい。地熱資源の有望地域は、国立・国定公園内および国有林内であるケースが多いため、掘削、自然公園、国有林野の貸付や使用等に関する許認可手続きの簡素化・ワンストップ化も重要だ。我が国の地熱資源のポテンシャルは2300万kWと言われている。原子力発電が1基100万kWとして、その23基分の潜在エネルギーがあるという事だ。しかも我が国には有望地域が多数あり、50年以上の運転実績を有しており、再生可能エネルギー電源である地熱発電が、今後の日本のエネルギーミックスの中で意味ある電源として有意義な役割を果たしていくと信じている。(了)

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