金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「長期運用は『約束』が重要」

りそなアセットマネジメント
代表取締役社長
西岡 明彦 氏

――現在の運用資産残高は…。

 西岡 足元で33兆円を超えてきている。これは我々の運用体制や運用力の強化が評価された喜ばしい結果であり、これからも愚直に一生懸命取り組んでいく。特にリテールに関しては、個人の資産形成のためには「長期の国際分散投資が基本」という思いのもと、それらを構成する一つ一つのファンドのクオリティを高めることに注力している。また、運用する人材については現在約100人の運用人員を配している。平成20年からは新卒で直接、運用を希望する人を採用し始め、優秀な新入社員が継続的に入ってきている。資産運用会社は組織カルチャーが非常に重要であり、仕事に対する探究心や熱意など非常に高い意識を持っている若者達に、まずは当社のプロフェッショナルとしてのカルチャーを共有いただく事を心掛けている。加えて、プロになるために必要不可欠な資格や大学院編入プログラムといったサポートを充実させており、全社一丸となって育てている。

――超低金利状態が続く中での運用法は…。

 西岡 企業年金のように予定利回りがあるものに関しては、確かに運用難の時代だ。そのため、インフラ投資やプライベートエクイティ等で流動性リスクを取ってリターンを受けるといったポートフォリオを組む、或いは、ヘッジファンドでプラスアルファを狙うといった工夫が必要になってきている。ただ、リテールで予定利回りがないものに関しては、エクイティは好調に上昇してきており「運用難」という言葉は当てはまらない。銀行の自己売買などでは長期金利と短期金利の差があれば超低金利でも工夫の余地はあり、資産形成という面で言えば、長期国際分散投資を正しく行っていれば、どんな環境であっても長く保有していれば利益は出てくる。リスク資産にはリスクプレミアムが当然ついてくるものであり、我々としては、短期的には上下するが長期的には価値が上がっていくものに投資し、それらの組み合わせでボラティリティを抑えて、リスクを最小にリターンを最大にするというポートフォリオを提供することを心掛けている。

――国内がここまで超低金利下だと、どうしても海外を向いてしまいがちだが…。

 西岡 他社ではアクティブ運用に関しては海外の運用会社を組み込んで提供しているところもあるが、当社ではローカルとグローバルは自社でやると決めている。スイス株など我々にとってローカルではないものは取り扱わない。かつて運用会社の調査でスコットランドを訪れた時に、エディンバラにしか拠点がなくてもグローバルな運用をしているクオリティの高い運用会社を沢山見てきた。それは運用能力の違いではなく、どのような哲学を持ち、どのようなプロセスを行うのかの違いで実現出来るものだ。そういう意味では、運用は哲学だ。もうひとつ、私は長期運用をする際に重要なことは「約束」だと考えている。そのため、人の能力で成績が変わっていくようなスーパーファンドマネージャー的な運用の仕方はなるべくしないようにしている。人に左右される運用体制では長期になった時にそのコントロールが出来ず、約束も出来ないからだ。儲けるために何でもやるというのは正しく資産形成を行っていく上ではよくないことであり、やれないことはやらないという観点も大事だ。

――SDGsという時代の中で、心掛けていることは…。

 西岡 我々は年金を長く取り扱っているためパッシブ運用が多く、ほぼ全ての上場企業に投資を行っている。そのため、その投資先一つ一つの企業が成長し、結果として市場全体を大きくしていくことが重要であり、当然その責任もあると認識している。そして、当社の責任投資部では、2008年に国際連合が公表したPRI(責任投資原則)にも署名するなど、ESGへの責任投資活動を積極的に推進しており、特にESGファンドやSDGsファンド、インパクト投資といった冠をもつものに関しては一定のガバナンスを入れる方針を掲げている。SDGsウォッシュと揶揄されるファンドも出てくる中で、開示方法などに色々な規則が出来てくることは仕方のない事として、そういった事も踏まえてしっかりと対応し、信頼していただける運用会社を目指していく。

――富裕層と資産形成層に対するアプローチの違いは…。

 西岡 運用会社にとって富裕層が大きな役割を果たしてくれているのは事実だが、本当の意味の富裕層には資産運用だけでは不十分であり、税金や不動産、ローンの話等、様々な機能が必要となってくる。そのため、富裕層についてはグループでの総力戦だ。りそなグループの富裕層ビジネスに関する資産運用機能については我々がしっかりと提供できる体制を敷いている。一方で、他の運用会社があまり手を出さないマスリーテル層に対しても逃げることなく取り組んでいくつもりだ。この層はいかにコストを下げて提供するかが大事であり、そのための議論を重ねている。最近ではAIへの取り組みも重要な課題だ。当社の特徴として社員の15%が理系大学卒ということもあり、昔からAIに近いことに取り組んでいたが、運用は複雑であるため、AIに運用自体を任せるというよりも、企業分析などの付加価値としてAIを活用していく。人材にしてもAIにしても向き不向きがある。運用にも様々な業務があるため、それは適材適所に配置していけばよい。

――その他、取り組むべき課題やそれに対する強化策について…。

 西岡 プライベートアセットは取り組むべき重要な部門だとは思うが、現段階では規制が多く整備が難しい。だからといって、合併や提携といった形で進めるつもりは今のところない。本来、アセットマネジメント会社の合併はそんなに簡単ではなく、中途半端に行ってアセットマネジメント会社として一番大切な資産である「人」が抜けてしまえば、むしろ高い買い物になってしまうからだ。プライベートアセットにしても、我々の強みである小型株の中でその発展形として、また、例えば債券のアクティブファンドがヘッジファンドに広がっていくような、自社運用の発展や拡張という形で実現できればよいと考えている。そこに至るまでには若干時間がかかるかもしれないが、人の力による付加価値の部分は大事にしていきたい。とはいえ、どうしても自分たちでやれないようなところに関しては、徐々に合併や提携といった事も選択肢の一つとして考える必要があるのかもしれない。

――投資信託市場拡大のために、当局への要望などは…。

 西岡 当局は資産形成について力を入れており、この部分ではフォローの風が吹いている。しかし、投資信託の問題は難しい。契約型となる日本の投信では一回契約すると契約内容を変えることができないため、例えば、運用者側が「もう少しアセットクラスを増やせば、さらに良い運用が出来る」と考えたとしても、契約の変更にはかなりのコストがかかり、それを実現することが難しい。むしろ新しいファンドを立ち上げた方が安くなり、そうするとファンドが乱立して、結局、運用会社はそのコストに耐え切れなくなる。これは日本の契約型投信の一番の問題点だ。良いクオリティのものをリーズナブルな価格で提供するという事が大切なのに、それをやろうと思っても出来ない仕組みになっているのならば、そういった問題について細部まできちんと議論をして、改善していくことが必要だ。(了)

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