金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「ESG根幹の技術革新に邁進」

日本ガイシ
代表取締役社長
小林 茂 氏

――御社の事業展開について…。

 小林 祖業である電力用がいしの売り上げは全体の1割以下で、現在の当社の売り上げの約6割は自動車排ガスの浄化用セラミックスが占めている。これは世界でも約5割のシェアを持っている。1970年に米国で制定されたマスキー法から世界的に環境規制が続いていることが、この分野の伸びにつながっている。また、半導体製造装置用のセラミック製部品も半導体需要の増加により売上が拡大している。独自のセラミック技術を生かして社会に貢献するさまざまな製品を展開しているのが特長だ。

――EV(電気自動車)が普及してくると、御社の自動車関連分野の製品需要も減少していくのか…。

 小林 当面の間は自動車関連製品の需要は続いていくが、EVの台頭もあり、内燃機関車は2030年頃にピークを迎えると見ている。今、自動車業界は100年に一度と言われる大きな変革期にある。そのため当社は、本年4月に策定したNGKグループビジョンで2050年に自動車関連製品の需要がゼロになるシナリオを掲げ、2030年にはカーボンニュートラルとデジタル社会関連製品が売り上げの50%、2050年には80%を占めるように事業転換していく。プロフィットセンターである自動車関連事業の収益を新たな成長分野への投資や変革への対応に用いていく。

――EV化が進んだ後の柱はカーボンニュートラルとデジタル…。

 小林 短期的に柱となりうるのはデジタルだろう。今後のITの普及を考えると半導体需要が減少することは考えられない。半導体製造装置のメーカーは日本に数多くあり、それよりも上流の半導体製造装置用の部品メーカーまで考えると業界としての裾野はかなり広い。なかでも我々が手掛ける半導体製造装置用のセラミック製部品は外国企業では殆ど見かけず日本の独壇場だ。この辺りは継続的な拡大基調にあるのではないか。

――もう一つの柱となるカーボンニュートラルについては…。

 小林 カーボンニュートラルの分野は、何を燃料にするかによって勝者となる技術が決まる。水素なのかメタンなのか、e-fuel(イーフューエル)なのか、それが決まるのは2030年以降だろう。そういった状況の中で、当社の開発したCO2分離膜が、日揮グローバルとJOGMECが共同で行っている原油生産時の随伴ガスからのCO2分離回収技術の実証試験に使われている。今後もさまざまな膜技術を開発し、CO2の分離回収・有効利用技術の普及によるCO2排出削減に貢献していく。また、再生エネルギーを使って水を電気分解することで水素を作り出すSOEC(固体酸化物形電気分解セル)技術は今では世界的に知られてきているが、我々はこの技術の開発にすでに20年以上前から取り組んでいる。ようやく時代の流れに沿うようになってきたこれらのカーボンニュートラルに貢献する技術を今後、存分に伸ばしていきたい。

――全固体電池の商品化は…。

 小林 当社が現在、市場に投入しているのは、半固体電池とNAS電池で、全固体電池と亜鉛二次電池を開発中だ。半固体電池は「EnerCera」(エナセラ)という名称で、超薄型で曲げ耐性のあるEnerCera Pouch(パウチ)とコイン型で105℃という高温環境でも使用できるEnerCera Coinの2種類を商品化しており、スマートカードやスマートキー用途で採用されているほか、世界の300社以上でサンプル評価が進んでいる。この辺りは日本企業の強いところであり、今後も伸びていくことを期待している。電池分野は最近、韓国や中国が後発隊として大量の資金を投入し、同等性能の製品を大量生産し世界を制するという流れがあり、自動車用のリチウム電池はその状態だ。そのため当社は、車載以外の電池にも注力していく必要があると考えている。亜鉛二次電池は発火リスクがなく、屋内でも安全に設置できる電池であり、高度な技術が必要で簡単には追従できないため、積極的に世の中に出していきたい。

――電池はあまり利益にならないと聞くが…。

 小林 部材の値段等が最初はどうしても高値になり、量が出なければ儲からない。しかし、量が出る頃になると韓国や中国が出てきてシェアを奪われてしまうという実情がある。当社が世界で初めて実用化したメガワット級の電力貯蔵システム「NAS電池」は、大容量かつ長時間蓄電が可能で15年間フルに充放電しても劣化しないという、世界にも類を見ない特性を持っている。セラミックスがキーパーツで、簡単にまねできる技術ではない。現時点ではまだ大容量の蓄電を利用する場が少ないが、新しい活用方法として、ブロックチェーンを利用して、大きな蓄電量を時間単位に分割して電力を売るという事を考えている。ブロックチェーン技術と電気を一体化させることで、発電の際の燃料ごとに違う値段で売ることも出来るようになるだろう。そうすれば、大容量蓄電池が有効活用出来るようになる。

――新社長としての抱負は…。

 小林 先ずは主に自動車関連と半導体製造装置関連に向けて過去3年間に行った投資を回収し着実に利益を上げ、NGKグループの未来を支える新製品や新規事業を立ち上げていくことが私の責務だ。先述したCO2の分離膜や半固体電池のEnerCeraなどをはじめとして、今後さらにカーボンニュートラルとデジタル関連の新規事業が立ち上がっていくだろう。当社は1919年、日本の近代化を支えるため、輸入品に頼っているがいしを国産化しなければならないという使命から設立された。100年前からSDGs発想で社会に求められる製品を提供してきた。環境関連製品も多く、世の中に貢献できなければ会社としての使命は果たせないと考えている。黒子のように目立たないが、排ガス規制やデジタル社会といった時代の流れに合わせ、産業やインフラを支え、社会課題の解決に取り組むことで事業を拡大してきた。創業以来の精神を大事に、世界の会社とも協業しながらESGを根幹とした新しい技術革新を起こし、社会の流れに応えることの出来る会社として邁進していく。(了)

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