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「適用法の問題で医療ひっ迫」

医師
一般社団法人パブリックヘルス協議会代表理事
木村 もりよ 氏 

――新型コロナウィルス(COVID-19)の感染拡大が止まらない…。

 木村 私たちは2年近く新型コロナウィルスと付き合っている。コロナは風邪のウィルスとしては有名なウィルスで、流行り始めの風邪では15%、ピーク時には35%がコロナウィルスだと言われ、その中に、SARSやMARSといった毒性の強いウィルスがある。今回の新型コロナウィルスは、最初の頃はSARSやMARSのような毒性の強いウィルスだと思われていたが、最近ではそういった系統ではなく、普通の風邪のコロナウィルスだということがわかってきた。ただ、新型であるが故に多くの人は免疫を持っておらず、感染率が高い。それが広がれば一定程度は重症化してしまう。そして、普通の風邪コロナウィルスと同様に高齢者がかかると重症化して死に至る確率も高い。一方で、現在の日本の感染状況はG7の中でもさざ波状態だ。そして、新型コロナによる死亡者はその死因が心筋梗塞であれ、脳血管障害であれ、死亡時に新型コロナに感染していればそこにカウントされるのだが、その数は通常のインフルエンザ並みだ。さらに言えば、米国では新型コロナウィルスでの死亡者数が増え今年の死亡者数が平年より20%多くなっているにもかかわらず、日本の2020年の死亡者数は11年ぶりに例年の約130万人を下回り減少している。

――新型コロナウィルスに対する徹底した防御策が、インフルエンザや他の病気に起因する死亡者数の減少に寄与したという事か…。

 木村 色々な説はあるが、日本はG7の中で新型コロナウィルスの感染者数も死亡者数も桁違いに少ないのは事実だ。それなのに医療ひっ迫を防ぐためにと緊急事態宣言が出されているのは、一部の高齢者や持病を持つ方が重症化した時に医療キャパシティが耐えられないため、人の流れを止めて感染を少なくしようとしている訳だが、日本は160万床という世界でも有数の療床数を持っている。医師数に関しても、それほど極端に少ない訳ではない。そして、イギリスではピーク時に日本の100倍以上の感染者がいたが医療崩壊は起こしていないし、先進国で医療ひっ迫を実際に起こしている国はない。もともとコロナウィルス(RNAウィルス)は風邪のウィルスで変異しやすく、インフルエンザのように変異することで生き延びようとし、変異したからといって致死性が高くなる訳ではない。今、流行り始めているデルタ株も、英国では「主症状は鼻水と頭痛で、10年経てばこの新型コロナウィルスは普通の風邪になる」という論文が出ている。にもかかわらず、日本で医療ひっ迫が起こるとすれば、その原因は新型コロナウィルスがいつまでもインフルエンザ等特別措置法感染症として、エボラ出血熱並みのⅠ類感染症相当に分類されているからだ。感染すれば半分以上が死んでしまうとして濃厚接触者を追って隔離させ、PCR検査で陽性になった人たちを入院させている。こんなやり方ではどの国だって医療ひっ迫を起こしてしまう。

――政府が感染症の分類をⅠ類相当に指定したことが、医療ひっ迫を招いている…。

 木村 Ⅰ類相当という事は、万が一、院内感染が広がれば医療スタッフは休まざるをえなくなり、病院の運営に支障をきたす。風評被害も合わさり大変なことになるため、多くの医療機関が新型コロナウィルスの診療をやりたがらなくなっている。どこの医療機関も新型コロナウィルス罹患者を診たくないのであれば、もはや、くじ引きでコロナ罹患者だけを診る専門病院を作るしかない。公立病院に関しては、そこに当たる確率を高くするという方法もある。病院側の反対にあってそれが出来ないのであれば、菅総理大臣が直接権限を下せる自衛隊中央病院を指定するしかないだろう。いずれにしても、生物学や医学的な新型コロナウィルスの実体と、現在報じられている新型コロナウィルスの脅威があまりにもかけ離れていることが一番の問題だ。なぜⅠ類相当の厳しい分類に置き続けているのか理解しかねるが、穿った見方をすれば、分科会などコロナ禍でクローズアップされて来た人たちの中には、ようやく注目を浴びたこの座を降りたくないと思う人がいたり、或いは、普通の風邪の分類に戻した時に、今までやってきたことの意味を問われて、それにきちんと答える自信がない人たちばかりなのではないか。

――マスメディアは騒ぎ続けるだけで、抜本的な解決法を提示しようとしない…。

 木村 日本では感染者数も死亡者数も抑えられ、かつ大規模な財政出動を行っているのに、GDPは落ち込んだままだ。経済が疲弊していけば失業率も上がり、失業率と完全相関関係にある自殺率も増えてくることになる。新型コロナによる死亡者数は約1万4千人だが、すでに今の自殺者数は2万人超となっており、明らかに多い。にもかかわらず自殺のことは何も報道しない。ここまでGDPが落ち込めば年金も削られてくるだろう。感染を怖がる高齢者の多くは地上波テレビを見て、ウィルスをばらまく元凶は若者達だと思い込み、他の事実を考えようとしないが、こういった事に気づかずにメディアの報道だけに左右されてしまうのは一種のパラノイアだ。メディアに左右される高齢者を少なくしていくために出来ることは、政府やメディアが正しい情報を流し続けることだけだろう。ワクチンの効果について言えば、中長期的な効果はリアルデータが出ていないためわからないが、半年から1年程度の短期的には効果がある。重症化しやすい高齢者の接種率が高まれば、重症化リスクも収まってくる。ただ、基本的に風邪のウィルスであるコロナウィルスは冬に活発化する傾向にあるため、秋冬に再びウィルス感染者が増加し始めた時に、医療ひっ迫だと騒ぎだす人たちが出てくることは考えられる。そうすると、また社会的におかしな状況になる可能性も出てくる。

――今回の新型コロナウィルスでの政府の対応には本当にあきれるばかりだ…。

 木村 流行当初、ハーバードメディカルスクールでは、重症化しやすいのは65歳以上であるため、該当する人たちはリモート診療や宅配を利用した薬の受け取りなど、人と接しないように徹底させた。一方で、日本の医師会は、高齢者は歩かないとストレスになるとして、出歩くことを推奨した。高齢者が毎日クリニックに来てくれなければ自分達のクリニックが干上がってしまうからだ。それに対して政治家も異を唱えず、代わりに若者を悪者に仕立て上げた。本来ならば、重症化しやすい65歳以上が出歩かなくても済むように国が制度を整えるべきなのに、高齢者にクリニックに来てもらうためにデマを流すとは、日本医師連盟が自民党の政治団体であるが故の大失策だと言わざるをえない。本当に怒りがこみ上げる。と同時に、私は今回のコロナ禍で医療の無力さを感じた。結局、コロナ禍でクリニックに行く人たちは減ったが、それで死亡者も減っているという事は、医療機関に行ったところで死亡率は下がらないという事だ。以前、夕張市で大病院が潰れた時に「高齢者が病院に行くことが出来なくなり、死亡率が上がるのではないか」と言われたことがあったが、豈図らんや、死亡率は激減した。つまり、病院に行っても行かなくても死亡率は変わらない。社会保障費の中の医療費を考えなおす良い機会かもしれない。

――日本が先進国としてこのコロナ禍を確実に終息させるために必要なことは…。

 木村 日本はリアルデータを取ることが非常に遅れている。ワクチンの治験にしても大規模治験を行ったことがない。今回のワクチン接種にしても、私は、高齢者に対しては社会を回していくために必要だが、今までの有害事象をみていると、若者に対してはもっと慎重に接種を進めても良いのではないかと思っている。ただ、そういったデータを取るノウハウがなく、解析できる人材もいない。本来ならばデータをもとに話をしなくてはならないのに、日本は思いつきで政策決定が行われていく。エビデンスに基づかない政策決定は極めて非効率的で、最終的に政府を間違った方向に向かわせてしまうリスクがある。緊急事態宣言を2週間と定めるならば、その数字の理由は何なのか、過去の実施によってどれだけ効果があったのか、エビデンスはきちんと国民に知らせるべきであり、そういったデータすら取っていないようでは先進国とは言えない。感情論ではなく冷静なデータを解析することによって導き出される政策決定が、今の日本に求められている。(了) 

筑波大学、ジョンズホプキンズ大学(MPH)卒
米国CDC多施設プロジェクトコーディネイター、厚生労働省統計情報部ICD室長などを務め
2015年より現職。
著書に、「厚生労働省崩壊」(講談社)、「厚労省と新型インフルエンザ」(講談社現代新書)、「新型コロナ、本当のところどれだけ問題なのか」(飛鳥新社)、「ゼロコロナとう病」(産経新聞出版)など。

撮影:上平庸文

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