金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「見直される相互会社の価値観」

明治安田生命保険
取締役代表執行役社長
グループCEO
永島 英器 氏

――明治安田生命保険相互会社の新社長として課題は…。

 永島 今の時代、デジタル化は不可逆的なものとして進めていくべき課題だ。しかし、私は、最後は人間力が勝負だと思っている。というのは、人工知能(AI)によって作り出されたロボットには「死」がないため、生命保険会社が常に接し、人間として避けることの出来ない「死」という不安に寄り添う事が出来ない。寄り添う事が出来なければ、お客様との絆を深めることは出来ないからだ。デジタルを使いこなすことは勝負の土俵に乗るための前提であり、そのうえで、当社としては人間力で勝負すべく、お客様一人一人の日々変わりゆく要望に誠実に対応できるような体制づくりを心掛けている。

――株式会社化はせずに、「相互会社」としての意義を貫いていく…。

 永島 我々相互会社の保険は、運命共同体として同じ船に乗っていただいている、いわゆる「メンバーシップ型保険」だ。配当請求権もあれば社員投票権もある。「人にいちばんやさしい生命保険会社」を目指し、基本理念である「明治安田フィロソフィー」のもと、相互会社としてのあるべき姿をもう一度見直して、お客様志向の業務運営を徹底していくつもりだ。世の中的にも持続可能性やSDGsが重要視される流れにあって、相互会社的な価値観が再び見直されていくのではないか。

――デジタル化への進め方は…。

 永島 デジタル化することによって仕事が効率化される部分は多々あるが、いわゆるジョブ型雇用ではなく、雇用においても「メンバーシップ型雇用」という形を貫き、明治安田フィロソフィーを体現できる職員を長期的時間軸で育てていく方針だ。もちろんその条件として、職員一人一人の自己変革と自己成長は欠かせない。今年4月には、事務職員約2,000名で構成する「事務サービス・コンシェルジュ」という職務を作った。これまで社内で事務仕事だけに専念していた人たちにも、営業職員と一緒にお客様を直接訪問してもらう機会を作り、そこで一緒に手続きを進めていくような取り組みを行っている。デジタル化により仕事が効率化できた分、一人一人に新しいチャレンジの場を提供することで自己変革・自己成長に繋げていってもらいたい。

――長寿化や少子化という課題について…。

 永島 少子化は世界中の課題であり、それを業績の言い訳にしようとは思っていない。我々としては、いかにお客さまの数を増やし、ご契約者の満足度を高められるかの話だ。今、当社では「健康と地域」を2大テーマに、健康増進や地域活性化に向けた取り組みを進めており、そこでお客様に対して未病、早期発見、重症化予防などに関連した商品サービスの提供や、地域の健康診断に貢献する取り組みを行っている。こういった社会貢献によって、会社の存在や職員が評価を得ることが出来ればよい。長寿化や少子化よりもリスクとして考えられることは、金利リスクだ。2025年から保険の国際資本基準(ICS)が適用され、経済価値ベースの資本規制が導入されることも見据えて、出来るだけ金利リスクは下げておきたいと考えている。

――マイナス金利と量的緩和という状況で運用は厳しいと思うが、対応策は…。

 永島 運用環境が厳しいのは事実だが、その様な中にあって資産運用の重要性が増していることも事実だ。特にマーケットの透明度が以前よりも増している中で、大きな変化のタイミングを機動的に捉えて総合収益を狙う事、そして中長期に成長の場に身を置く事が重要だと考えている。後者について言えば、例えば海外の保険会社への出資や投資、保険会社以外でも海外株式や債券投資は大事にしたい。当社は2015年に米国上場生命保険のスタンコープ社を買収したが、順調に成長している。現在のグループ全体の収益に占める海外保険事業等の割合は約10%で、2027年までに15%以上に引き上げるという計画を立てている。その数値目標に向かって、引き続きマーケットの状況を見ながら絶えず良い機会を窺っているところだ。

――アジア地域への進出についての考え方は…。

 永島 成長の場に身を置くことが大事だという考えのもと、当然、アジアという地域は重要だ。一方で、政治的なリスクがあることは否めない。実際に、2年前にミャンマーに間接出資したのだが、当時は大変平和だったと感じたあの国が、今では混乱を極めている。長い目で見れば、今のミャンマーの混乱が永遠と続く訳ではないと思うが、地政学リスクを注視することも重要だと考えている。

――業務提携やM&Aなど、国内における戦略は…。

 永島 様々な会社で、元請け会社を子会社にしたり、ある部署を分離させて別会社を作ったりといった動きがあるようだが、当社は今のところそういったことは考えていない。生命保険会社と損害保険会社は法令上、別会社にしなくてはいけないという決まりがあるため一緒にすることはできないが、分離させなければならないビジネスが多くある訳ではない。また、中心的チャネルが当社の営業職員であることも変わらない。ただし、従来の営業スタイルのままではなく、コロナ禍を契機に進展著しいデジタル技術の活用等、変革が必要であると捉えている。そして、今国内で注力していることは法人営業部門と個人営業部門の人材の交流だ。例えば、法人部門でお付き合いのある会社の団体保険や団体年金に入っていらした加入者が、定年となり退職された後は一個人になられる。その時に当社の営業職員が、その方が不安に感じられる部分をいち早く汲み取り、スムーズにご案内をできるよう、色々な形での法人と個人の融合を考えている。

――新社長としての抱負を…。

 永島 2020年4月からスタートした10年計画「MY Mutual Way 2030」では10年後に目指す姿を定め、その土台となるサステナブルな社会づくりへの貢献にかかる取り組みを強化している。加えて今年4月からは3カ年プログラム「MY Mutual Way 1期」もスタートした。根岸前社長(現会長)が敷いたこの路線をまっすぐに突き進むことにいささかの揺らぎもない。メンバーシップもそのこだわりのひとつであり、ひとりひとりの「自立した個」を原点にして「明治安田生命フィロソフィー」を体現した活動を、真摯に、誠実に実行していきたい。その結果としてお客様の満足度が高まり、会社のブランド価値があがり、成長の証として処遇もよくなっていくという事が理想の循環だ。ただ、美しい理想の循環を作っても、多くのひとが実感できない世界ではいけない。新しい世界に対応していくために、社会的価値と経済的価値の両方をしっかりと高めていきながら存在感のある会社であり続けなければならない。起点となるのは、「ひとりひとりの心」だ。(了)

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