JERA
代表取締役社長
小野田 聡 氏
――JERAは世界最大級の燃料取扱量を誇るエネルギー会社となった…。
小野田 JERAは2015年に東京電力と中部電力が設立した会社だ。両社の海外発電事業、燃料事業と火力発電事業を2019年までに段階的に統合してきた。日本の約3割の電気をつくる国内最大の発電会社であり、燃料の上流開発から、調達、輸送、受入・貯蔵、発電、電力・ガス販売までの一連のバリューチェーンを確立し、燃料の液化天然ガス(LNG)の取扱量は世界最大規模を誇る会社となった。事業領域をさらに拡大していくためには、グローバルな事業展開が重要だと考えている。グローバルなエネルギー企業としてさらに成長していくことで、JERAの企業価値を向上させていくとともに、国内には安定して安価なエネルギーを供給していく。
――なぜグローバルに事業展開するのか…。
小野田 JERAはグローバルに展開する事業を通じて、日本のみならず「世界のエネルギー問題に最先端のソリューションを提供する」ことをミッションとしている。その中でも、地球温暖化対策を経営の最重要課題と考えている。火力発電は、日本の電力需要の約8割を支える一方で、国内のCO2排出量の約4割を占めており、脱炭素社会の実現には火力発電からのCO2排出量削減が欠かせない。当社は国内最大の発電会社であり、脱炭素社会の実現を積極的にリードしていく責任がある。2020年10月に2050年におけるCO2排出実質ゼロへの挑戦「JERAゼロエミッション2050」を宣言した。まずは、海外の発電事業で培った知見を活かせる大規模な洋上風力発電を中心に再生可能エネルギーを拡大していくが、再生可能エネルギーだけでは自然条件に左右されてしまう。そこで、燃やしてもCO2を排出しないアンモニアや水素の燃料を導入した「ゼロエミッション火力」で支えていく。この組み合わせによって2050年の脱炭素を目指し、その道筋として「JERAゼロエミッション2050 日本版ロードマップ」を掲げた。
――技術開発にはかなりの資金が必要になると思うが、収益見通しは…。
小野田 2020年度の燃料費調整制度の期ずれを除いた純利益は約1100億円となっており、2025年度には2000億円の純利益を目標とする計画に対して、予定通りに進んでいる。基本的な収益源は国内の火力発電事業、トレーディングなどの燃料事業、海外発電事業だ。特にトレーディング事業に関しては安定している。国内の電力需要はこれ以上大きくならないため、今後はトレーディング事業や海外発電事業を中心に拡大していくことになる。海外事業については米国やアジアを中心に展開しており、特にアジアにおいてはバングラデシュの発電事業会社サミット・パワー社に出資、参画することで、プラットフォームとして発電事業を展開する戦略を立てている。国内では老朽化した火力発電所があり、それらをリプレースしていくことも一つの課題だ。今は最高効率の火力発電所を新設しており、それらを古い発電所と入れ替えていきながら、火力発電全体の効率化を図っているところだ。原子力発電が思うように稼働できない状況にあり、最近では再生可能エネルギーが組み込まれてきたが、その再生可能エネルギーの調整力を確保するという観点では、火力発電は重要な役割を果たしている。
――現在、一番力を入れていることは…。
小野田 やはり「JERAゼロエミッション2050」だ。燃やしてもCO2を排出しない「ゼロエミッション火力」であるアンモニアや水素による発電には、技術的な課題も多いが、自ら主体的に脱炭素技術の開発に取り組んでいる。愛知県の碧南火力発電所において、2024年度には大型の火力発電所で世界初となる、燃料の20%をアンモニアで発電する実証を行い、技術を確立していく。アンモニアについては、2024年度に実証実験を始め、2030年までに本格運用を開始。その後、アンモニアの割合を高めていき、2040年代にはアンモニアだけでの発電を目指す。水素については2030年までには実証と技術的な課題の解決に努め、2030年代に本格運用を開始し、その後も水素の割合を高めていく予定だ。
――グローバル企業として海外事業の脱炭素は…。
小野田 国や地域毎に最適なロードマップを策定することに注力している。これは特にアジア地域を意識しての取り組みだが、その国や地域のエネルギー事情、例えば国を越えての送電網やパイプラインの有無等によって脱炭素へのアプローチは変わってくる。そのため、国ごとのステークホルダーの方々と相談しながら、その国に一番適したやり方でゼロエミッションに向けたロードマップを策定していくことが重要だと考えている。アジアには電力の安定供給が追い付かないほど経済成長している国もある。今後も沢山のエネルギー需要が見込まれるが、それらをすべて再生可能エネルギーで賄うことは難しい。そこでJERAのアプローチである「ゼロエミッション火力」をステークホルダーに提案し、解決策の一つになれば、その国の発展にも寄与することができると思う。共に成長し、共に発展しながら、一緒になってゼロエミッションを実現していきたい。
――ゼロエミッションに向けて国に対して何か要望は…。
小野田 我々は、アンモニアを主体とした「ゼロエミッション火力」を進めているが、そもそもアンモニアが燃やしてもCO2を出さない燃料だということがあまり認識されていない。特に、欧州では水素しかCO2を出さない燃料として認識されていないため、今後、仮にアンモニアを石炭火力発電所で燃やすことは認めないというようなことになってしまうと、我々がアジアなどとともに解決しようとしている施策が真っ向から否定されることになってしまう。石炭火力発電所へ燃料となるアンモニアを導入し、アジアなどの国々と一緒にCO2削減の取り組みをしていくことを認めてもらうためには、国のバックアップが欠かせない。先日のG7では梶山経済産業大臣がアンモニアなどのゼロエミッションに向けた取り組みを説明して下さり、大変心強かった。アンモニアがCO2削減に役立つという事をもっと世界に広めていただきたい。もちろん、我々自身もしっかりと発信していく。
――最後に、抱負を…。
小野田 コロナ禍となり、当社でも緊急事態宣言中ではオフィスワークの社員のテレワーク率は8割となった。テレワークは世界とのつながりを近くしてくれる。これに、チームワークをどのように位置づけていくのかが課題となっているが、新しい働き方を模索しながら社員とその家族が幸せになるような会社を目指していきたい。同時に、東南アジアのような国々の発展に貢献できるようなエネルギー供給のお手伝いをする事の喜びを、社員と一緒に分かち合っていきたい。「社会貢献をどのように実現していくか」。社員と一緒に考えながら邁進していきたい。(了)