金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「SDGs債で主導的地位に」

鉄道建設・運輸施設整備支援機構
理事長
河内 隆 氏

――鉄道建設・運輸施設整備支援機構の事業の概要は…。

 河内 当機構は、鉄道や船舶による交通ネットワーク整備や、その支援を総合的に実施する独立行政法人だ。主に鉄道施設の建設、船舶の共有建造を行っている。事業のうち鉄道建設事業では「整備新幹線」を建設しており、現在は北海道・北陸・九州の3つの整備新幹線を建設している。また、整備新幹線以外にも多くの都市鉄道を建設してきており、例えばつくばエクスプレスやりんかい線など、これまでに全国3600キロメートル以上の鉄道路線を建設してきた。一方、船舶の共有建造事業では、これまでに約4000隻の船を共有建造し、船主と言う面では日本最大だ。共有建造とは、内航海運事業者(以下「事業者」という)と共同で船舶を建造、当機構と事業者がその船舶を共有し、事業者からの船舶使用料により、当機構が分担した建造費用の弁済を受ける仕組みだ。事業者の多くは中小企業であり、多額の初期投資が必要となる船舶を単独で建造することは難しいため、そのサポートをしている。また、電気推進システムを採用する「スーパーエコシップ(SES)」など環境にやさしい船舶の建造にも取り組んでいる。鉄道や船舶はいわばグリーンインフラであり、欧州でも飛行機から鉄道へ移動手段を転換する動きが見られている。何よりも一度にたくさんの人や物を運ぶことができ、航空機やトラックなどと比べエネルギー効率に優れている。人や物を1キロメートル運ぶ際のCO2排出量を見ると、旅客輸送では鉄道は自家用自動車と比べ8分の1、貨物輸送では鉄道は営業用貨物車と比べ12分の1、船舶は5分の1程度の排出量だ。それだけではなく、鉄道は移動時間の短縮など利便性の向上、特に整備新幹線は地域経済の発展に大きく寄与している。船舶も国内外の貨物物流に多大な貢献をしているほか、離島に住む人々の生活に欠かせない足となっているなど、社会課題を解決するソーシャル性も有している。当機構の事業そのものがSDGsへの貢献を内在している。

――SDGsへの取り組みは…。

 河内 当機構は、基本理念として「明日を担う交通ネットワークづくりに貢献します」を掲げており、国連でSDGs目標が策定されるずっと前から、「環境にやさしい交通」や「人々の生活の向上と経済社会の発展に寄与」することをうたっていた。われわれはSDGsとの親和性が高い組織風土やDNAのもとで、事業活動を行っている。このような事業活動を通じて、温室効果ガスの排出量が少ない、環境にやさしい交通体系の整備に貢献していくだけではなく、建設廃棄物のリサイクルや生物多様性の保全などの環境配慮に関する取り組みも実施している。例えば、整備新幹線の多くのトンネル工事において、ベルトコンベア方式によるトンネル掘削土の運搬を行っており、従来のダンプトラックによるトンネル掘削土の運搬よりCO2排出量が削減されるとともに、トンネル内作業の安全性向上や作業環境の改善に貢献している。このほか、トンネル工事で排出された工事排水について濁水処理設備を設置したり、掘削土についても他の工区の盛土材として流用するなど有効利用に努めている。

――SDGs目標への重点的な取り組みは…。

 河内 国連のSDGs目標については、17あるSDGs目標のうち、現在は5つの目標達成に貢献することを重点的に推し進めている。5つの目標とは、8(働きがいも、経済成長も)、9(産業と技術革新の基盤をつくろう)、11(住み続けられるまちづくりを)、13(気候変動に具体的な対策を)、14(海の豊かさを守ろう)だ。当機構の事業においては、「地球温暖化対策等の推進」、「バリアフリー法に対応した安全で快適なサービスの提供」、「モーダルシフトの推進」、「海洋分野における技術研究開発・新技術の普及促進」などを行っている。2030年のSDGsの目標達成に向け、持続可能でレジリエントな社会の実現に一層貢献していきたい。

――鉄道・運輸機構債はCBIプログラム認証を取得された…。

 河内 当機構の資金調達においては、SDGs債への取り組みが非常に重要と考えている。当機構の事業そのものには環境改善効果のグリーン性と社会課題解決というソーシャル性の双方を有しており、その両方の特徴を持つサステナビリティボンドを2019年度から継続発行している。現在は年4回発行しており、これまで累計で9回発行した。このサステナビリティボンドについて強調したい点は、ただ単に「グリーン」という冠が付いているだけではなく、グリーンの質に対する信頼性をきちんと確保して発行しているということだ。そのために厳格な基準を設ける国際認証機関のCBI(Climate Bonds Initiative)からの認証取得にチャレンジし、アジアで初めてプログラム認証を取得した。このプログラム認証を取得できたということは、今後も質の高いサステナビリティボンドを継続的に発行するという投資家の方への発行体としてのコミットメントだと考えている。今後発行する債券もすべてSDGs債として発行したい。2019年に初めてのサステナビリティボンドの発行を開始してから2年余りが過ぎ、投資家の皆様から累計197件の投資表明という形で多くの賛同をいただいており、非常に心強いサポートをいただいていると感じている。改めてこの場をお借りして御礼申し上げたい。

――鉄道・運輸機構債の発行で注力していることは…。

 河内 IR活動も積極的に行っており、個別のものやセミナーを年間数十件、開催している。去年からは新型コロナの影響を考慮しオンラインでの開催に力を入れた。環境報告書の発行なども行っており、われわれの環境への取り組みを周知している。数多くのIR活動などを通じた情報発信によりCBI認証付きのサステナビリティボンドが評価され、直近の10年債においては地方債と同水準での発行を達成している。また、毎年2月の時点で翌年度の発行計画を公表したり、複数年限の発行を行い年限のバリエーションを持たせていることで、投資家の方が事前に購入計画を立てやすくしたり、様々な投資家のニーズに合致するような発行を心掛けている。

――河内理事長はこの3月に就任された…。

 河内 まず、北陸新幹線の工期遅延などでは、地域の方々をはじめ関係者の皆様に多大なるご迷惑とご心配をおかけし、改めてお詫び申し上げたい。原因としていろいろな要素はあるが、加賀トンネルで地下水が鉱物を含んだ土に接触して膨張する「盤ぶくれ」や、敦賀駅で在来線と整備新幹線の対面乗換方式から上下乗換方式への工法変更があったことへの的確な対応がとれなかったためと考えている。これに関連して当機構における、関係者間の情報共有体制や、本社・支社・現場間の連携に反省すべき点があった。開業時期が決まっている以上、地元の方々の事業や並行在来線の準備などに、多大なご迷惑をおかけしてしまった。当機構として、「業務執行体制の強化」等、地域密着型組織への改善措置に取り組むとともに、関係者とも連携し徹底した組織改革を進めている。組織改革を進めるに当たっては、当機構の「鉄道・船舶を中心とした、安全で安心な環境に優しい交通ネットワークを確実に整備する」というミッションを再確認したうえで、「変えてはいけないもの」と「変えるべきもの」を明確に見極め、「変えるべきもの」は変え、しかも大胆かつ柔軟に変えていくことが当機構として重要であると考えている。直面する課題を解決するために、ルールやマニュアル通りに進めるのではなく、徹底的に考えチャレンジしていく「ミッションドライブ型」の業務展開を進めていきたい。また、「2050年カーボンニュートラル」に向けた気候変動対策への取り組みが世界中で加速しており、日本でも5月25日には地球温暖化対策推進法の一部を改正する法律が国会で可決・成立した。当機構がこの変革の時代のなかで2050年の未来社会の構築に向け、何をなすべきか今まで以上に真剣に考え、事業や取り組みも進化・発展させていくことが求められている。鉄道や船舶は日本が住みよい国であり続けるためにはなくてはならないものであり、交通ネットワークの未来に向け、国民全体の社会資本である交通インフラを支えていくことが当機構の使命だ。鉄道建設や船舶共有建造事業などを通じて、持続可能でレジリエントな社会の実現に貢献するとともに、良質なSDGs債を継続的に発行することを通じてわが国のSDGs債市場の発展・拡大にも貢献する、リーディングカンパニーであり続けたい。

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