金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「フロー確保の顧客基盤に注力」

東海東京フィナンシャル・ホールディングス
代表取締役社長
合田 一朗 氏

――コロナ禍において証券ビジネスの進め方に変化は…。

 合田 昨年4月に1回目の緊急事態宣言が発令され、世間一般の変化と同様に、従来からの課題であったテレワークが一気に進んだ。東海東京証券では役員も含めてローテーションを組み、出社率7割削減を実現させた。しかし、テレワークインフラがないまま社員の出社を抑えこんだことのダメージは当然大きく、昨年度の第1四半期は東海東京証券単体では赤字となった。ただ、対面でのブローキングビジネスは想像していたほどのダメージはなかった。私はもともと銀行出身なのでストック感覚で物事をとらえる癖がある。コロナショックが起きて相場の動きを見た時も、一瞬、このままで立ち行くのだろうかという不安がよぎったが、証券会社は相場が動くことでビジネスにつながる面が多々ある。役員も含めて社員は逞しく迅速に動いてくれて、非常に頼もしかった。お客様対応で気を遣う面はあったものの、高い流動性の中で相場の雰囲気は悪くなく、本当に落ち込んだのは最初だけだった。今は恒常的なテレワークを前提として不動産などの効率化を具現化しようとしている。コロナ禍が落ち着いた後のために、今、如何に無駄をそぎ落とした筋肉質な体制にしておくかが重要だと考えている。

――証券の対面営業に変化は…。

 合田 証券会社の対面営業は引き続き残っていくだろう。一方で、持株会社である当社としてはデジタル化や他の金融機関との連携を深めたプラットフォームビジネスを進めている。そこで、金融機関や事業法人、IFA(資産アドバイザー)に対してデジタル化を含めた金融サービスを提供することで、顧客基盤を拡大していく予定だ。ブローキングチャネルの多様化はグループ戦略として着々と進めている。それらがどれだけ収益の柱になっていくか、今後に期待している。

――手数料低下の波が広がっていることについては…。

 合田 ネット系証券会社から始まった手数料の低下が他の証券会社にも圧力をかけていることは事実だ。しかし、ネット証券すべてが無料化に進んでいる訳ではないところを見ると、それほど大きなダメージにはならないと見込んでいる。構造的に、ブローカレッジ業務の収益が急激に広がるというようなものでもない。ただ、いざ無料化が当然という世の中になった時に備えて、フローをしっかり獲得できる仕組みを作っておくことは大切だ。例えば仕組債などの商品を内製化するなどして、フローに対する収益性を手数料収入だけに頼らなくて済む体制を整えておかなければならない。そのために、東海東京証券が持つフルラインナップのディーリング部隊が活躍してくれるだろう。色々な面でフローを増やしていくことが一番重要だと考えている。

――証券会社と地方銀行の連携においては囲い込みが進んでいるが、他と差別化を図る戦略は…。

 合田 当社と地方銀行の出資比率4対6の合弁型で、地方銀行の子会社となる証券会社を設立している。我々は証券機能を提供するが、地方銀行側から見て自己還流する形になる事をモットーとしている。それが安心と信頼につながり、当社の強みにもなっている。銀行には銀行のやり方があり、それを乱すことなく、しっかりと迅速に黒字化するように連携していくことが、地方銀行サイドの安心感につながっている。例えば、大手証券のサポートの下で独自に証券会社を立ち上げられたようなところも見てきたが、黒字化に苦戦しているようだ。単独で証券会社を立ち上げられた方々からは、「東海東京のような合弁型でいけば黒字化への立ち上がりが早い」と仰ってくださっているという声も耳にする。今後は提携合弁証券の設立とは異なる形も含め、模索していくことになろう。また、事業法人の中にも、今自分たちが抱える会員・顧客に金融商品を提供したいという思いを持たれているところもある。一昨年、東海東京証券は高木証券と合併したことで、独立系金融アドバイザー(IFA)専門部署を新設することが出来た。そういった部署もフル活用して、事業法人との提携にも注力していきたい。

――ホールセールとリテールのバランスについては…。

 合田 東海東京証券におけるリテールでのブローカレッジが急激に減ることは無いと思っているが、一方で、手数料に関しては徐々に縮まる可能性がある。そのために、IFA部隊や地方銀行等の連携を活用してフローを集め収益を確保していくつもりだ。そのための人材やシステムは整えている。また、ホールセールではIPOをはじめとしたプライマリービジネスの強化に注力していく。すべてはフローを確保するための顧客基盤がしっかりしているという事が鍵となる。そのために、東海東京証券だけでその地盤を広げていくのか、或いは、地方銀行等様々なところに商品を提供しながら他社との連携でその地盤を確保していくのか、そういったところが今後の戦略になっていく。手数料ゼロの動きが広がりを見せる中で、プライベートエクイティやプライベートデッドに注力する証券会社もある。我々としてはまだそこまで注力していないが、しっかりとフローを受け止めてくれる顧客基盤が出来て、将来的に収益を生み出すプロダクトの拡充という意味では、それも良い考えなのではないか。

――高齢者層と資産形成層では資金力が全く違う。それぞれへの対応は…。

 合田 資産形成層へのアプローチとしては、「東海東京デジタルワールド」というデジタル戦略で資産管理アプリをベースに、多様な金融サービスを低コストオペレーション展開しているほか、「MONEQUE(マニーク)」という店舗で、証券、生命保険、住宅ローンへのニーズに対応している。一方で、富裕層向けには「Orque d’or(オルクドール)」というブランドを中心に個別性の高いサービスを提供している。

――フィンテックやオルタナティブ等、超低金利が続く中で今後強化していくことは…。

 合田 フィンテック関連には人材の投入も含めて相当出資しており、実際に「東海東京デジタルワールド」はフィンテックという言葉が広まる前から始動していた。フィンテックで収益を得る仕組みを作るのは確かに難しいが、取り組みとしては積極的に踏み込んでいる。また、オルタナティブについては、一定のグローバルネットワークを通じていくつか独自のファンドを提供できるような環境は整えている。

――ここ数年、外国株にシフトする証券会社が収益を上げている…。

 合田 外国株は、他証券会社への提供等も含めて東海東京証券でかなり扱っており、現在の収益の大きな柱となっている。ただ、1つの商品に偏っていては、変動があった時にお客様のポートフォリオや我々の業績に多大な影響を及ぼしてしまう。国内、海外、株、債券、その他オルタナティブなども加えて、お客様の投資目的に合わせてバランス良く組み合わせていくことが大切だと考えている。その他、最近では不動産や介護など、本来の証券業務とは少し違う分野に進出しているような証券会社もある。我々としては、今のところ証券機能を金融機関や事業法人へ提供することを事業の柱としており、少し離れたところではデジタルツールの提供を行っているくらいだが、富裕層へのサービス提供の延長線として、不動産事業や介護事業を証券に絡めて収益確保の活路を見出すという事も、今後の選択肢としてはあるかもしれない。

――最後に、東海東京FHの新社長としての抱負を…。

 合田 先ずは、これまで進めてきたグループ戦略をしっかりと堅持し、私なりに咀嚼しながらスピードを上げて実現化させ、定着させていくことに尽力したい。私が得意とすることは、展開している戦略を着地させることだと自負している。その強みを活かして、今、目の前に広がっている沢山の施策をしっかりとこの会社に根付かせていきたい。その後、時世に応じた新たな方向性を見つけて広げていくことになろう。その時には、石田前社長(現 会長)のもとでこれまで見てきた発想力豊かな戦略展開を参考に、新社長としてしっかりと業務を進め、成果を上げていくという責務を果たしていきたい。(了)

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