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「こども食堂で地域を活性化」

全国こども食堂支援センター・むすびえ理事長
東京大学特任教授
湯浅 誠 氏

――先ず、「こども食堂」とは…。

 湯浅 殆どの「こども食堂」は年齢を限定せず、地域の交流拠点として広がっている。よく誤解されがちなのだが、経済的に本当に貧しくて食事が食べられないような子どもたちのための食堂という訳ではなく、子ども達の保護者や地域の高齢者などみんなが集う、いわゆる昔の「子ども会」のような場だ。今の日本は過疎化が進み、地域内のつながりが寂しくなってきた。地域の活性化のためには、「こども食堂」のように皆が自由に集まれる場が必要であり、実際に「こども食堂」が全国的に広がってきているのは、地域のつながりの希薄化を少しでも盛り返そうと思う人たちが多くなってきていることの現れだと思う。今、全国に4960カ所の「こども食堂」が存在する。これは全国に存在する4000カ所の児童館を超えた数であり、この4年間で16倍と爆発的に増えている。我々「むすびえ」では、2025年までに全国2万カ所ある小学校の区域すべてに「こども食堂」を設置することを目指している。

――「こども食堂」はどのように運営されているのか…。

 湯浅 運営者は基本的に民間ボランティアであるため、曜日も時間帯もそれぞれの都合で運営されている。先述したように、その多くが貧困の子どもの為の食堂という訳ではないため、例えば80~90歳代の一人暮らしの高齢者が一緒に食事をし、その後、買物の手伝いまでするようなところもある。一緒に食事をすると、気づくことがたくさんある。そして、それぞれが置かれた環境を理解して自分に出来ることをやろうと考える。そういった意味で、ある種の貧困対策にもなっていると思う。食料を扱うため、保健所への届け出は必要だが、それ以外の市役所などへの登録は必要なく、国の管理下にある訳でもない。先述した4960カ所という「こども食堂」の数も、我々が調べたうえでの数字だ。

――例えば、実際に自分が「こども食堂」を利用したい、或いは開催したいと考えた時には、どうすればよいのか…。

 湯浅 我々「むすびえ」に連絡をくだされば、近くの子ども食堂を紹介する。そこで現場を見ていただければ、運営方法がわかるだろう。その方法を参考に、実際にご自分で開催すればよく、こういった取り組みに関わる企業も出てきた。例えば「ファミリーマート」や「串カツ田中」、スーパーでは「イオン」や「マルエツ」などは、食品の売れ残りを減少させるため、或いは地域にファンを作るため、事業として「こども食堂」との連携を始めている。その他、金融機関でも「こども食堂」への支援の輪が広がっている。

――金融業界でも、様々な形で「こども食堂」への支援が始まっていると…。

 湯浅 例えば鹿児島銀行は2年前、創業140周年記念行事として「こども食堂」への応援事業を行った。その後も、市内の市場で規格外の農作物を購入して「こども食堂」に分配するといった形で支援を続けている。また、少し変わった形での支援としては、野村證券の健康保険組合が、社員の健康管理のためのスマートウォークキャンペーン参加を通じて「こども食堂」に寄付をするといった例もある。鹿児島銀行や野村證券に限らず、そういった支援活動は広がってきており、我々「むすびえ」では、企業からアドバイスを求められた時にこういった実例を紹介して、その企業にとって一番やりやすい方法で、かつ社員にとってもメリットのある方法を一緒に考え、企画していくというサポートを行っている。

――「こども食堂」が始まったきっかけと、今後の展望について…。

 湯浅 9年前、大田区の八百屋さんが初めて「こども食堂」というのれんを掲げた。これが、いわば「1号店」だ。それが良い取り組みだと周りから評価されて、自然と広まっていった。本店や支店、フランチャイズといったような関係は全くなく、皆がそれぞれ勝手に取り組んでいる。それを「むすびえ」も勝手に応援しているというような形だが、我々が究極的に目指すのは、住民自治だ。今は自治体の活動が停滞し、自治会の役員も出来ればやりたくないといった風潮が強い世の中だが、本来、自分たちの地域は自分たちで守っていくべきものだ。財政難や人口減少、少子高齢化といった今の社会において、現代の日本社会を乗り切ることは出来ない。地域の人たちが自発的にこういった交流の場を作ることが、自治を取り戻すための大きなきっかけになると考えている。元総務省事務次官の佐藤文俊氏はこの取り組みを「子どもの貧困対策から始まり地域交流の場へと進化するこども食堂は、自治の原点に立ち返るものだ」と評された。我々もこういった信条で、日本社会の地域の作り直しに貢献していきたい。

――子供が集まるところには、親や祖父母、地域の高齢者達も集まってくる…。

 湯浅 例えば山口県の某「こども食堂」では、毎回300~400人が集まり地域のお祭りのようになっている。一方で、都会の公園では禁止事項が多く、「静かに過ごしましょう」といった看板まで建てられている。静かさを強いられた環境で子供時代を過ごしてきた若者達に「意欲が足りない」などといっても、それは育ってきた環境がそうさせているのであり、彼らに責任はない。また、今は3世帯同居が減り、子ども達が高齢の方と直に接する機会も減ってきた。高齢になると、立ち上がるのが大変であるという事や、大きな声で話さないと聞こえないという事、そういった極めて大事な人生経験をすることなく育っている子どもが少なくない。「こども食堂」で高齢の方と触れ合う機会を持てば、そういった事も自然と理解できる大人に育っていくのではないか。

――人間にとって大切な食の時間を提供すると同時に、地域の自治活動に貢献している…。

 湯浅 「こども食堂」は誰でも参加できるため、学校と同様に様々な家庭環境を持つ子ども達が集まる。そこで、例えばコロッケを初めて見るという子どもがいれば、次はメンチカツやクリームコロッケを出して食の体験を増やしてあげたり、誕生日にお祝いしてもらったことがない子どもがいれば、ケーキを作って皆で盛大にお誕生日会を開いたり、食事だけでなく、家族旅行に行ったことがないという子どもがいれば、皆で海水浴に行くことを企画する。行政の活動とは少し違う、お互いが家族のような、親戚同士のような繋がりを持つことが出来る。それが「こども食堂」だ。集団で活動を行うため、安心・安全には我々としても細心の注意を払っており、例えば、活動の最中に何かしらの事故が遭った場合に備えて、社会福祉協議会が提供するイベント保険に入ることを推奨したり、そこに加入するための掛け金を助成する制度も作っている。こういった保険料を自治体で助成しているところは少なく、大部分は我々が民間で集めた資金を使用しているというのが実状だ。

――例えば「こども食堂」に寄付をする場合、寄付金控除のような税制は適用されるのか…。

 湯浅 今の日本では、認定NPO法人としての資格があれば税額控除が受けられる。我々は2021年5月12日に「認定」を取得することができたため、当団体への寄付は、寄附金控除が受けられる。高齢化社会が進み、今後、人生の集大成としての社会貢献である遺贈寄付が増えていくと考えられる中で、「こども食堂」はその思いの受け皿候補に値する活動だ。また、現在、学校の家庭科室を地域の人たちに開放して「こども食堂」を行っている学校が全国に40~50カ所ある。学校が地域のプラットフォームになるという事は文科省も推進していることだが、一方で、学校側からすれば誰が構内に入ってくるか心配だという思いもあり、まだまだ少数だ。そういう意味では、「こども食堂」の信用がもう少し高まっていくことも必要なのであろう。我々としては、先ず、民間レベルでの連携を進めて「こども食堂」に対する企業の支援の輪を広げていく。そうすることで、行政的にも開放しやすくなるのではないかと考えている。(了)

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