金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「円借款からの卒業が目前に」

駐日タイ大使
シントン・ラーピセートパン 氏

――タイの新型コロナへの対応は…。

 シントン タイ王国ではこれまで厳しいコロナ対策を行ってきた。その結果、オーストラリアのシンクタンク、ロウイー研究所が1月末に発表した新型コロナウィルスのパンデミックへの各国対応有効性指数では世界第4位となっている。現在は変異株等の発生があり、数字的には少し悪くなってきているが、それでも4月23日時点の一日感染者数は2070人、累積数は約5万人、死亡者累計100人程度と、タイの全人口が7千万人弱であることを考えれば、他国と比べてかなり低く抑えられていると言える。コロナ対策と併せて、経済回復のための措置も講じている。例えば、公務員の在宅勤務を進め、会議や授業もリモートで行えるようにして人の移動を抑えている。県を跨ぐ移動を禁じている自治体もあり、中央政府と各自治体は緊密な連携を取っている。また、新型コロナ終息の最終的な鍵となるワクチン接種については、中国と英国から2種類のワクチンを輸入し、4月末現在で10万人弱の接種を終えている。

――外国からの入国者について、タイ政府の方針は…。

 シントン 隔離期間については、4月末までは10日間としていたが、変異株の感染者が世界的に増えてきたことを受け、5月1日から14日間としている。タイ政府としては、経済回復という面から各国からの観光客を期待しているが、そこには安全性が欠かせない。この点、日本はワクチン証明書の発行形式が決まってないと聞く。ワクチンが摂取できない人たちへの差別になるかもしれないという理由で証明書の発行に踏み切れないのかもしれないが、今後の経済回復を考えれば、ワクチン接種証明書は必要だ。一方で、コロナ発生から今年4月末時点までの1年半で、すでに1万3千人近くの日本人がタイに渡航しており、そういった方々へのタイ政府からのビザはビジネスでも観光でもすべて発行している。もちろん空港に着いてから一定期間の隔離は必要だが、例えば、ゴルフ目的でいらした方々には隔離中の宿泊施設としてゴルフ場のあるリゾート地を御案内し、PCR検査をして、結果が陰性であればそこで一日中ゴルフが出来るような対応も行っていた。(注:感染拡大防止のため、5月1日よりゴルフ隔離の措置は一時執行を見合わせている)

――日本の外交に期待することは…。

 シントン タイにとって日本は600年以上も前から貿易交流がある重要な国だ。沖縄県の泡盛も実はタイ米から作られている。近代外交の関係としては明治20年、西暦1887年9月26日に締結し、今年9月で134年。外国直接投資も日本は毎年1位、貿易に関しては、近年は中国に次いで2位となっているが、それまでは1位だった。企業登録も1万5000社の日本企業が存在し、約72,000人の日本人がタイ国内に住んでいる。国民同士はお互いの国に好意を抱きながら交流が進み、首脳レベルでの会議や交流も盛んにおこなわれている。外相レベルでも茂木外務大臣はコロナ禍となる直前にタイを訪問されたり、その後も何度も電話会談を重ねている。今後も、アセアンを中心とした国際経済安全保障などについて積極的に日本と協力できればと思う。

――タイの経済政策や資本市場育成策はアセアンの中でも抜きんでている…。

 シントン 従来の安価な労働力を競う産業で戦うことはもはや限界を迎えているため、タイ政府は様々な経済政策を打ち出している。長期的な国家戦略では、EEC(タイ東部経済回廊)という経済特区で次世代の成長分野のためにインフラ投資を行い、最先端技術の誘致を進めることを目指している。同時に、世界各国共通の問題である環境面では、官民連携で推進するBCG(バイオ・循環型・グリーン)経済政策を打ち出している。廃棄物を資源にするというサーキュラーエコノミーは日本の技術が大変参考になるため、そういった面でも日本からのアドバイス協力をお願いしたい。コロナ禍で昨年のタイの経済成長率はマイナス6.1%。今年は今のところプラス2.5~3.5%の成長が見込まれている。世界経済の状況にもよるが、ワクチン接種が進み、貿易等が回復すれば、現在進めている経済刺激策の中で内需の拡大は期待できるだろう。タイに投資している日本企業の中でも、例えば自動車産業や食料品産業などでは回復の兆しが見られ、個人消費は伸びてきている。タイの所得水準もかなり高くなってきており、それが内需の拡大につながっていくと期待している。日本はタイにとってODAでの最大拠出国だったが、その円借款からも卒業目前だ。

――中国との関係についてはどのようにお考えか…。

 シントン 中国か中国以外かというような、2つに1つの選択は出来ない。コロナ禍以前の2019年までのタイへの観光客は、日本からは180万人で、中国は1000万人超という桁違いの数字で、観光面でも中国に頼っているところがある。貿易相手国としても中国は現在第1位であり、タイだけでなくアセアン全体が中国との経済関係を断つことはできない。特に中国は同じアジア地域にあって華僑という歴史的な関係もある。国民の相互利益のために、米国、日本、中国、インドといったすべての国に対して友好関係を築き、調和の取れた外交関係を展開していきたい。アセアンの枠組みの中でも中国との関係は重要だ。その点においては中国とアセアンで協議を重ね、相互の繁栄になるようガイドラインを作っていくことを進めている。東南アジアが米中の対立線上にのぼらないよう、平和的な外交関係を築いていかなくてはならないと感じている。

――タイでは民主化運動が活発になってきている…。

 シントン 現政権のプラユット首相は2014年にクーデターを起こした元陸軍の司令官だった。クーデター後の2017年に公布された新憲法に基づき、2019年に総選挙が行われ、憲法規定として正式にプラユット政権が発足した訳だが、法律の枠組みの中でこの政権になったという事に対して反対している人たちもいる。しかし、国会には野党もいて、国民の反対の声をもとに憲法改定についての話し合いも行われている。タイは民主的な国であるため、デモをやりたければ法律に則って許可を取ればできないことは無い。大きなニュースになっているという事は、それだけ自由にやっている事の証とも言えよう。ただ、法律を超えて他の国民を脅かすような事を行った場合、警察によって取り締まりが行われるのは仕方のないことだ。それも、市民運動を力づくで抑えているという事では全くない。実弾で撃つようなことはなく、段階的に対処しているため、その辺りは、タイ王国が自由に意見を述べられる民主的な国である事の表れだと理解してもらいたい。(了)

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