金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「環境投資バブルに崩壊リスク」

キヤノングローバル戦略研究所
研究主幹
杉山 大志 氏

――CO2削減の投資が不良債権になる可能性がある…。

 杉山 日本は現在、米国やEUなどと歩調を合わせCO2削減に向けてSDGs債券やグリーン投資を盛んに行っている。さらに日本政府はグリーン成長戦略により2030年に年額90兆円、2050年で年額190兆円といった巨額の経済効果を見込んでいる。たしかにその事業を請け負った事業者や投資した投資家は儲かるものの、その一方で結局電気代を払って負担するのは国民だ。強引な太陽光発電の普及により、今でも年間2.4兆円の再生可能エネルギー賦課金が国民負担になっている。つまり、国民全体で負担するコストであることを経済効果と言っているに過ぎない。また、SDGs債券やグリーン投資に関しては、実際に中国やアメリカがCO2削減を行うかどうかが肝要だ。米国のバイデン大統領は気候変動対策を打ち出しているが、それは実際には米国の議会を通りそうにない。中国も今後5年はCO2排出量を大きく増やす計画だ。さらに地球のミニ氷河期入りや火山の噴火による寒冷化など、地球規模の気候変動リスクもある。いたずらにCO2削減に向けてグリーン投資を行うと、様々なリスクにより大量の不良債権を生み出す恐れがある。

――グリーンバブル崩壊の危機がある…。

 杉山 現在の地球温暖化対策は信憑性の低いシミュレーションに基づいて作られている。地球温暖化についてのシミュレーションでは、気温の計算結果を見ながらパラメータを変えている状態であり、予言能力は乏しい。地球温暖化のメカニズムはかなり複雑で、CO2など温室効果ガスが地球温暖化を引き起こすことがどの程度事実であるかは分からない。地球の歴史では、氷河期など現在よりずっと気温が低かった時代もあったが、5000年前などには気温が現在より高く、関東地方が海の底だった時代もあった。現在発生している気候変動が、どの程度温室効果ガスによってもたらされる温暖化であるのか、太陽の黒点運動や大気・海洋の自然変動など自然の要因によるものなのかはっきりしていない。信憑性の低いシミュレーションに基づき急激な地球温暖化が必ず起こると言う前提で、国は規制や補助金の仕組みを作ってお金を投資している。今年3月になって地球の気温は急降下したが、仮にこのような状況が続いて国の想定したシミュレーションから外れた場合、グリーン投資により活況となった市場は崩壊してしまうだろう。怪しげなシミュレーションに基づいて国が政策をつくっているというのは、まさしくサブプライム問題を思い起こさせる。サブプライム問題でも、本来なら低格付けの住宅ローンを怪しげな計算に基づく格付けで素晴らしい証券化商品に仕立て上げ、結果的に全滅している。SDGs債やグリーン投資もそうしたリスク管理から見直す必要がある。

――そもそも各国の政治はグリーン化に向かっているのか…。

 杉山 世界全体の趨勢として各国がグリーン投資を行いCO2ゼロに向かっているというのは大きな間違いだ。西ヨーロッパのエリートや首脳は気候変動対策に熱心だが、東ヨーロッパは化石燃料への依存度が高く反対している。米国もバイデン大統領や民主党のエリートは熱心に政策の提言や取り組みを行っているが、共和党はそもそも対策自体を支持しない。現在の米国にとって温暖化問題は党派問題なうえに、ニューメキシコなどのエネルギー産出州の民主党議員が造反するので温暖化対策の税や規制の法律は議会を通らない。米国は世界一の産油国かつ産ガス国であり、それで潤っている州が多いことを忘れてはならない。いま巷間で言われるほどに温暖化対策が進まない可能性は高く、これもグリーンバブル崩壊のきっかけになる。

――中国の取り組みについてはどうか…。

 杉山 また、中国も温暖化対策に取り組むといっているけれど、実際の排出量は増加する見込みだ。3月5日に発表された中国の第14次5カ年計画では、2025年までの5年間でGDP当たり18%のCO2排出量を削減するという目標があった。しかしこれは、「GDP当たりの削減」であり、中国のGDP成長が年率5%とすると、2025年の排出量は2020年に比べて10%増大するということになる。中国の排出量は、2020年に124億トンだったものが2025年に136億トンになり、この差12.4億トンは、日本の年間排出量11.9億トンよりも多い。日本がどんなにCO2削減を行おうが、中国は日本の排出量と同じだけ増やすといっているのだ。CO2の問題は中国の問題だということを、日米で共有する必要がある。

――日本のマスメディアは日本が温暖化対策で遅れていると騒ぎ立てている…。

 杉山 日本が遅れているというのは全くの間違いだ。ヨーロッパはCO2排出量削減に熱心に取り組んでいると一般に言われているが、CO2が少ないのはフランスやスウェーデンといった一部の国であって、ヨーロッパ全体で見たら石炭、ガスといった火力発電も利用されており、割合で言ったら日本と変わらない。日本も2019年には全電力の6.2%は原子力、6.7%は太陽光、7.8%は水力で発電されている。原子力はすべて再稼働すれば20%を超える。また、日本の石炭燃焼技術は世界トップクラスで、この技術を世界に輸出していくことも大切だ。

――脱CO2はシリコンやレアアースの世界的シェアを持つ中国を利する…。

 杉山 現在、世界で太陽電池の材料に利用されているシリコンの半分くらいは新疆ウイグル産だ。新疆ウイグル産のシリコンは安いため各国企業が利用している。中国は環境規制がまだ緩く、石炭火力発電を利用できるため電力が安く、シリコンを安く精錬できる。人件費も安く、新疆ウイグルでは強制労働が行われている可能性も疑われていて、海外では既にかなり問題視されている。脱CO2を目指して太陽電池を導入するとしても、強制労働や環境汚染のうえに成り立っている太陽光パネルを利用するのだろうか。他のハイテク技術も同じだ。ハイテク技術にはレアアースが欠かせないが、レアアースは環境規制の緩い国で生産されており、中国本土と中国企業の海外活動で世界の7割に達している。レアアースは日本や米国はもちろん世界中に分布しているが、先進国では環境規制が厳しいためにコストが高すぎて生産されていない。中国からシリコンやレアアースを輸入して太陽光パネルや電気自動車を作ったところで、それを本当に環境に貢献していると言えるのだろうか。

――日本の環境規制については…。

 杉山 日本のエネルギー政策は伝統的に資源エネルギー庁が行っている。日本は資源がなくエネルギーをめぐり第2次世界大戦をやって敗北しているように、日本にとってエネルギー問題は重大だ。資源エネルギー庁はエネルギーの安定供給という原点に返って仕事をやるべきで、エネルギー政策に関しては環境ばかりを重視してはいけない。環境省は環境規制を強くしたいと考え、御用学者のシミュレーションや知見を聞き、脱炭素と騒ぎ立てている。エネルギーに関しては経済産業省の環境政策課などの経産省の環境を担当する部署なども議論に参加し、経済的な知見や安全保障的な観点など、環境と対立する目線からも考えなければならない。

――日本はもっと石油に頼るべきか…。

 杉山 日本は自国の資源を持っていないため、中国が南シナ海に進出してシーレーンが脅かされるなどして、石油が入ってこなくなる可能性もある。一応200日分ほどの石油備蓄はあるが、やはり脆弱であることは否めない。石炭火力発電の利点は、石炭を一定期間貯蓄しておくことができるということだ。また日本の石炭の燃焼技術は世界でもトップクラスだ。LNG(液化天然ガス)は極低温で圧縮しているため、二週間以上保存すると蒸発して減ってしまう。エネルギーの安定供給を考えるとLNGの割合を増やしすぎることは危険だ。また、再生可能エネルギーは一見国産エネルギーのように見えるが、安定的に利用できるのは水力くらいだ。風力や太陽光は、発電量のコントロールができず、電力需給がひっ迫したときや大停電時にはかえってお荷物になる。一方、原子力は燃料を備蓄することができるうえ、一度燃料を積めば1年以上は電力を安定的に生産することができるため、電源としてさらに活用していくべきだ。CO2ゼロに踊らされるのではなく、日本の安定的なエネルギー供給のため、今後も継続して石炭火力発電を続けることは必要だ。(了)

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