金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「資産運用業の使命を遂行」

野村アセットマネジメント
代表取締役社長兼CEO
小池 広靖 氏

――超低金利下が続いているが、そんな中で御社の運用方法は…。

 小池 4月1日付で、機関投資家向けにマルチ・アセットに特化した提案を行う組織を作った。低金利下において金融機関の運用難が続く中でマルチ・アセット運用に対するニーズは増しており、そのニーズにしっかりと応えるために、より一層力を入れている。全体のポートフォリオを考える中で、適正なリスク管理の中でより良いパフォーマンスを獲得していくことも重要だ。そのためのポートフォリオ分析も含めて、トータルに提案できる部隊となっている。

――SDGs(Sustainable Development Goals)について、その概念をどう捉えるかは事業会社によって様々だ。運用会社としてSDGsをどの様に捉え、どの様に関わっていくのか…。

 小池 SDGsやESGは非常に重要な社会テーマだ。課題の解決を新たなビジネス機会と捉え、それらを適切に経営戦略に反映していくことを投資先企業に求めていくことが我々の責務だと考えている。SDGsやESGへの投資を通じて機関投資家としての社会的使命を全うし投資先企業の価値を高めて、投資家の皆様にはその成果を還元する。その一連の投資の好循環の輪を、太く、大きく作っていきたい。

――金融庁がSDGsの概念を整理しようとしているような今の状況で、それらに関するパフォーマンスは本当に上がっていくのだろうか…。

 小池 確かにSDGsに関連するテーマは非常に広範だ。ただ、世の中の選好の変化や企業の持続可能な成長が重要性を増していく中で、将来のパフォーマンスに違いが出てくることは間違いない。それが何であるかをいち早く先に見つけておくことが重要だと考える。また、そのような資産運用を通じて、投資家や発行体企業側のSDGsの意識が強くなることも、世の中を変えていくための副次的な効果として期待できる。SDGsは、そういった重要なテーマだと捉えて取り組んでいる。

――SDGsに特化した部隊などは…。

 小池 当社はかなり前からESGやSDGsに取り組んでおり、そのためのオペレーションも進んでいる。ただ、SDGsに関連するテーマは広く、例えば既に販売される投資信託などでは商品としての違いが見えにくいというような声も耳にする。我々が考えるESGの定義と目標をしっかりと整理して、効果的に対外的に情報発信するための会議体を新たに作った。そこで、引き続き議論を進めているところだ。

――証券界に今後プライベート・エクイティやプライベート・デットなどのマーケットの拡大に注力していくような流れがあるが、御社の取り組みは…。

 小池 4月1日付で野村HDはインベストメント・マネジメント部門を新設した。当社はこの部門の中で、流動性の高いパブリック資産を多く扱う会社として存在しており、この部分は引き続き変わらない。流動性の低いものに関してはオルタナティブ資産を含め、グループ全体としてもより幅広いサービスとソリューションが提供できるよう体制を整えていく方針だ。注力していくセクターなどについては、グループ内で議論を進めて戦略を立てていくことになろう。それらの戦略に基づき、今後当社でも、プライベート領域への拡大・強化の具体的な取り組みを進めていくことになる。

――AIの時代となりつつあり、運用にもAI技術が取り入れられてくると、人間の力は必要なくなっていくのか…。

 小池 AIを含め先端技術の研究に注力している。日本で大きな注目を集める、ベンチャー企業のPreferred Networksと野村HD及び当社の3社で連携し、AIを使った運用手法の高度化に資する共同研究も進めている。将来的にはAIなどの先端テクノロジーを活用したファンドの設定なども目指している。しかし、だからといって将来的に日本の金融商品すべてがAI運用になり人間の力が必要なくなるようなことはない。そういった技術が使える分野と、人間の力が不可欠な分野の棲み分けが進んでいくのではないか。

――金融庁は顧客本位の業務運営を徹底させるよう促している。御社の取り組みは…。

 小池 顧客本位の取り組みは対象とするお客様によって変わってくる。例えば販売会社に対しては、当社の資産運用商品を投資家の皆様に適切に販売していくために、金融知識やコンサルティングノウハウの提供をサポートする金融リテラシー推進部を作り、対応している。投資家の皆様に商品をしっかり理解していただくためには、それを販売する金融機関の皆様がその商品を理解して納得のいく説明をしていただくことが大前提だ。当社としては、金融機関の皆様により高い金融リテラシーを獲得していただくサポートをすることで、顧客本位に繋がると理解している。また、新設した資産運用研究所では、資産運用に関する情報を発信するためのコンテンツを作成している。研究所というと少しアカデミックに聞こえるかもしれないが、資産運用を始めたいが何をすればよいか分からない、難しそうだ、と思っていらっしゃる方々に、例えば、開発したWebアプリケーションで積立投資を体験してもらう等しながら、なるべく分かりやすく資産運用の重要性をお伝えしている。販売会社様にそれらのコンテンツをご活用いただいたり、当社運営のWEB等で直接コンテンツを届けることも進めている。

――資産形成層と富裕層に対するアプローチのバランスはどのようにお考えか…。

 小池 数年後には中学や高校でも投資教育が行われるという時代の中で、当社としては、そういった若年層に「資産運用が大事だ」という意識を持ってもらうための活動を積極的に進めていく。一方で、日本の金融資産の7割近くは60歳以上の方々が保有しており、人生100年時代といわれる現状において、高齢者向けのわかりやすい研修プログラムも充実させている。世代分けをすることが主眼ではないが、販売会社の皆様のニーズに応えられるよう、高齢者向けと若年層向けで必要とされるそれぞれのサービスを用意している。それらのバランスを定量的にお示しするのは難しいが、日本での金融資産の保有状況や、資産形成層の積み立ては、取り組みを考えるポイントになっている。

――資産運用業界におけるM&Aの展望や、日本の投資信託市場の課題について…。

 小池 海外では資産運用業界のM&Aも活発に行われているが、日本国内ではそのような動きは想定していない。また、日本の投資信託市場がなかなか拡大していないことに対して問題意識は強く持っており、規模拡大のためにしっかりと取り組んでいかなければならないと感じている。そのためには、高品質な商品の提供、投資家の方々の意識や知識を高めていくこと、そして販売会社の皆様にもそこを担っていただくため我々がサポートさせていただくことも必要だ。今、そういったことに対する取り組みをしっかりと行っていることが、将来的な投資信託市場の裾野拡大につながり、我々のビジネスの成功にも繋がっていくと信じている。

――最後に、新社長としての抱負は…。

 小池 当社は、投資信託が登場して日本で最初に設立された運用会社だ。リーディングカンパニーとして、しっかりとアセットマネジメント業界を率いる存在でなければならないという責務を強く抱いている。一方で、資産運用の重要性がまだ世の中に浸透していないことも事実だ。どのように理解を深め、浸透させていくのか、そのために、当社が持てる力を存分に発揮して皆様から選ばれる会社となり、同時に、資産運用そのものが持っている使命をしっかりと広めていくことが出来ればよいと思う。(了)

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