中小企業基盤整備機構
理事長
豊永 厚志 氏
――コロナ禍により、多くの中小企業が大きな影響を受けている。中小企業と一括りに言っても業種は様々だが、その現状は…。
豊永 人が外出や移動を制限された時に、先ず影響を受けるのは、対面での仕事だ。外食や観光、スポーツクラブ、宿泊施設などから人々の足が遠ざかるようになり、それらの産業に商品を卸しているところまで芋づる式に影響が出てくる。ある調査によると、中小企業の約8割の業績が対前年比マイナスとなっており、プラスの業績になった残り2割は、スーパーマーケットやホームセンターなど、人が家の中で過ごすためのものを売っているところ、或いはそういったところに商品を卸している企業だった。景況調査では、マイナスの業績だった企業の昨年4-6月期の数字はリーマンショック時よりも下回っており、その後、秋にかけてゆっくりと上昇してきたものの、それでも100人中80人が悪いと考えているような状況だ。特に飲食業と宿泊業に関しては100%の企業が景気が悪いと感じている。昨年末の第3の波から、1月の緊急事態宣言を乗り越え、対前年比での景況感はよくなったと思われた時期もあったが、それも一瞬だった。
――先が見通せない中で、中小企業基盤整備機構の取り組みは…。
豊永 当機構は全国9カ所に地域本部があり、正規職員は約750名だが、コロナ禍の現在は政府からの要請もあり、各地域本部に相談窓口を設置して、普段では行わないような色々な相談も引き受け、フル稼働で対応している。悩みの多くは資金繰りであるため、政府系を含めた金融機関の紹介や、オンラインでの情報提供等を行っている。将来が不安で何をどうすればよいのかわからない状態の時には、しっかりとした情報を届けることが一番だ。そういった取り組みを続け、持続化給付金については420万件、雇用調整助成金は250万件、実質無利子無担保のゼロゼロ融資は200万件の借り入れ件数があった。特にゼロゼロ融資については、当機構は政府から2兆円の予算を受けて利子分を補給している。中小企業は、そうやって何とか資金繰りを回していこうと頑張っているが、年末の倒産件数は増加のきざしを見せており、息切れ感が出てきているというのが現状だ。特に経営者が高齢の場合、従業員に迷惑をかけるくらいなら、今のうちに休業か廃業をしようという考えが出てくるのか、実際、昨年の休廃業件数は一昨年よりも増えている。
――資金面ではひとまず十分な融資体制が整っているようだが、それだけでは景気は戻らない。今後、必要とされることは…。
豊永 決定的に大事なことは、売上げを増やすことだ。いつ終息するかわからないコロナ禍で、ただ指をくわえて待つのではなく、これまでの商品やサービスの在り方や届け方を変える工夫をして、減った分を少しでも元に戻していく努力をしなければならない。例えば、飲食業では店内で食べるだけでなく、テイクアウトも出来るようにしたり、カフェの内装を間仕切り仕様にしてテレワークに利用出来るようにしたり、人々の生活の変化に対応した新しい形態に柔軟に対応しているところが、実際に売上げを増やすことが出来て、生き残っている。
――売上げを増やすという面で、機構が支援していることは…。
豊永 例えば、事業所に専門家を派遣して、その事業に合ったサービスの変革アイデアや知恵を提供している。それを実現させるために必要な資金についても、補助金スキームに乗せた提案をしている。商品の販路開拓をするような場合には、人が密にならないようにオンラインなども取り入れたマッチングイベントも提供している。コロナ禍という今の時代に適した形で、販路開拓や資金提供、そして場の提供といった支援を行っている。
――人材育成のサポートとして「中小企業大学校」も開かれている…。
豊永 当機構では、中小企業の持続的な成長のために、北海道から九州まで全国9カ所に「中小企業大学校」を設置し、経営者や後継者などの方々を対象にした研修メニューを提供している。受講者は年間約2万人弱だが、プログラムが宿泊を伴うということもあり、コロナ禍の昨年4月~6月までの3カ月間は休業せざるを得なくなった。しかし、宿泊施設の感染対策を強化したり、オンライン受講を取り入れるなど、色々な工夫を重ねてこれまでと同じクオリティを保つプログラムの実施を試み、その甲斐あって、休業した3カ月を除けば、徐々に例年とほぼ同じレベルに戻りつつある。コロナ禍でリモート社会へと変化していく現在においては、IT化やオンライン化が加速し、経営者には働き方改革の推進や生産性の向上なども求められている。「中小企業大学校」では、専門の先生方をお呼びして、時代の変化や多様化する経営課題に適応した研修を提供している。中小企業の経営者の皆様には是非役立ててもらいたい。
――中小企業を支援する方々に向けた研修プログラムもある…。
豊永 「中小企業大学校」では、中小企業経営者だけでなく、商工会議所の指導員や中小企業診断士など中小企業を支援する方々を対象にした、支援スキル向上のための理論及び実践研修プログラムも提供している。事業者に向けて直接指導するものと、事業者に向かい合う信金や商工会議所、中小企業診断士の方々に教育を行うという2方向からのアプローチで中小企業の持続的な成長に貢献している。というのも、戦後は実績のない事業者に融資することが当たり前の時代であり、その後も暫くは実績を見て担保を取り融資するというような時代が続いたが、高度成長期からバブルが弾けると、担保が右肩上がりの時代ではなくなり、むしろ担保が目減りしていく時代に入ってきた。そういった中で融資をしていくためには、事業性評価できちんとしたリスクを取らなくてはならない。つまり与信能力がなければ始まらないということだ。その与信能力を高めるために、当機構を使って習熟してもらえれば良いと考えている。
――今後の抱負は…。
豊永 昨年から心掛けているのは金融機関とのコラボレーションだ。特に、従来から地域ごとの金融機関との連携は行われているが、全国規模での展開を目指して日本政策金融公庫や商工中金、信金中金との間ではかなり具体的な協力関係を結んでいる。そこから確実な成果を生み出していくために、当機構としてやるべき事業は急速に増えている。例えば最近では、ある事業者に対して日本政策金融公庫が長期資金を融資し、地元の金融機関が短期の運転資金を貸し出し、当機構から専門家を派遣して経営支援するといった3つの仕組みを一括で提供するサービスを始めている。また、各地域金融機関と協力して包括的なサービスを行ったり、個別事業者とのコラボレーションで企業に対するハンズオン支援事業等も行っている。特に、ITやDX、その他BCP(事業継続計画)といった分野でのアドバイスを求める声は多い。大規模地震、豪雨、そして今回のコロナ禍を経験し、「明日は我が身」と考える経営者が多くなったことの表れだろう。そこでキーワードとなるのが「平時から役立つ緊急時対策」だ。在庫品の上限管理や、代替取引先の確保確認など、緊急時の対応を平時から行っておくことで、結果的に普段から無駄をしないという考え方が身についていく。当機構よりもはるかに大きな顧客数を持つ金融機関とのコラボレーションと、多角的な視点からの事業展開で、日本の中小企業の発展に貢献していきたい。(了)