金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「信託機能活用が一段と重要に」

信託協会
専務理事
振角 秀行 氏

――少子高齢化が進む中、信託機能がさらに重要になってきている…。

 振角 人生100年時代となり少子高齢化が進む中で、60歳以上の国民が保有する金融資産は全体の65%と言われている。その資産を若年層に移転させて経済の活性化を図る事が、金融庁や経団連も一丸となって取り組むべき大きな政策課題となっている。そして、そういったニーズに対応する商品として、例えば「教育資金贈与信託」と「結婚・子育て支援信託」がある。両商品は一定額まで贈与税が非課税になるということもあり、着実に伸びてきている。特に「教育資金贈与信託」については、2020年9月末時点で、契約数(累計)が約23万件、信託財産設定額(累計)が1兆7000億円に拡大しており、最近でも毎年1万件ほど増えている。信託銀行は若い世代にとってはあまり馴染みがないが、この商品を導入することで比較的若い世代が受益者として関りをもち、それが信託銀行にとっても生涯にわたるお付き合いの端緒となると考え、業界としても戦略的に取り組んでいる。

――高齢化社会に対応した商品は…。

 振角 例えば「後見制度支援信託」がある。成年後見制度においては、老齢で脳の認知機能が衰え始めた方などの財産管理を成年後見人が行うが、成年後見人による不正事例が多発したことから、この商品が作られた。成年後見制度を利用する高額な資産を保有している高齢者が、その資金を信託銀行に信託し、生活費や老人ホームに入所するなど資金が必要になった時には、家庭裁判所の指示を経て信託銀行の口座から引き出すというような仕組みで、高齢者の資金を守る商品だ。家庭裁判所としても後見人を監督する立場として、信託銀行が財産管理に関わることで安心できるため、この制度を推進している。2020年9月末時点で受託件数は2万件弱、受託残高は約6100億円となっている。その他、相続の際に個々の家族の事情に応じて柔軟に内容を設定できる「遺言代用信託」も、今の時代のニーズに応えた商品として2020年9月末時点で約18万件とかなり増えてきている。

――その他、今後の社会に必要と思われる信託商品は…。

 振角 やはり、基本的には高齢化社会に対応した商品のニーズが高まっていくと考え、色々と知恵を絞っている。相続のような財産面だけでなく、例えば老人ホームへの紹介業務等、包括的に老後の生活を支援するような信託、或いは代理人が支払いをする場合にスマホを活用したデジタル化対応商品等、各銀行において切磋琢磨しながら考えているところだ。このように、高齢者が保有する資産を、信託機能を使って次世代に繋げていくという政策課題に加えて、例えば、我が国には「地方活性化」という政策課題がある。こういった面でも信託機能が役立てることを考えている。具体的には、森林資源が豊富にある岡山県の小さな村で、老齢化によって林業を続けられなくなった場合に「森林信託」という形にして、森林の所有権を受託して活用していく。受託した森林資源は、間伐材でバイオマス発電をしたり、その発電機能で蓄えた電気を使ってウナギの養殖場を作ったり、信託銀行がそのオーガナイズ機能を担い、村の活性化につなげていく。このように、信託は色々な分野で活躍できる可能性をたくさん秘めているのだが、これまでそういったことに必ずしも手を付けていなかった。地方活性化が政策課題となったことで、我々としても未開拓だったこの部分で色々な提案が出来るようになっているのは嬉しいことだ。

――欧米に比べて日本の信託機能はまだまだ遅れているが、それに追いつくために必要なことは…。

 振角 当協会では、経済面や税制面についての知識を深めるために、専門の先生方を含めた研究会を定期的に行っている。最近の大きなテーマはやはりSDGsに関連したものだ。例えば、最近では、企業のサステナブル経営を強化するインセンティブを与えるためには、業績連動型の役員報酬を与える動きが盛んになっているが、その「業績」の中には、環境負荷の低減にどのように取り組んでいるか、或いは従業員の満足度をどのように高めているかといった、財務諸表には出てこないような部分も加えられつつある。しかし、そうした場合の損金算入が税務当局ではまだ認められていない。一方で、海外ではすでに損金算入が認められている例もあると認識している。この部分が認められると、企業のサステナブル経営を後押し、ひいては企業価値の向上に資するものと考え、信託銀行としてのSDGsへの貢献も期待できるだろう。また、信託銀行は株主名簿管理人として、株主総会の運営も行っているのだが、最近では、株式発行会社からオンラインでの株主総会を望む声も多くなっている。すでに一部オンラインの形態は増えてきているが、海外のように完全オンラインでも出来るように法改正等の準備が行政で行われており、各信託銀行においては、コロナ禍をきっかけに急速に進んでいく新たな形の株主総会へのサポートも、重要な課題として取り組んでいる。

――改めて、政府への要望等は…。

 振角 コロナ禍で停滞した経済を活性化させるために、今の時代に必要とされるSDGsに関連した商品を組み込んで信託業界全体で経済の発展に寄与していこうと考えている。そのためのより良い税制の在り方は欠かせない。先述の役員報酬制度における損金算入の問題等、時代に即した税制体制が早く整うように、我々も引き続き研究会を重ねてしっかりと提言していきたい。また、昨今においてはデジタル化やテレワークが普及していることに伴い、対面営業に重点を置いてきた信託の販売方法にも変化が求められている。この点、公募投信以外の信託商品については、インターネット販売が進んでいない状況にあるため、こういった部分での環境整備の観点から、規制緩和もお願いしたい。時代の流れに沿って規制緩和も迅速に進めていくべきではないか。

――最後に、信託協会としての課題は…。

 振角 昨今の株式市場の堅調さを受けて証券投資信託の残高が順調に積みあがっていることもあり、現在の信託財産総額は約1300兆円強で、4年前の約1000兆円からすでに約3割も増えている。従来型の証券投資信託や年金信託の伸びもあるが、先ほどもお話したように、教育や相続に関連した新商品の新規受託件数も伸びてきている。信託協会に加盟している会社も6年前は52社だったのが、今は75社と23社も増えている。相続の際の信託機能等に着目して、地方銀行がかなり加入してきているほか、新規の信託会社設立も増加している。まだまだ信託制度の普及啓発に努める必要性は強く感じるが、社会経済を支える重要なインフラとして信託の裾野は着実に拡大しつつあるように思う。今後とも信託協会としては、社会のニーズに柔軟に対応するという信託の機能を最大限活用して社会経済に積極的に貢献することにより、我が国経済の持続的発展に努めてまいりたい。(了)

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