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「シーレーン分断のリスク凝視」

参議院議員
自由民主党外交部会長
佐藤 正久 氏

――中国の海警法に対し、現行法に基づき対応するという政府の見解が固まった…。

 佐藤 領海内に不法に侵入してきた船舶には、法律を改正することなく現行法で対応するというのが政府のスタンスだが、私はその対応が十分だとは思っていない。一番良い方法は、例えば「領域警備法」といった法律を制定し、あらかじめ尖閣諸島周辺など範囲を指定したうえで自衛隊を事前展開させておき、何か起こったときに、切れ目なく自衛隊が対応できるようにすべきだ。今回明らかになった政府の見解に基づいて尖閣諸島周辺における対応を考える。例えば、中国の船舶が尖閣諸島に不法に近づき、海上保安庁の船が警告をしたけれど中国の船舶が止まらず、海上保安庁の船舶に向かってきた場合どうなるのか。従来は退去要求などを行ったが従わない船舶に対しては海上保安庁の船舶をぶつけて強制的に進路を変更させる「接舷規制」を行い、それでも止まらない場合は危害を与えない「船体射撃」を行うとされてきた。今回の政府の見解ではさらに、尖閣諸島への上陸強行などの行為に対しては重大な凶悪犯罪として位置付け、「危害射撃」が可能な場合があると説明し、現行法で対応可能だとしている。しかし、侵入してきた船舶が1隻であれば対応できるだろうが、何十隻、何百隻と航行してきた場合はどうなるのだろうか。基本的に島しょ部をめぐっては、攻める方は自由に動くことができ、正面から攻撃するのか、おとりを使うのかなど、さまざまな戦略パターンで攻撃することができる。一方、守る方は、どのように攻めてくるかわからず、あらゆる対策を考えないといけないため、攻める方が有利になりやすい。尖閣諸島周辺において日本と中国で数的にどちらが多いのかというと、漁民では中国は1千万人以上、日本は20万人程度であり、漁民の数だけでもかなわない。また、中国の漁民のなかには海上民兵と呼ばれる、軍の一部が30万人程度紛れており、その数は自衛隊より多い。さらに、武装組織は軍事組織である武装警察に所属しており、軍の一部として行動することができる。司法警察や治安警察といった非軍事組織ではなく、装甲車や攻撃ヘリコプターなどを持つ軍事組織であるため、武装警察が海警の船舶に乗ってやってきたら、数の差、武装力の差があり、海上保安庁や沖縄県警では対応することが難しい。警察がギブアップしてから自衛隊に派遣要請では、間に合わない場合も想定される。

――日本政府は何をやっているんだという国民の声も強まっている…。

 佐藤 私が自民党国防議連の会議で言っているのは、現場にいる陸上自衛隊や海上自衛隊に対して、何かあったら命をかけてやれと言っているが、そもそも政府は現時点でできることを何もやっていないのではないかということだ。例えば、環境省による尖閣諸島での生態調査や遭難した日本人の遺骨の調査、あるいは国交省による現在の古い灯台の建替や無線局の設置などだ。固定資産税の調査も石垣市は税法に基づき行うことができるはずだが総務省はそれを認めていない。政府として今できることを何もしていないということで現場としては不満が溜まっている。何かあったときには海上保安庁や自衛隊が出動するのはもちろんだが、何かある前に有効支配の強化などをするのが先ではないか。

――なぜ日本政府は何もやらないのか…。

 佐藤 日本政府が具体的な行動に出ない背景に、2012年の民主党政権時における尖閣国有化の際のトラウマがあると考えている。当時の石原都知事によって尖閣諸島を東京都が購入しようとした際、中国政府が激しく反発し、日本政府は横やりを入れて国有化した。それに関連して、暴力的な反日デモや日系商店や工場の破壊などが行われた。またそれより前の2010年に尖閣諸島沖で違法に操業する中国漁船と海上保安庁の巡視船が衝突し、中国漁船を確保、船員の身柄を拘束した際にも中国側の反発は激しく、関連は不明とされているがフジタの社員4人が拘束され国家安全機関の取り調べを受ける事件が起きた。日本と中国は地理的にも経済的にも近く、何か事件が発生したら経済制裁を中国から受ける恐れがある。尖閣諸島周辺は現状、日米の戦力の方が多いため、必要以上に波風を立てないようにしているのではないか。しかし、かつて政府の警察組織だった海警局では、共産党中央軍事委員会の指揮下に入れ、トップと3つの管区の長を海軍将校にしたり、船舶の外装や制服を替えたりして武警とともに軍事化が急ピッチで行われている。そのため、日本政府も危機感を持って対応しなければならない。

――中国の狙いは…。

 佐藤 中国は東シナ海だけでなく、南シナ海の領有を視野に入れている可能性がある。なぜ中国が国際法的、一般的に見てもおかしい九段線の主権を主張しているかというと、南シナ海に原子力潜水艦を配備し、米国全土を弾道ミサイルの射程に収めたいためだ。南シナ海は東シナ海に比べ水深が深く、広さも十分にあるため原子力潜水艦を配備しやすい。地上に大陸間弾道ミサイルを配備する方法もあるが、衛星などで探知され、報復されやすいため、米国に探知されにくい潜水艦は戦略上非常に重要だ。そのため、人工埋め立て地の建設や各種インフラ整備を行うなどしてまで九段線というとんでもないところまで領域を主張している。

――日本への影響は…。

 佐藤 日本は消費する原油の9割を南シナ海経由で調達しており、南シナ海が中国の海となれば日本のオイルシーレーンが絶たれる可能性が出てくる。中国が海警法改正の先に考えているのは南シナ海でありオイルシーレーンだ。海警法の改正で中国は管轄海域という言葉を出してきた。管轄海域とは主権下の領海ではなく、草案によると領域・内水・接続水域・大陸棚とあってその他中国の管轄の及ぶ地域とあった。これは大陸棚でない九段線をイメージしていると考えられる。中東と日本を結ぶオイルシーレーンには、何百隻と日本関連船舶が航行しているが、乗組員のほとんどは日本人ではなく外国人船員だ。外国人船員は中国が少し脅すだけで日本の船には乗らなくなり、中東から油が入ってこなくなるとなれば経済にも多大な影響を及ぼす。国交省にこのことを聞くと、迂回(ロンボク海峡ルート)すれば良いと言っているが、迂回すればその分だけ保険料が掛かり、運賃も余計に掛かる。迂回ルートでさえも中国の潜水艦などがそのルート上に姿を見せれば誰も日本に油を運ばなくなってしまう。また、日本は貿易立国で、重量ベースで言えば日本に入ってくる貨物のなかの95%以上は船で入ってきており、飛行機は数パーセントだ。航行の自由は非常に大切で、中国はそれを分かっているから今海洋進出を進めている。アメリカも南シナ海などで軍事演習や航行をして中国をけん制しているが、日本もそれに参加してくれと要求される可能性は高い。

――米国の弱体化や内向き志向が強まってくるなかで、日本はより一層リスク意識を強める必要がある…。

 佐藤 自分の国は自分で守るということを大前提として、そのうえで日米同盟や日米豪印のクアッドなどを考える必要がある。無人島の尖閣諸島防衛に関しては、日本の若者、自衛隊が命をかけていないのにアメリカの若者に血を流せということをアメリカ議会は認めないだろう。日米の安全保障条約は米国の自動的な参戦権を意味するものではなく、議会の賛成が必要となる。トランプ氏が初めてアメリカファーストを言ったのではなく、リーマンショック以降ずっと、なぜ米国が他の世界のために犠牲にならなくてはならないかという考えがたまっていた。大統領選でトランプ氏は敗北したが、この流れは消えておらず、議会選では民主党の左派が伸び、この先も米国はどんどん内向きになっていくだろう。バイデン大統領の政策も、コロナ、経済回復、分断の修復、オバマケア、気候変動対策と国内対策が主要テーマだ。日米同盟もないよりはあった方がいいが、米国頼みというのではなく、もはや日本はさまざまな分野において賢く強くならなければならない。日本は今や韓国や中国にも産業やGDP、サイバーセキュリティ、国防などかつて優れていた分野で負けてしまっている。「憂いあれども備えなし」は政治の無責任といえる。日本は米国頼みの発想から自立し、現実を直視したうえで、上手に強くなる必要がある。(了)

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