金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「構造変革し地球を健康体に」

環境省
環境事務次官
中井 徳太郎 氏

――サステナビリティやSDGsと言われてもわかりにくい…。
 中井 環境省が今取り組んでいるサステナビリティや気候変動危機の話は、人間の体で考えるとわかりやすい。つまり、地球をひとつの生命体とみると、中東地域などで石油エネルギーを無制限に取り出すことは、人間の体で言えば肝臓を酷使しているようなものだ。さらに、肺の機能となるはずの熱帯雨林も伐採してしまい、二酸化炭素を酸素に変えることが出来ないでいる。土地改変を進めることで地表から窒素が大量に流れ出せば、地球の温暖化ばかりか、それが生物の絶滅速度にまで影響していく。一人一人がこういった地球全体での現象を自分自身のことのように感じて、自分が健康になるためにどうすべきかを考える時期に来ているのではないか。ミトコンドリア等の微生物から人間へと繋がり、人間同士の?がりが社会、そして地球を創りだしている。生命系の一つ一つの細胞が脈々と受け継がれていると考えるならば、一つ一つの末端の細胞がしっかりとした本来の生命力を持ち続けることが何よりも重要だ。一人一人が健康になることを感じられるようなコミュニティや組織の在り方のためには、循環と共生というメカニズムが欠かせない。

――今の地球の状態は…。
 中井 産業革命以降、人類の生活様式は非常に発達し、大量生産・大量消費のパラダイムでここまでの都市文明を造り上げてきたが、その過程で地球環境のバランスは非常に悪くなっている。熱帯雨林を切り崩し、化石燃料を取り出し、土に戻らないプラスチック製品を大量に廃棄している。パリ協定では今後の温度上昇を工業化以前の水準から2℃以内に抑える目標とともに、1.5℃以内に抑える努力をすることと、今世紀後半までに世界全体でカーボンニュートラル(温室効果ガスの人為的な排出量と吸収量の均衡)の状況を作り出すことを目指している。その後のIPCC1.5℃特別報告書を受けて、世界は1.5℃目標と2050年までのカーボンニュートラルに向けて舵を切っている。慢性的な病状と付き合いながら根本的な体質改善を目指し、今後30年間で世界の構造を変えて地球を健康体にしていく。

――コロナ禍でデジタル化が進むことが、パラダイムシフトにも役立っていく…。
  中井 今まで大量生産を支えてきた工業パラダイムが、デジタルテクノロジーの進歩によって現実社会とバーチャル空間との融合が当たり前という時代に突入しつつある。これを契機に地域毎の可能性を最大限に引き出すことのできる効率の良い経済社会の仕組みに変わっていくのではないか。例えば、日本の至る所に存在する耕作放棄地を有効活用出来れば、再生可能エネルギーや、地産地消という食の健全化のために役立つだろう。また、スマホやパソコンで酷使した目は、自然の緑を見てリラックスすれば癒されるだろう。デジタル化を活用して効率のよい社会を目指していけば、生命体として本来あるべき血の巡りの良い健康な状態となっていく。

――デジタル化とカーボンニュートラルの一体化で、新しい世界が生まれてくる…。</h6>
 中井 コロナ時代に対応したデジタル化を進めていくという転換期において、環境省では脱炭素社会、循環経済、分散型社会という3つの移行を進めていく方針だ。バブル崩壊以降、失われた20年の中で、地球の病状の悪化を知りつつパラダイムを変えられずにいた。そして第二の幕末ともいわれるような状況の今、経済産業省は供給サイドとしてエネルギー政策やイノベーションの梃入れに力を入れているが、そういったことばかりでは地域分散型の社会は実現しない。そこで環境省が地域や暮らしといったマーケットの需要サイドから社会を見据えて支えていく。この10年が勝負だ。例えば、地産地消型のエネルギーとして地銀や信金と一緒に知恵を出して良い案件を絞り出したり、離島や農山漁村でも地域で再生可能エネルギーを作るような仕組みを考えているところだ。

――脱炭素のために設備投資にコストがかかり過ぎれば既存の企業はなかなか動かないが、分散型社会という今の時代に沿った流れの中で進めていけば、受け入れられ易い…。
 中井 先ずは、「変わらなくてはいけない」というところから始まることが重要だ。そこに新しいメカニズムがあって、新しい経済構造が出来上がる。今、政府は脱炭素を成長戦略に掲げているが、「成長戦略」という言葉では地域の人々には伝わりづらい。それよりも「脱炭素という行動が地方創生や地域活性化につながる」と言った方が伝わりやすいし、協力も得られやすいと思う。また、カーボンプライシングは、菅総理お墨付きの成長に資するものとしてしっかりと取り組んでいく。産業、経済、社会が転換して新しいマーケットを作っていく中で、どのようにこのメカニズムを働かせていくのか、その手法が何なのかといったところを、きちんと道筋を立てて結び付けていく予定だ。

――カーボンニュートラルを実現するまでの具体的なロードマップは…。
 中井 夏までに国・地方脱炭素実現会議による具体的方策がまとめられる。それまでに、今すでに地方から提案されてきている実現可能なアイデアがどのような行程で進み、そこに政府としてどういったサポートが必要なのかといった議論を行っていく。環境省は、国・地方脱炭素実現会議の事務局として作業を進めている。もともと環境省は縦割りではない自由な風土があり、関心のある人や、やる気のある人たちに手を挙げて携わってもらっている。ほかの省庁にはない融通の利くところが環境省の良さでもあろう。もちろん、荷が重い部分もあるが、経済産業省はもちろんのこと、国土交通省や農林水産省等の各省庁としっかりと連携を取りながら進めていく。また、地方の自治体との連携については、その地方毎にカーボンニュートラルに必要な分野は違ってくるため、該当する重要分野を中央ベースではなく現場ベースできちんと見て回れるような仕組みを作ることが必要だと考えている。急速にデジタル化が進む今の世界ではあらゆるものがフラットになっており、昔のように、中央にだけ情報が集まり上意下達というような時代ではない。そういったフラットさを政府全体でもしっかりと生かしていく必要があると認識している。なかなか難しいことだが、今までの政治家とは一味違う柔軟で若いパワーを持つ小泉大臣を筆頭にしっかりと頑張っていきたい。

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