金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「過剰な医療で健康被害が増大」

新潟大学名誉教授
水野記念病院理事
医学博士
岡田 正彦 氏

――岡田教授の健康法は…。

 岡田 世間で言われているように、血圧、コレステロール値、血糖値の数値を下げることが長生きにつながる。そこで私は40年以上、週3回以上を目標に簡単なジョギングなどを行っている。運動を長続きさせる秘訣はあまり長時間頑張りすぎないことだ。週150分以上何らかの健康体操を行っている人は長生きだというデータもあり、それがいかなる薬にも勝るということは科学的根拠に基づいた医療、つまりエビデンスとして証明されている。しかし、薬を使わない方が長生きするといったエビデンスが一般に浸透しないのは、薬を売る際に、死亡率については触れず都合のよいデータだけを取り上げて宣伝しているからだ。それが端的に現れたのが、「ディオバン事件」だと思う。こうした事件は欧米などでは日常茶飯事であり、奥には深い社会の闇がある。単に犯人探しをするだけで終わってほしくない問題だ。

――薬漬け、検査漬けの現代医療に疑問を唱えていらっしゃるが、きっかけは…。

 岡田 私はもともと内科医だった。そして研修医の時に、内科的な薬や治療でその症状が良くなったとしても、病気は根本的には治らないと思った。さらに、ベテランといわれる医者の間でも、それぞれ治療法が違うことにも疑問を覚えた。そこで、大学の研究室に入り、海外の文献を読み漁った。当時は私の疑問に答えてくれるような文献は無かったが、1990年頃から、世界中で、薬を飲むことで本当に健康になるのかどうかを調べようという動きが出てきた。私だけでなく、薬の使い方が変だと思う人がたくさん出てきた訳だ。それをきっかけに海外では、極めて大規模で科学的な調査が行われるようになった。

――その頃から海外で行われている薬の調査方法とは…。

 岡田 数千人から数万人単位で調査を行い、調査期間も3年後、5年後まで追跡して結果を確かめるような、極めて大規模なものになった。それまでは数十人程度、せいぜい半年程度のデータでお茶をにごされていたが、それと比べると規模も発想もまったく違う。例えば、薬の効果を調べる調査では、薬を飲むグループと飲まないグループの2つに分けて、スタートから追跡調査をする。人間の心理とは面白いもので、薬を飲んでいると思うだけで治ることもあり、特に血圧については、血圧の薬と言ってパン粉を飲ませても数値が下がるくらいだ。そこで、外見をそっくりにしたプラセボ(偽薬)を本人にわからないように飲ませる。処方箋を書くドクターにも本当のことを教えない。知っているのはコンピューターだけだ。もちろん協力者には事前に了解を取り付けておく。当たり前のことなのだが、これはなかなか出来るものではない。調査の中で私が特に注目したのは、血圧の薬を飲み、血圧の数値が下がって脳卒中による死亡者が減ったとして、果たして将来の全体の死亡率が減るのかどうかを調べるという調査だった。これら、ありったけの文献を読んで分かったことは、飲んで長生きできる薬はひとつもないという結果だった。

――血圧降下剤を飲んで、血圧が下がり、脳卒中が減っても、長生きは出来ない…。

 岡田 同様に、コレステロールを下げる薬を飲みコレステロール数値が下がり、心筋梗塞による死亡者数が減ったとしても、全体の死亡率を見れば、薬を飲んだ方が長生きしている訳ではないという調査結果もある。殆どすべての薬がそうであり、薬によって検査の数値が良くなっても、長生き出来るわけではないということだ。しかし、世の中にはこういった本当のエビデンスが伝わっていない。今、全国の医師の手元にはたくさんの医学専門の雑誌や新聞などが送られてくるが、そこに掲載されている薬の広告には、その薬を飲んで寿命が延びるなどとは一言も記載されておらず、特定の症状の数値がいかに改善されるかが強調して書かれている。そして全国の医師は皆、そういった魅力的な宣伝トークにすっかり騙されてしまっている。

――定期的ながん検診にも反対のようだが、その理由は…。

 岡田 レントゲンによる放射線が体に非常に悪い影響を及ぼすからだ。もちろんレントゲンを使わないがん検診もあり、その場合は検診を受けることで死亡率が上がるようなことはないが、健康な人がむやみに検診を受けて毎年レントゲンをとるようなことには反対している。欧米ではがん検診がどれくらい役に立つかという調査も行われており、その結果は、がん検診を真面目に受けていた人の方が、はるかにがんが増えたというものだった。特に肺がん検診では必ずレントゲンを使うため多かった。また、CTスキャンも放射線量が多いため、健康診断などでCTスキャンを受けることに私は大反対している。がん検診でがんが見つかれば、普通は手術をして、抗がん剤を使う。こういったことも含めて、真面目に検診を受けて、真面目に薬を飲んだ人のほうが早く亡くなっている。これは驚くべき話だが本当だ。

――国が義務づけた検診によってガンが増えるとなれば、国の医療費も無駄だ…。

 岡田 日本は医療費が少ないことがしばしば国会で取り上げられ、政治家も専門家も、もっと医療にお金をつけるべきだと言っているが、過剰な医療は健康被害を増やすだけだ。企業に義務付けられている年一回の健康診断も、血液検査は必要だとしても、健康な人にレントゲン検査を行う必要は無い。もともと病気の人がその原因を知るために行う検査は必要だが、そうでなければ歯のレントゲンさえも出来るだけ断った方が良い。ありとあらゆる放射線はガンの原因だ。医療を行い、なおかつ死亡率が増えるということは、現代医療そのものの効果が問われているということなのだが、誰もそんなことを言わない。これが世の中の仕組みの恐さだ。

――厚生労働省を解体して、病院や薬の分野は経済産業省に任せ、予防医学は新たに「国民省」 のようなものをつくればよいのではないか…。

 岡田 まずはそういったものが必要なのかもしれない。ただ、それもこれも人間のやることだ。暫くすればそこに既得権や利権が絡み、お金が動けば、またよからぬ方向に動くのだろう。医療問題は、原発問題とよく似ていると思う。福島であれだけの大惨事が起こったにもかかわらず、国は何事もなかったかのように原発政策を進めている。医療問題も社会的な構造は全く同じで、権力やお金の構図によって正しい情報が伝わらない。そこには裏事情があり、それを突き止めることがこれからの日本の課題ではないか。(了)

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