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「消費税の増税以外の道なし」

参議院議員
自民党政務調査会副会長
税制調査会幹事
中川 雅治 氏

――消費税増税については「景気条項」 が盛り込まれており、増税慎重論もあるようだが…。

 中川 消費税増税についてはすでに昨年8月の三党合意で法律が成立しており、来年4月から8%、再来年10月から10%に上げることが決まっている。ただ、慎重な判断をするという意味で、昨年8月時点では予想しなかったような経済状況の悪化などがあれば見送る場合もあるとしているのが景気条項だ。経済指標などが悪化して、消費税増税を見送るべきだと判断した場合でも、改めて国会に消費税増税法の延期法案を出して国会の議決を経なければならない。つまり、今から白紙状態で増税をするかどうかを安倍総理が判断するということではない。同時に、昨年8月の三党合意による社会保障と税の一体改革法が成立したことにより、マーケットは日本が財政規律を大事にする国だと判断した。日銀が大幅に金融緩和をして大量に国債を買っても、機動的な財政政策として平成24年度の大型補正予算を編成しても、市場はそれを財政規律を崩すものではないとして捉え、そのおかげでアベノミクスは現在順調に進んでいる。にもかかわらず、昨年8月時点に比べて経済指標も明らかに良い今、消費税増税を延期するなどと言い出せば、マーケットは結局、日本は財政規律などどうでも良いと思っている国だとみなすだろう。そうなれば、日本国債の償還確実性に疑問符がつき、国債の売りがはじまり、金利が急騰するというようなシナリオにもなり得る。

――1千兆円の借金を持つ日本がそうなれば大変だ…。

 中川 ギリシャでは一時、国債金利が30%まで上がり、結局その時は国債も発行できなかった。日本もそんな状況に陥れば国家破綻だ。中には「こんなに日本経済は上手くいっているのに破綻なんて有り得ない。それより消費税増税が原因で景気が悪くなったら元も子もない」という意見もあるが、マーケットは危うい均衡を保っている。消費税を8%にあげても増える税収は8兆円。消費税増税を前提にしても、プライマリーバランスの黒字化という目標を実現させるのは難しい。そんな状況であることを理解していれば消費税増税をやめることなど出来ない。今回、延期などすれば、もう消費税増税のチャンスは二度と来ないだろう。小泉政権の安定した時代でも行えなかった消費税増税を、ようやく民主党の野田政権下で決定した。このことは歴史的決断として評価したい。民主党はそのために結局分裂して今回惨敗した。それほど増税問題は日本の政治家にとって大きな犠牲を払うものだ。自民党はその犠牲を民主党に押付けたのに、その自民党が増税をやめるというようなことは、あまりにも酷いことだ。

――景気が良くなれば法人税や所得税が入ってくるため、消費税を上げる必要はないという意見もあるが…。

 中川 景気回復局面では税収弾性値が3~4あるとし、ここで3%の経済成長をすれば税収は9%以上伸びるという説を唱える人もいるが、現在の日本の税収構造は昔とは変わっている。所得税の累進課税が緩和されているため、所得税の税収弾性値は1あるかないかに下がっている。消費税の税収弾性値は殆ど1に近いと思う。さらに法人税のウェイトも下がっており、景気回復局面ではまずは繰越損失が消え、税収増に結びつかないケースもある。そう考えると、なかなか税収弾性値が3~4になるようなことはない。仮にそうなったとしても、現在の税収を40兆円としてその9%は3.6兆円。これは消費税増税分の半分にもならない。さらに毎年の社会保障の自然増が1兆円であることなどを考えると、経済成長だけではとても財政再建をすることが出来ないのは自明の理だ。このように、わが国の財政事情やマーケットを良く分かっている人達は、消費税増税をやらなくてはいけない、やらなければ恐いことになると思っているのだが、特にマーケットをわからない人達は、痛みを伴わない政策、つまりポピュリズムに走っている。ただ、もし消費税増税によって何か打撃を受けるようなことがあるのであれば、それを緩和するように補正予算で手当てをするといったことは必要なのかもしれない。

――消費税を上げると同時に、法人税を20%くらいに下げて海外に逃げ出した企業を国内に戻すべきだという意見もあるが、これについての考えは?…。

 中川 企業が海外に移転すれば、同時に技術も流出し、雇用も失われ、日本経済の衰退につながる。これは法人税の税率だけでなく、人件費の問題、為替レートの問題、電力料金が高いといった問題など、様々な要因による。デフレから脱却し、円安傾向が定着すれば改善されると思うが、一度海外へ逃げ出した企業はそう簡単には国内に戻ることはないだろう。腰を据えた対策が必要であり、早急に法人税を引き下げるのはどうかと思う。日本の法人税は諸外国と比べてそれほど高い状況ではない。むしろ投資減税など成長を促す税制上の措置を考えるべきだ。

――社会保障改革による財政コストの削減は…。

 中川 社会保障の削減については増税以上にやりにくい。社会保障の改革をすることにはみな賛成しているのだが、その先が具体的に進まない。例えば年金の支給開始年齢を遅らせたり、医療費の自己負担を増やすなどと主張すると、弱者に厳しい政府だとして途端に火の手が上がり、その際のマスコミの叩きようは内閣さえ壊してしまうといった展開が容易に想像出来る。国民の合意を丁寧に作り上げて、歳入、歳出ともに改革していくことが求められる。

――規制緩和をしなければ経済成長は難しい…。

 中川 私は、規制の緩和によって経済が成長するかどうかという検証がまだ十分になされていないと思う。例えば薬のインターネット販売にしても、そのことにより地元の薬局が潰れて、地域の絆が薄れ、高齢者はインターネットを使えずに薬も買えない状態になる可能性もあるが、それで良いといえるのか。万が一、インターネットで薬がたくさん売れるようになったとして、それが経済成長といえるのか。私は、それは違うと思う。昔のタクシー業界の規制緩和に見られるように、規制緩和で失敗した例も多く、私は基本的に、既得権益をすべて切り捨てるべきという考えはおかしいと思っている。社会的な規制を厳しくすることで経済発展していくという面もあるだろう。

――TPPでは、混合診療や農業の問題が焦点となっている…。

 中川 混合診療については、経済的余裕のある人だけが先端医療を受けられる社会になってしまう。医療は全国民が貧富の差無く受けられるような平等性を保つべきであり、最先端技術もきちんと保険医療の中に取り入れ、その負担は全国民が等しく分かち合うという社会が理想なのではないか。これは、お金で命が買える時代をどう考えるかというような、国家のあり方に関ってくる問題だ。同様に、農業の問題にしても、どのような人達が農業を支えていくべきなのかという議論もせずに資本主義の論理を闇雲に取り入れるのはいかがなものかというような、国家のあり方の議論になってくると考えている。

――消費税を増税したとして、現在の日本の借金1千兆円が返済される見込みは無いが…。

 中川 消費税増税だけでなく、何をやっても1千兆円の借金を返すことが出来るようになるなど、永久に有り得ないことだ。新規の国債発行をゼロにしたところで返せるはずが無い。プライマリーバランスをゼロにしたところで無理だ。現在の借金1千兆円という残高は、これからも増えていくだろう。せめて全体のGDP比で国家の債務比率を下げていくという努力をしていくしかない。このまま毎年40兆円の国債を発行していけば、10数年後にはさらに500兆円増えて1500兆円の借金となる。それが続けば最後は必ず国家破綻となる。我々としては、行政改革を引き続き行い、無駄な支出の削減に取り組み、さらなる税制改革もし、国家財政における借金の比重を減らしていくということに尽きる。これは政治家の使命であり、永久の課題ではないか。(了)

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