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「レアアース開発、早急に補助金を」

東京大学大学院工学系研究科
エネルギー・資源フロンティアセンター
教授
加藤 泰浩 氏

――レアアースについて…。

 加藤 レアアースとは17元素の総称を指し、その中でも最も重要な元素はDy(ジスプロシウム)、Tb(テルビウム)、Y(イットリウム)という重レアアースだ。これらはハイブリッドカーやLED電球、液晶テレビ、そして風力発電のモーターなどに使われている。特に風力発電機一基には45Kg~160Kgという量でプリウス2000台分ものDyが使われており、今後グリーンエネルギーを進めていくにあたっては重レアアースがますます必要となってくる。また、最新の軍事機器などにも利用されているため、米国国防総省などは国家の安全保障上の最重要マテリアルである重レアアースを絶対に中国に牛耳られたくないと考えている。

――これまで中国がレアアース市場を独占してきた理由は…。

 加藤 実はレアアース鉱床は世界中にたくさんある。しかし、その殆どは軽レアアース鉱床だ。さらに、陸上のレアアース鉱床はトリウムやウランといった放射性元素を含むため、精錬後に出た放射性元素の残渣物処理問題を考えると、環境基準が厳しい国ではなかなか採掘に取り組めない。この点、環境規制が緩い中国では、精錬後の放射性元素の残渣物もこれまで内モンゴル自治区などではそのまま放置していた。中国南部の採掘方法はレアアース鉱床に酸をかけて資源を回収するという荒っぽいやり方で、しかも不法採掘が横行している。これが、中国が世界のレアアース市場を独占している本当の理由だ。そして、そういった資源を中国から輸入して稼いでいる日本人がいるのも事実だ。中国は2005年から国内環境の悪化を理由にレアアースの輸出制限をしているが、それは半分当たっていて半分は国家戦略だ。日本政府はその辺りをきちんと理解して対応する必要がある。

――そんな中で、今年3月、南鳥島周辺に超高濃度のレアアース泥を発見した…。

 加藤 今回、我々が南鳥島で発見したレアアース泥は、大変良質のものだ。一つ目に、重レアアースの含有量が非常に高い。中国の鉱床では重レアアースの割合が全体の25%であるのに対して、南鳥島の泥は50%が重レアアースだ。これほど重レアアースに富んだ資源はレアアース泥以外に地球には存在しない。二つ目に、プレートの移動により、南鳥島の地層は良質なレアアースが存在する太平洋タヒチ沖やハワイ周辺海域を通ってきたため、膨大な量のレアアースが溜まっているはずだ。三つ目に、遠洋海域の安定した地層に溜まっている泥であるため、資源探査が極めて簡単に安価に出来る。四つ目に、放射性元素であるトリウムなどをほとんど含まない。これは、マグマの活動で出来る陸上のレアアース資源と海水中で色々な物質を介してレアアースを濃集する海の底のレアアースとでは、根本的に出来方が違うからだ。そして五つ目に、泥からレアアースを抽出する作業が極めて容易ということだ。このように何拍子も揃った夢のようなレアアース泥だが、唯一の欠点が水深4000mを超える深海にしか存在しないことだ。しかも南鳥島周辺海域は5600mを超えてしまう。

――水深5600mの海底からレアアースを汲み上げる方法があるのか…。

 加藤 我々は随分前から浮体式原油生産貯蔵設備を運行する三井海洋開発株式会社と協同で研究を進めている。同社によると、石油の技術を応用してエアリフトを使い、管の先に圧縮空気を送り込んで吸い込めば、1日あたり約1万トンのレアアース泥を引き上げることが出来る。採掘船1隻で年間300日操業すれば、300万トンの泥を揚げる事が可能だ。1月下旬の海洋研究開発機構(JAMSTEC)と東大の調査航海で見つかった高濃度層であれば、100万トンも引き揚げれば日本が必要とするレアアースの10%以上回収でき、Dyは20%もまかなうことができる。日本の排他的経済水域でそれだけのレアアースが採れれば、中国は必ずレアアースの価格を下げてくる。そうすると、残りの90%は中国から安く買いたたく事が出来るという訳だ。レアアースのマーケットは銅の50分の1と非常に小さく、さらに中国の政策によって価格もコントロールされているため、変動が激しくリスクも高い。これでは大手商社などは敬遠して当然だ。しかし、ここに日本が国として関ってくればマーケットも変わってくる。日本がほんの少しの資源を採掘することで逆に中国に揺さぶりをかけることができる。これが、日本が執るべき資源戦略だ。つまり、南鳥島のレアアースの開発計画を進めることで、今まで中国が握っていた価格の調整弁を日本が握ることが出来て、米国に対しては軍事協力としての外交カードを持つことが出来る。さらに何よりも大事なのは、ハイテク産業の要の元素である重レアアースを使って、日本がもう一度、物づくりの中心として世界に返り咲くことではないか。私はそれを願っている。

――南鳥島のレアアース泥を開発するのに必要な資金は…。

 加藤 我々の計画では、資源量評価にかかる探査期間は約2年で費用は約10億円、三井海洋開発が実施する揚泥技術の実証試験には約80億円、トータルでも100億円はかからない。経済産業省がこれまでに費やしてきたお金に比べればわずかなものだ。経済産業省はレアアースの国内採掘は経済性がないと言い続けているが、レアアースの価格動向次第では案外うまくいくかも知れない。そもそもレアアース資源の確保は、国家としての資源セキュリティーの問題であり、経済性だけの問題では済まない。レアアースを抽出した後の残った泥は、南鳥島の領海の港湾整備にそのまま使えば、一石二鳥の有効活用ができる。港湾整備を含めて泥はすべての建築資材になるため、こういったアイデアに賛同してくれた建設工業会社やセメント会社とはすでに協同研究を進めている。

――こういったことは、本来、国がやるべきことだ…。

 加藤 安倍総理を含め自民党の方々には大いに賛同いただき、経済産業省に対しては予算もついているのだが、我々の取り組みに対して経産省から補助金が出されたことはない。重要なことは、三井海洋開発の揚泥実証試験を国が早急にサポートすることだ。もたもたしていると、タヒチ沖にある重レアアースが世界一の海洋資源開発技術をもつフランスに先にとられてしまうかもしれない。その開発にあたってフランスと中国が手を結べば、それは最悪のシナリオだ。日本はもはや財政が潤沢にあって何でも出来るという時代ではない。一刻も早くこの夢のような南鳥島のレアアース泥の開発に注力し、日本のレアアースハイテク産業の活性化に役立ててもらいたいと願う。(了)

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