金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

金融ファクシミリ新聞は、金融・資本市場に携わるプロ向けの専門紙。 財務省・日銀情報から定評のあるファイナンス情報、IPO・PO・M&A情報、債券流通市場、投信、エクイティ、デリバティブ等の金融・資本市場に欠かせない情報を独自取材によりお届けします。

「顧客中心主義で第2ラウンドも勝者に」

SBI証券
代表取締役社長
髙村 正人 氏

――突然の社長就任だった…。

 髙村 社長に任命されたことは私としても意外な出来事で、全く準備もなく突然だったのでびっくりした。ただ、マーケット環境が非常に良かったことは好材料だった。私はこれまで法人ビジネスを中心に担当していたため、ネット証券の根幹のところにはあまり関与出来ておらず、そういう意味では、専門的になりすぎずに物事を俯瞰してみることが出来ていたことも任命された理由だと思っている。法人ビジネスにはそういう要素が必要だ。いずれにしても、これまで管掌外だったシステムやウェブサービスなどについては現在、猛勉強中だ。システムに関しては、大枠は理解出来ても、細かいところまで理解することは非常に難しい。しかし、システムこそネット証券の根幹だ。複数のプロジェクトが走る中でプライオリティを決める際にも、何からどう手を付けていくか、そこでいかに効率的なシステムを立ち上げるかによって経営のスピードは全く違ってくる。しっかり勉強をして、最適なシステム構築を常に追及していきたい。

――これまでの経験を活かして、今後、法人部門を強化していくのか…。

 髙村 環境的には1~2年前に比べて法人ビジネスはかなりやり易くなってきている。今回トップが交代したからという訳ではなく、去年より今年、今年より来年と、法人ビジネスを強化させていく目論見はもともとあり、すでに法人に関る各部門の人材投下に注力している。特にIPOの主幹事は以前に比べてプレーヤーが限定的になってきており、中小型案件に関してはプレーヤーの数が足りていない部分もある。一方で、このような環境下で上場を試みる会社は増えているため、そのあたりのミスマッチを我々のような小回りの利く証券会社が吸収しており、今ではIPO部門での主幹事案件も複数こなせるようになってきている。この辺りについては有利な立場にあると言えるだろう。

――IPOが増えることで主幹事銘柄が増えれば、長い目で見てもプラスになる…。

 髙村 IPOの実績が増えたことでお客様の方からお問い合わせいただくようなケースも増え、IPOに関してはより自信を持って取り組めるようになってきた。法人ビジネスでは、IPO後、その会社の次なる成長戦略に如何に関与していくかという、さらに難易度が高いビジネス展開が求められるが、この点についても昨年はマザーズから1部市場への変更案件も初めて手がけることが出来た。発行会社に対しては、我々がIPO後の様々なケアまできちんと主幹事としてリードしていく力があるという認識を植えつけることが出来たのではないかと思う。IPOの主幹事案件を積み重ねていけば、POなど大手証券と同様の業務もこれまで以上に強化可能となる。これに向けて、IPOを核に着実に今後も前進していきたい。

――IPOで実績を重ねることが出来たのは、ネット証券の力が世間的に認められてきたという背景がある…。

 髙村 ネット証券はこの4~5年、個人取引におけるシェアを大幅に伸ばしてきており、ほぼ寡占状態となってきている。このため、その実力が上場企業はもとより新興企業にも認められてきている一方で、昨年の春先頃から、個人の投資対象としてIPOの需要が高まってきた。理由は、お客様のキャッシュ比率が非常に高い状態にあるということと、現時点の株価上昇局面で、塩漬けにしていたものをある程度売却できる状況になったからだ。そこで再投資する対象としてIPOを連想する人が多くなっている。特に昨年末の選挙後から月を追うごとにブックビルディング件数が飛躍的に伸びてきており、昨年春先と比べて今では約4倍にも増えている。しかもその金額は、多い銘柄だと我々一社で2000億円もの需要が積まれる。ネット証券を利用されるお客様は基本的に資金拘束を嫌がる傾向が強いのだが、現在はキャッシュが潤沢にあることも相俟ってか、あまりそういったことも構わない様子だ。需給のミスマッチで、需要側は件数、金額とも非常に高まってきており、そのため初値が跳ね上がってしまうようなケースもある。ブック段階での需給のミスマッチが、セカンダリーで反映される格好になっているのかもしれない。このように、IPOは弊社にとってすでにプレミア商品になっている。お客様に喜んでいただける、きちんとした仕入れが出来れば、良い循環がうまれてくる。特に仕入れの部分は、私がこれまで管掌していた分野でもあり、良い商品供給が出来ていることは間違いない。引き続き力を入れていくつもりだ。

――ネット証券の今後の展開は…。

 髙村 ネット証券業界の歴史をみると、これまでの第1ラウンドは手数料や金利といった経済条件の引き下げ競争だった。今後、第2ラウンドの差別ポイントとなるのは、「ユーザビリティ」の部分だろう。操作画面にしても、今はパソコンのみならずモバイルがあり、モバイルの中でもスマホがあったりタブレットがあったりと、取引チャネルは拡大している。それに対して如何に分かりやすく、操作性の良いもの提供していくかというソフト面での競争がすでに始まっている。いみじくも来年1月からは日本版ISA(少額投資非課税制度)が開始され、対象となる新規のお客様を取り込むチャンスも出てきた。すでに各証券会社が色々と知恵を絞り口座目標なども設定してきているようだ。我々のお客様からも相当の反響があると予想している。今回の商品が影響を及ぼすのは比較的若い層の30~40代であり、その辺りの層は今の我々の顧客年齢と重なる。顧客層を広げるためのせっかくのチャンスを、きっかけとなる操作性の部分で他社に流れてしまわないよう、最適の取引環境を準備しておきたい。

――グループ力があることも御社の強みだ…。

 髙村 まさに、我々が他社と差別化を図る最大のポイントはグループ力だと思っている。これまでも住信SBIネット銀行との連携は大変上手くいっており、新規で証券口座を開設する人の4割近くがネット銀行からのお客様だ。親和性が高く、銀行預金を証券の資金余力とみなせるハイブリッド預金もあるため、証券の口座と銀行の口座を同時にご利用になられるお客様も相当数いらっしゃる。また、昨年6月には対面チャネルとなる「SBIマネープラザ」を新たに立ち上げ、当社の支店もそちらに統合している。今後、全国でさらなるショップ展開を予定している。このようなSBIグループ各分野との連携をより強化していくことで、更なるシナジー効果を高めていきたい。

――外国株については…。

 髙村 今年一月にシンガポール、タイ、マレーシアというASEAN3カ国が加わり、現在は9カ国の外国株の売買が可能になっている。新たな3カ国はこれからトランザクションを盛り上げていく段階だが、トランザクションの大きさを見てみると、米国、中国に次いで三番目にトランザクションが大きいのは昨年リリースしたインドネシアとなっている。こういった国の銘柄情報を、リサーチ機能をきちんと備えてお客様に関心を持っていただけるよう誘導していくことも必要だと考えている。

――ネット証券ならではのサービスは…。

 髙村 特に発行会社から高い関心をいただいているのは、様々な会社の売買手口がわかるデータの提供だ。どのような属性の方がどのような形で売買しているのか、さらに投資家がどのようなポートフォリオを組んでいるのかといったデータの提供が発行会社に大変感謝されている。これはネットだからこそ瞬時にわかる我々の強みといえる。IPOして間もない会社にとって、個人投資家周りのデータをふんだんに持っていることは非常に有用性がある。さらにそれをきちんと分析して提供することなど、どこの証券会社もやっていない。それをやることによって、発行会社がIRを行う際にやるべきことを、グループ会社のモーニングスターと連携して考えたりすることも出来る。市場の変更を行う際に、株主作りのための様々なメニューの提案も出来るだろう。データのカバー率は、月々の商いの2~3割で相当大きい。この辺りを活かした提案営業は我々の強みだ。

――最後に、社長としての抱負を…。

 髙村 これまでのトップは証券会社経験者だったが、私は実はもともと銀行出身で証券会社は当社が初めてだ。そういう意味では、今後、証券会社ではない視点で私なりに気づいたことなどをアイデアとして出していったり、また、同業他社の社長と比べて随分と若返ったので、その若さの象徴である「自由奔放さ」を存分に活かし、色々な人に相談はしつつも、先入観を持つことなく何にでもトライしていきたい。弊社の主な顧客である30~40代の年齢層とも近いため、我々のモットーである「顧客中心主義」を貫くべく、常にお客様目線で色々なことにチャレンジしていきたいと考えている。(了)

▲TOP