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「役割分担の不明確化で中央集権が温存」

地方自立政策研究所
理事長
穂坂 邦夫 氏(前 志木市長)

――中央集権システムの解体を唱えていらっしゃる…。

 穂坂 私は数年前から、官僚や全国の都道府県職員・市町村職員に声をかけ、その呼びかけに応じて集まった延べ約90名の有志たちと一緒に、公共事業における国と都道府県と市町村の役割分担を明確にするための研究をしてきた。市長をした経験から、国と都道府県と市町村の役割分担が非常に不明確であり、それが日本式の中央集権システムを温存させ、大きな無駄を生んでいると考えたからだ。政党のマニフェストなどには「国と地方は対等でなくてはいけない」と書かれ、地方の自立を促すような政策が提案されているが、現実には、役割分担を不明確にすることによって、国が全権を握る中央集権システムを存続させる仕組みが戦後一貫して続いている。国の役割、都道府県の役割、市町村の役割を明確にすれば、地方交付税制度や補助金による国の支配、法令や行政指導などで国が地方に対して口出しすることは出来なくなる。その結果は、財政の大きな無駄を省くことに繋がる。この辺りをはっきりとした数字に表そうと試みたのが「実務的役割分担明確化研究会」であり、その経緯や結果を一般向けにわかりやすく小説化したのが「Xノートを追え~中央集権システムを解体せよ~(朝日新聞出版)」だ。

――財政の無駄を省くためにも、役割分担を明確化することが必要だと…。

 穂坂 外国では役割分担がはっきりしており、地方に出来ない仕事だけを国がやるようになっている。行政における補完性の原則だ。そのため国が地方に口出しすることはない。一方、日本では役割分担が曖昧で責任の所在が明らかでないため、様々な弊害が起きている。二重行政や三重行政の無駄もその一つだ。さらに、埼玉県久喜市で起きたように急病人が救急車で36回も受け入れを断られて亡くなっても、誰も責任をとらないといった痛ましい事故も起きてしまう。そうしたことが起こらぬようにするために、役割分担を明らかにして、責任の所在を明確にするとともに、行政連絡の重複をなくし、効率化を図らなくてはならない。

――役割分担を明確にするためには…。

 穂坂 先ず、官と民の仕事をきちんと分けることだ。さらに、官の仕事でも民に委託した方が効率的な場合もある。例えば役所や公的機関の受付だったり、郷土資料館での仕事だったりと色々あるが、特に受付に関しては、座り仕事が基本の公務員は受付に立ち続けることも出来ないし、気の利いた受け答えやサービス精神は、民間できちんと訓練を受けたスペシャリストには敵わない。また、郷土資料館などの仕事も、民間で郷土に大変興味を持っている人達は沢山いて、そういった人達に資料館の展示内容などを頼むと、とてもわかりやすく楽しい資料館となる。実は、私が志木市長だった頃、職員に「行政のプロでなくても出来る仕事は今の仕事の何%くらいか」という質問をし、実際にひとつひとつ調べ上げてもらった。志木市では漁業などは扱っていないため、それほど規模は大きくないが、それでも1000近い事業があり、そのうち、本当に行政のプロフェッショナルでなければ出来ない仕事は約25%という答えが返ってきた。さらに法律の枠を取り除けば10~15%程度ということだった。

――本当に行政のプロでなければ出来ない仕事は、全事業のわずか10~15%…。

 穂坂 言うまでもなく、個人情報の取り扱いなどは厳重に注意しなくてはならないが、実際には今は情報関連事業についても外部委託している場合が多い。むしろ役所で管理するよりも、信用問題を何よりも重視する民間の方が情報管理はしっかりしているという考えもあるため、行政のプロでなければ出来ない仕事はかなり限られる。例えば私が志木市長だった頃は、市民の皆さんの公募による志木市民委員会と志木市が中心となって有償ボランティアを募り、定年退職した方々を最低賃金よりも多少多い賃金で雇用し、志木市の様々な公共サービスのために活動してもらっていた。このように、民間の力を活用することで行政のコストは削減できる。市民との協働を20年間続けていけば、志木市の一般会計約180億円は、約半分の90億円になると試算された。もちろん、こういった市民参加による市政運営には、特権を失うことを嫌がる議会からの反対もある。そもそも不平等の温床である議員の特権などなくしてしまったほうがよいと私は思うのだが、幸い私の場合は同志の議員が多かったため、新たな施策や、不要と思われる前例を廃止することに対して、議会側からの苦情はあまりなく、スムーズに進めることが出来た。しかし、私が辞任した後の市長には、今はあまり無理をしないようにとアドバイスした。

――役割分担を明確化して、市町村・都道府県・国の事業を整理し、移管するような場合に特に気をつけることは…。

 穂坂 役割を明確に分担するためには、理念や概念で分類するのではなく、国と都道府県と市町村が実際に今行っている7000~8000事業のすべてを一つのテーブルの上に乗せ、ひとつひとつ本当に必要なのか、どこが担当するのがふさわしいのかを調べていくことだ。そうすることで事業の重複をなくして効率化させ、最後に補助金の無駄を洗い出していく。さらに、政治的な配慮が働く可能性のある政治家や現場を知らない有識者ではなく、現場の実務家たちの目線で仕分けてもらうのがポイントだ。民主党の事業仕分けのおかげで、今は国の全事業の資料が簡単に手に入るようになったが、我々が延べ3年間を掛けて役割分担明確化委員会で行った作業量は膨大なもので、有志で集まってくれた実務者の皆さんは、ボランティアながら2度にわたってそれぞれ約6カ月を掛けて検証作業を行ってくれた。連休には合宿まで行った。そうして調査結果として出てきた行政経費の無駄遣いは、年間18兆4000億円という驚くべき数字だった。 

――具体的に、どういったところから無駄が出てきたのか…。

 穂坂 例えば今の都道府県の業務に関して言えば、基本的に国と市町村では出来ない補完機能を担っているにも拘らず国が内政的業務を手放さないため、自分たちでわざと仕事を増やしてしまっている。しかし、仮に国の内政事業を都道府県にすべて任せようと思っても、今の都道府県の規模では無理がある。全都道府県の一般会計の総額は、国や市町村と同じ約50兆円であり、極論して言えば、都道府県をなくしてしまえば50兆円が削減出来るということになる。ここで、都道府県をなくす代わりに道州制という案が出てくるのだが、最初から道州制ありきでは無駄を省くことは出来ない。

――行政経費の無駄削減、財政再建のために行うべきことは…。

 穂坂 我々は、(仮称)地方広域センターといったものを置いて、そこに、国から地方に移管すべき内政的業務を移管する方法で分類作業を進めたが、国の内政的業務の受け皿として道州制は必要不可欠だという結論になった。市町村や都道府県の総務費に占める人件費の割合は非常に高い。しかも、その高い人件費で重複した事業を行っている。これではとても効率的、機能的とはいえない。理念や感覚で仕事を分けるのではなく、いまの仕事をしっかりと検証して役割をきちんと分担することが、今、日本が急務としている行政経費の無駄削減、そして財政再建につながっていくことになる。(了)

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