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「単身世帯の増加をテコに社会の再構築を」

みずほ情報総研
社会保障・藤森クラスター
主席研究員
藤森 克彦 氏

――単身世帯が急増しているというが、その実態はどうなっているのか…。

 藤森 総務省『国勢調査』によると、総人口に占める単身世帯(ひとり暮らし)の割合は、1985年は6.5%だったが、2010年は13.1%となり25年間で2倍となった。さらに国立社会保障・人口問題研究所の将来推計では2035年には16.5%と、6人に1人が単身世帯になると予想している。1985年と2005年で年齢階層別に単身世帯の増加状況を比べると、70歳以上の高齢者で単身世帯が大きく増加している。また、50代や60代の中高年男性でも単身世帯の増加が著しい。

――なぜ単身世帯は増加しているのか…。

 藤森 70歳以上で単身世帯が増えたのは、高齢者人口が増えたことと、成人した子どもと老親が同居しなくなったことがあげられる。一方、50代と60代男性で単身世帯が増加する最大の要因は、未婚化の進展だ。例えば、50歳時点で一度も結婚をしたことのない人の割合を「生涯未婚率」と呼ぶが、男性の生涯未婚率は1985年まで1~3%台で推移した後、1990年以降急激に上昇し、2010年には20%となった。つまり、2010年現在、50歳男性の5人に1人が未婚者となっている。しかも2030年になると、男性の生涯未婚率は30%程度まで上昇すると予想されている。90年代以降、私たちの想像以上に結婚や世帯形成の面で大きな変化が進んでおり、その傾向は今後も続くとみられている。

――単身世帯の増加にはどのような問題があるのか…。

 藤森 一人暮らしは、いざというときに支えてくれる家族などの同居人がいない点で、リスクが高い。具体的には、(1)貧困のリスク、(2)要介護になった場合のリスク、(3)社会的に孤立するリスクが、二人以上世帯よりも高い。生涯単身で生きていくことを選択した人は、そのリスクを認識して、現役時代からこうしたリスクに備えることが望ましいと思う。一方、単身世帯は、本人の意思とは関係なく、配偶者と死別したり、子供と別居することなどによっても生じうる。今家族と暮らしていたとしても、将来一人暮らしになる可能性は誰にとってもある。単身世帯が増加する中で、社会としてもその対応をしていく必要があると思う。

――なぜ単身世帯では、貧困のリスクが高まるのか…。

 藤森 病気や失業のため長期間働けなくなっても、親や配偶者といった同居人がいれば、同居人が働くことなどで何とかやりくりできる。しかし、一人暮らしでは支援してくれる同居人がいないので、貧困に陥りやすい。実際、単身世帯の貧困率は、二人以上世帯よりも高くなっている。貧困率とは、全世帯の可処分所得を世帯員数で調整した一人当たり可処分所得(等価可処分所得)中央値の半分以下で生活する人々の割合をいう。2007年の政府統計では年間の等価可処分所得が124万円未満で生活する人の割合だ。例えば、日本全体の貧困率(2007年)は16%なのに対して、単身男性では29%、単身女性では46%と、単身世帯の貧困率は高い水準にある。

――高齢者の単身世帯が増えると、介護の問題が大きくなっていく…。

 藤森 要介護者のいる世帯に「主な介護者は誰ですか」とたずねると、三世代世帯または夫婦のみ世帯では9割以上が「家族」と応える。介護保険ができたとはいえ、家族は依然として大きな役割を果たしている。しかし、一人暮らしの場合、少なくとも同居家族はいない。では、誰が一人暮らしの要介護者の「主たる介護者」となっているかといえば、「事業者」と回答する人が5割、「別居の家族」は5割だった。今後、単身世帯が増えれば、事業者による介護サービス需要が高まっていくだろう。

――介護財政も厳しいので、高齢者を抱える子ども夫婦に税制優遇などを施して、家族の中のセーフティネットを育てることも必要ではないか…。

 藤森 労働力人口が減少していく日本において、親の介護のために働き盛りの子どもが仕事を辞めることが良いのかという問題もある。それぞれが得意な分野でプロフェッショナルとして活躍して、介護もプロに任せた方が、要介護高齢者にとっても、日本の経済にとっても良いのではないか。もちろん、家族としての精神的な支えまで業者に任せましょうと言っている訳ではない。家族には家族の役割はあると思う。また、ライフスタイルが大きく変化する中で、税制優遇などの措置によって、老親との同居を促進できるのかといえば、かなり難しいだろう。しかも今後は、未婚の高齢者が急増していく。例えば、未婚の高齢男性は、2005年現在26万人しかいないが、2030年には168万人と6.5倍になると推計されている。この多くは一人暮らしの可能性がある。未婚の一人暮らし高齢者は、配偶者と死別した単身高齢者と異なり、その多くは子どもがいないことが考えられる。そのため、老後を家族に頼ることが一層難しくなるだろう。こうした将来の状況を考えても、「介護の社会化」は進めていくべきだ。

――単身世帯が抱える「社会的に孤立するリスク」とは…。

 藤森 総務省の『社会生活基本調査』によると、高齢単身者の約8割は「家族と過ごす時間を全く持たない」と回答している。子どもが近所に居住していても、高齢単身者の約7割が家族と過ごしていない。また、高齢単身男性の近隣との関係についても、「心配ごとを相談する相手がいない」「近所付き合いがない」と答えた人の割合が、他の世帯類型と比べて高くなっている。おそらく、健康で働いているうちは一人暮らしでもあまり不自由はないと思われる。問題は会社を辞めた後だ。現役時代は、会社の人間関係があるが、引退を機に、会社での人間関係は乏しくなりがちだ。一方、退職後に地域に目を向けてもすぐに人間関係を構築できるわけではない。その意味では、現役時代からワークライフバランスを重視して、地域の人間関係を作る必要があると思う。特に懸念されるのは、今後、都市部で中高年の単身男性が増えていくことだ。例えば、2030年に東京と大阪に住む50~60歳代の男性の3人に1人が一人暮らしになると予想されている。中高年の単身男性には未婚者が多く、子供がいないことが考えられる。このため、子どもの活動を通じて地域で人間関係を形成することが行いにくい。都市部で一人暮らしをする中高年男性が地域で人間関係を構築することは容易ではなく、今後大きな課題となっていく可能性がある。

――では、単身世帯の増加に対して、どのような対応をすべきか…。 

 藤森 まずは、社会保障制度の強化だ。現行の社会保障制度は、家族の助け合いを前提に構築されてきたため、単身世帯の抱えるリスクに十分な対応ができていない。また、地域コミュニティーのつながりの強化も重要である。退職をした多くの高齢単身者にとって、今後、地域コミュニティーが「社会とつながる場」になりうる。退職後に、まずは「支える側」として地域のNPO活動などに参加して、地域の人々と交流する。そして、いずれ「支える側」から「支えられる側」になっていく。こうした循環を地域で作ることが必要であり、行政にはこれを支援してほしい。結婚をして同居家族がいることが当たり前であった日本社会にとって、単身世帯の急増は確かに衝撃であると思う。しかし、うまく対応できれば、社会を良い方向にもっていく力になりうる。バリアフリーの街が、障がいのない人にも住みやすいように、一人暮らしの人が住みやすい社会は誰にとっても暮らしやすい社会であるはずだ。血縁を超えて、公的にも地域としても支え合っていけるような社会の再構築が求められている。(了)

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