金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「日銀、『やけくそ』の金融緩和」

~緊急記者座談会~

――日銀がとうとう一段緩和を実施した…。

  黒田日銀総裁は、「金融政策の逐次投入はしない」、「CPIの2%達成には自信がある」と言っていたから、前週末の実施には意外感もあった。このため、黒田日銀総裁の言葉を信じて損したという裏切られた思いを持った者も多いのではないか。しかし、意外感があるからこそ市場に刺激を与えたのであって、前週末の平均株価は800円高となり一気に1万6000円を回復した。
  追加緩和をいつやるかはともかく、11月中には何らかの緩和策を実施すると見る向きは多かった。株価が一時1万5000円を割り込む一方で、消費税の再増税のためには景況感の悪化は許されないからだ。どういった株価刺激策を取るのかは分からなかったが、結局はETFばかりでなく長期国債の買入額も大幅に増額してきた。まさに「乾坤一擲(けんこんいってき)」、黒田緩和の命運をかけての勝負といった内容だ。
  確かに、「逐次投入はしない」、「CPIの2%達成には自信」という方針、見通しともに、4月の消費税引き上げのマイナス効果により崩れてしまったわけだから、最後の勝負といった感は否めない。今回の緩和でもなおCPIの2%を達成できなかったら、辞任という声が高まるだろう。黒田日銀丸に対する信頼が大幅に失われるわけだから。
  辞任はともかく、消費税再引き上げに向けた露骨な株価対策という印象もぬぐえない。というのは、2年近い大規模緩和によって既にバブルの芽が出始めていると見られるからだ。具体的には、外国株や外国債券の運用でかなり危ない金融商品が運用対象となっていたり、いい加減な外国の運用業者に運用委託をしている例が目立ち始めているという。一方、米国が金融引き締めの方向を鮮明にしてきているため、日銀のさらなる金融緩和はバブル崩壊時の傷口を広げることにもなりかねない。
  今回の一段緩和によっても、日本の成長率が大して向上しなかったら、それこそ本格的に運用資金は海外に流れていく。今回の一段緩和による株高・円安によって金融市場の方は来年10月の消費税引き上げのコンセンサスが回復したことから、実際に消費税が引き上げられることが決まれば、それによる成長率の低空飛行見通しから円安バイアスに拍車が掛かるだろう。このため、来年の成長率次第だが、1ドル=120~130円といった円安もあるのではないか。
  しかし、それによりCPIの2%達成と株高の維持も期待できる。今回の一段緩和の是非はあろうが、成長率と海外投資バブルはともかくとして、消費税も10%にすることができれば黒田日銀総裁としては何とか面子は保てるのではないか。また、成長率についても消費税再引き上げ前の来年7~9月までは、徐々にではあるがプラス幅を回復させていくのではないか。エボラ熱などの問題がなければ…。
  金融緩和は景気刺激策であって、持続策にはなり難い。ましてや大規模緩和はその後のバブル崩壊などの大きなリスクを生む。今回の追加緩和でも大した経済成長をしなければ円安と財政赤字と資産バブルが進展するだけで、多くの国民は決して豊かにならず、むしろ貧乏になる。輸入物価の大幅な上昇と財政コスト上昇の国民負担が重くのしかかっている。加えて、投資信託が不良債権になれば弱り目に祟り目だ。その意味で追加緩和の責任は今後に重くのしかかってくるだろう。
  確かに追加緩和のリスクは大きい。消費税を再引き上げするための大きな賭けとも言える。しかし、それだけに日銀は今回の緩和を最後の緩和とすることを考えているのではないか。つまり、「最後の一槌」ということだ。消費税引き上げの決定時期の今年いっぱいは追加緩和の効果が保つだろうから、年明け以降についてはむしろ16年以降の金融引き締めに向けて超長期国債からイールドカーブのスティープ化を図っていくのではないか。
  円相場が政府・日銀の思惑とは別に、何らかのアクシデントにより1ドル=150円ぐらいの円安に急落するリスクを見ておく必要もあるだろう。エボラ熱や尖閣諸島問題など外部材料には山ほどリスク要因がある。とりわけエボラ熱は中国で爆発的に広がる可能性が指摘されているだけに、中国政府の隠ぺい体質とともに警戒を要する。そして、それらにより円安になると、Jカーブ効果が効きにくくなっているため、国民負担が大幅に増加する。
  1ドル=150円ぐらいの円安になることはないと思うが、仮にそこまでの急落には外為特会の100兆円があるため、これが活きてくる。それより心配なのは、急激な円安になって国民が困るからといってまたまた財政を出動してくることだ。これではいくら消費税を10%にしても「借金地獄」からは抜け出せない。そして、そうこうするうちに円安と財政赤字の拡大によって長期金利が上昇し、スタグフレーションの様相を呈してくる。財政破たんの始まりだ。
  日本は、増税のための財政出動を行っているから、増税しても国家財政は常に「火の車」だ。失われた25年間もここに問題がある。つまり、日本の国家財政にはコスト削減という考えがないことが致命傷になっている。それがいずれ財政破たんということにつながっていく。

――どうしたらいい…。

  失われた25年間の失敗は、財政支出を拡大させたにもかかわらず税収を減らしてしまったことだ。借金は1000兆円と4倍に膨らむ一方で、税収はバブル時の半分近くに減ってしまった。これは会社の経営者ならとっくに辞職に追い込まれている。明らかにマクロ経済政策の失敗だ。この失敗を取り返さないようにするには財政コスト削減を細かく行っていくしかない。ただし、それを行うには行える人がしかるべきポストに就くという体制の再構築が不可欠だが…。

――コスト削減、体制の見直しともに現実的ではない。このため、金融緩和と財政のバラまきを続けざるを得ないというのが、残念ながら今の日本の政治であり、マクロ経済政策だ。しかし、それももう長くは続けられない。今回の追加緩和と消費税の再引き上げが、財務省主導によるこれまでの政策に最終的な白黒を付けることになるのではないか。終わりの始まりだ。

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