金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「国際金融システムの安全網を拡充」

財務省財務官
山崎 達雄 氏

――国際金融行政の当面の課題は…。

 山崎 世界経済は、IMFの『世界経済見通し』で指摘されている通り、緩やかに回復している。しかし、米国内の投資が年初の寒波による落ち込みをカバーするまでには回復していないことや、ユーロ圏では長期的にインフレ率が低下する可能性も指摘されている。世界第三位の経済大国である日本としては、日本経済を再生させることこそ世界経済に対する最大の貢献であるという考えのもと、成長戦略を着実に実施し、デフレからの脱却を確実なものとし、持続的な成長を実現していかねばならない。一方で、米国では金融緩和からの円滑な「出口」に向けた動きが進んでいるが、この出口政策がスムーズに行われるような当局間での国際的な連携もますます重要となると認識している。世界の金融市場が密接に結びついている今、一国の金融政策の変更が他国の経済に瞬時に大きな影響を与えかねないからだ。その他、世界経済のリスクとして、一部の新興国における金融環境の悪化に伴うリスクや、中東情勢やウクライナ情勢などの地政学的リスクがあるが、こういったリスクに備えて国際金融システムのセーフティネットを充実させる取組みも必要だと感じている。

――BRICS開発銀行への日本の対応は…。

 山崎 今年7月15日に開催されたBRICS首脳会議において、「新たな開発銀行」(New Development Bank)の設立が合意されたことは承知しているが、今回の会議では資本金の規模や総裁ポストの順番等が合意されたに過ぎず、具体的な業務やガバナンス構造の詳細は明らかになっていないため、コメントは差し控えたい。ただ、これまで世銀をはじめとする国際機関における開発融資は、質の高いルールと公正なガバナンスのもとで厳格な債務持続性基準に照らして行われてきており、新銀行においてもこうした点が適正に行われることは重要と考えている。世界のインフラ需要は極めて大きなものであり、国際金融機関や民間資金が効率的にそうした資金需要に適切に応えていくことは必要だろう。

――IMF、世界銀行、アジア開発銀行の改革・運営について…。

 山崎 IMFは世界経済の安定に向けた取組み、世界銀行やアジア開発銀行は途上国の持続可能な経済成長を通じた貧困の撲滅に向けた取組みを進めており、各国際機関において、一層効率的・効果的な運営のための検討が進められている。具体的に、IMFはラガルド専務理事の采配の下、リーマンショック後の欧州債務危機の拡大を抑制し、新興国への波及を抑える上で大きな役割を果たし、さらにIMFの正当性、有効性、信頼性を維持・向上させるために、クォータ見直しをはじめとする資金基盤の強化やガバナンス改革に取り組んでいる。世界銀行は昨年12月に最貧国への支援機関であるIDAの資金基盤の拡大に成功し、キム総裁のイニシアティブの下、今年7月に業務戦略や財務戦略の見直しを含めた大規模な組織改編を行っている。また、アジア開発銀行では中尾総裁のリーダーシップの下、アジア地域の旺盛なインフラ資金ニーズに応えて十分な資金を確保するために、低所得国向けのアジア開発基金と中所得国向けの通常資本財源の2つの勘定の統合について検討している。こうした各国際機関の取組みを評価するとともに、我々は今後も積極的に議論に貢献していくつもりだ。

――アジア各国、とりわけアセアンとの金融協力について、現状そして展望は…。

 山崎 アジア通貨危機を契機として始まったASEAN+3における地域金融協力は、経済・金融環境の変化とともに進展してきた。特に地域の金融セーフティネットであるチェンマイ・イニシアティブ(CMIM)は、2000年5月の合意以来発展を続け、リーマンショック後の2009年2月に契約の一本化(マルチ化)に合意し、集団的な意思決定による発動の迅速化が図られた。2010年3月の発効当初1200億ドルだった資金規模は、今年7月に2400億ドルへと倍増。金融危機に至る前に予防的に資金供給が出来るような改訂契約も発効した。2011年4月には、域内経済の監視・分析を行うとともに、CMIMの運用を支援するためのASEAN+3マクロ経済リサーチオフィス(AMRO)もシンガポール法人として設立し、現在は根本所長の下で、AMROを国際機関とすべく組織の充実が図られている。また、90年代後半のアジア通貨危機が「通貨・期間のダブルミスマッチ」、つまり長期の資金需要を短期かつ外貨建ての対外債務に過剰に依存していたことに鑑み、アジアの貯蓄をアジアへの投資に活用するという観点から、2003年8月以来、ASEAN+3域内の現地通貨建て債券市場を育成するアジア債券市場育成イニシアティブ(ABMI)の推進にも力を入れてきた。例えば、信用保証・投資ファシリティ(CGIF)による域内企業の起債への保証や、最近では域内の債券発行の手続きを共通化する取組みも行っている。

――安倍政権は日本とアジア間の関係強化に力を入れている…。

 山崎 安倍政権のそういった姿勢から、ASEAN各国やインドとの二国間金融協力も進展している。特にASEAN5か国(インドネシア、シンガポール、タイ、フィリピン、マレーシア)との二国間通貨スワップ取極の拡充・再締結や進出日系企業による現地通貨建て資金調達の円滑化のための施策には力を入れており、本年1月にはインドとの二国間通貨スワップ取極の拡充も行った。このように、日本とアジア間での多国間と二国間双方の金融協力に力を注ぐことで、アジア地域金融市場の安定化と、進出した日本企業への安定的な資金供給に貢献していきたいと考えている。

――外為特別会計の一部運用見直しについては…。

 山崎 外為特会の保有する外貨資産は、我が国通貨の安定を実現するために必要な外国為替等の売買に備えて保有している。その運用にあたっては、安全性及び流動性に最大限留意しつつ、その範囲内で可能な限り収益性を追求するという方針の下で運用していかなければならない。先般の特別会計法の改正では、証券会社等への債券貸出、運用の外部委託等が可能となったが、我々としては、今後とも外貨資産の運用効率の向上に取り組んでいく。

――欧州における為替の表示レートやLIBORの不正操作と我が国でのあり方について…。

 山崎 LIBOR不正操作疑惑を発端とする金利指標改革への対応として、全国銀行協会は昨年12月に運営見直しに向けた報告書を公表し、当該報告書に基づき今年4月には新たに全銀協TIBOR運営機関を発足させるなど、IOSCO原則を遵守すべく改革を進めている。その結果、今年7月にFSBから公表された主要な金利指標の改革に関する報告書で、TIBORは同原則の遵守に向けて著しい進捗が見られると評価された。財務省としても、TIBORの信頼性の更なる向上に向けた取組みが今後も継続されていくことを期待している。外国為替指標の不正操作疑惑については、FSBが中心となって不正行為のインセンティブを抑制するための改革案を検討しており、本年7月にはWMロイターの算出手法の改善や外為市場の参加者の行動規範等に関する提言を含む市中協議文書が公表された。我々としては、今後もFSBの参加メンバーとして、外国為替指標の信頼性の更なる向上に向けて国際的な議論に積極的に参画していくつもりだ。(了)

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