金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「ビッグデータで景気調査も有効」

NTTコム オンライン・マーケティング・ソリューション
代表取締役社長
塚本 良江 氏

――日本でも、ビッグデータの活用が盛んになっている…。

 塚本 例えば、検索エンジンでは世の中に何十億とあるホームページ上の情報すべてを収集し、それを処理しやすいように整理して保存し、検索出来る状態にしている。これもビッグデータのひとつと言える。当社商品のBuzzFinder(バズファインダー)でも基本的には検索エンジンと同じようなことを行っているが、特徴は、ツイートを15分毎のリアルタイムで分析するということだ。ツイッターで呟かれた日本語ツイート全量と国内ブログサイト90%を網羅し、指定したキーワードに関する書き込みを分析して提供している。例えば今、日本では2000万とも言われるツイッター利用者がいて、一日に一億件前後の日本語がツイッター上で呟かれているが、その中で「ドコモ」という言葉をキーワードにして絞ると数万件程度になる。さらに、その言葉をバズファインダーで解析すると、今呟かれているその言葉が、何歳くらいの人によって呟かれたのか、呟いている人は男なのか女なのか、その言葉はネガティブなイメージで呟かれているのか或いはポジティブなイメージなのかに分類することが出来る。そして、その内容や状態によって「ドコモ」が企業としてお客様にお答えしたほうが良いと思われる場合には、コールセンターからその呟きに対して返事をする。これが、今、実際にドコモで行われているビッグデータの活用例だ。

――例えば、製品で何か困った事があった時に何気なくツイッターで呟いたら、意図せずとも、それに対して企業からトラブルサポートの返事が返ってくるということか…。

 塚本 何気ない呟きに対して突然企業から返事が返ってくると皆ビックリするのではないかと思うかもしれないが、これまでの調査では、この返事に対する反応の65%はポジティブ、34%がニュートラル、わずか1%がネガティブという結果だった。ネガティブといっても炎上するようなものではなく、我々からの質問に対する反応が返ってこなかったという程度だ。このようなスピーディな製品サポートは弊社で支援させて頂いている範囲で見ると大抵のお客様に喜ばれている。こういった形での活用など、今や世の中には色々なビッグデータ解析とその活用があり、その内容も規模も本当に様々だ。当社のバズファインダーでは、キーワードとなる言葉が一定の期間でどのように変化しているかを見るトレンド分析、また、その言葉がネガティブな意味で使われているのかポジティブな意味で使われているのかを言語解析するセンチメント分析、そして、男女別や年齢別に分けた属性分析などがあるが、こういった定性データは、従来から活用されている商品の市場占有率や売上高や見込み客数といった定量データと違って、昨今のソーシャルメディアの急発展に伴い急激に膨らんできたものだ。これが、最近になって特にビッグデータが騒がれるようになってきた理由のひとつと言える。

――これまで企業が行っていたお客様へのアンケート調査も、ビッグデータを利用すれば全く違うやり方になってくる…。

 塚本 これまで企業がマーケティングの一環として行ってきたお客様の声を聞くための方法は、例えば年に数回、数百人といった規模でのアンケート調査だった。それが、ビッグデータを使えばもっと簡単に、色々な人達の本音に近い想いを大量に捉えて、それを様々に活用する事が出来るようになる。ただ、日本語は言語解析が難しく、「冷たい」という言葉ひとつ取っても、人に対して使われる時と真夏にアイスを食べる時ではポジティブかネガティブかも違ってくるのだが、このように複雑な言葉を解析するために、我々はNTT研究所が開発した非常に高度な技術を取り入れている。これは検索エンジンにも使われている技術だ。さらに検索エンジンには搭載されていない15分毎のリアルタイム機能も備えている。バズファインダーを利用すれば企業がマーケティングにかける費用を大幅に減らすことも可能だ。すでに150社程度には色々な形でご利用いただいている。また、民間企業だけでなく、官公庁などにも大いに利用していただけるものだと思う。例えば金融関係で言えば、最近のNISAについて国民がどう考えているのかを知りたければ、このバズファインダーに「NISA」と入力すれば簡単に本音を拾い出し、関心を持っている人の年齢や男女比、関心事の内容まで把握することができる。これまでその作業のために使われてきた時間や人件費は確実に減るだろう。何よりこの不特定多数の本音のデータは、閉ざされた空間で現場を知らずに間違った判断をするようなケースを防ぐのに大いに役立つのではないか。

――ソーシャルメディアが普及し、バズファインダーのようなシステムが出来たことで、誰でも簡単にビッグデータが使えるようになってきた…。

 塚本 そして、誰でも使えるビッグデータで、色々な声を自由に聞けるソーシャルリスニングが可能になった。実は先日、我々は慶應義塾大学と共同でデータビジネス創造コンテストを行った。これは、これからのビッグデータ時代に備えた人材育成とビジネスの育成を目的としたもので、約一カ月、参加を希望する高校や大学・大学院に弊社のバズファインダーを貸し出して、独自に決めたテーマで研究発表を行ってもらった。優秀賞に輝いたのは高校生のチームで、研究テーマは「花粉症」。ツイッターやブログでの発言を研究・分析することによって、くしゃみが酷かった翌日には鼻づまり対策を行うべきであること、花粉の種類に分けて予防することが有効であること、男女による薬の使い分けを検討することが必要であること、といった3つの結論を導き出した。驚いたのは、その表彰式に偶然出席していらした大学の先生が、「この結論は大学の臨床実験でかなりの時間と費用をかけて導いた結果とほとんど同じだった」と仰っていたことだ。その後も色々な医療機関から同じような話を聞いたり、医薬品メーカーなどでは、こういった情報を含めた薬の販売推進も考案中ということだ。大学の研究実験や医療品メーカーのマーケティングと同じ様なことを、高校生がバズファインダーを使って一カ月で纏め上げることが出来たのは本当に凄いことだと思う。

――ソーシャルリスニングのパワーは本当に大きい…。

 塚本 当社のバズファインダーのようなシステムを継続的に使うには、どうしても企業の中に体制を敷くことが必要になるため、普及には時間がかかると思うが、ビジネスの可能性は十分広がってきていると思う。例えば先述のコンテストのテーマには「消費税増税に対する消費者の影響を評価する調査」といったものや、「交通渋滞の解消のための誘導調査」などがあったが、こういった分野の裾野は広い。民間企業だけでなく国が行うべきテーマとしても、例えば景気ウォッチャー調査などは、このようなシステムを利用すればもっと簡単に、かつリアルタイムな調査が出来るのではないか。景気が悪くなれば、ツイッター上で「行こうと思っていた高級レストランをキャンセルした」とか、「解雇された」といった呟きが出てきたりする。こういった生の声を拾って分析する「ソーシャル版景気ウォッチャー」ができれば、現在行われている景気ウォッチャー調査とは違った観点から景気動向調査を見ることができると思う。

――御社の将来像は…。

 塚本 欧米においては、消費者の声を聞く新しい手法として既に定着しつつあり、たとえば米国の大手企業の8割前後がソーシャルリスニングを利用しているとするレポートもある。一方で、日本でのソーシャルリスニングの利用はこれから本格化すると思われる。我々は自身でソーシャルリスニングを使って検証したり、150の企業・団体にご提供してその満足度などを伺い、これは確かに役に立つという実感を得ている。まずは、このソーシャルリスニングというパワフルな手法を、是非日本にも普及させていきたい。その次の段階として、ソーシャルリスニングを利用したことで、例えば、会社の売上げが上がったり、お客様への対応がスムーズにできて会社の評判が良くなったりといったようなことで、顧客である企業・団体の経営をより良くしていければよいと考えている。(了)

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