金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「地域の特性考え独自の工夫」

全国信用協同組合連合会
理事長
内藤 純一 氏

――全信組連の理事長として…。

 内藤 平成23~25年度の3カ年計画では当期純利益を毎年55億円、資金利益を毎年150億円あげるという目標を立てていたが、今年度の当期純利益は100億円超と約2倍になり、資金利益も200億円超となった。その他、IT関係のシステムでも大きな事故もなく、連合会自体の運営は大変うまく回っている。ただ、問題は信組という業界をどう支えていくかだ。一般的に信組は中小・小規模事業者とのお付き合いであるため経営環境は厳しいだろうという見方が多く、それも正しいのだが、一方で、理事長など経営陣がしっかりとした哲学と理念と責任感を持っている信組は厳しい環境の中でも着実に業績が上がってきていると言えるのではないか。つまり、マクロ経済が悪いからすべてが悪くなるというような単純な話ではなく、経営のリーダーシップが非常に重要ということだ。

――信組を支えていくための具体的な方策は…。

 内藤 我々連合会に出来ることには限界があるため、各信組で考えていただくのが先ず基本だ。まずは、それぞれの組合が足元の経営状況をしっかり見て、危機意識を持って取り組むことだ。その上で、例えば法改正があった時などには我々が信組に対してわかりやすくアドバイスしたり、信組からの要望を当局に伝えるといったお手伝いをしっかりと行っていく。また、預貸率が低下したことに伴い、余裕資金を各信組が資金運用しているが、本業に人的資源を集中するなか、多くの信組で規模・人員等に一定の限界が生じ、運用態勢を十分に整備することが難しく、実際に過去に失敗して負の遺産を抱えている信組もある。そこで、我々が信組の運用業務に対してサポートを強化していくことが必要だと考えている。最終的には各信組の判断と責任に任せるが、現状のマーケット動向を踏まえた注意点や投資先を選択する際のアドバイスなどは積極的におこなっていきたい。すでに一年以上このような取り組みを行ってきたが、各信組からはかなり好評で「とても役に立つ」「自分たちの未熟さを再認識した」といった声を頂戴している。求められる前に押しかけ女房のようにしていくことで、「初めて問題意識をもった」と言われることもある。これをさらに進化させていきたい。

――組合への資本支援については…。

 内藤 資本支援はサポートの根幹であり、国からの支援制度を受ける前段階として、これまでに約25組合に700億円を超える資本支援を行ってきた。さらに、それでも足りないという組合や東日本大震災で被災した組合に対しては金融機能強化法を利用した公的資金注入のサポートを行っている。今年度中にさらなる(すでに公表済みの)支援が実行されれば、かなりの問題を抱えてきた組合は相当程度解決されるだろう。しかし、バランスシートの傷みが解決した後に、果たして自分たちで利益を生み出せる体質になっているのかどうかといったところに今後の大きな課題がある。今後5年~10年先の各組合を取り巻く経営環境の行末が気になるところだ。結局、自己資本比率が高くても自分たちで将来のチャンスを掴んで収益を伸ばす力がなければどうしようもないとも言えるのだ。そういった考えから今年1月に新しい資本支援スキームを作った。

――新しい資本支援スキームとは…。

 内藤 これまでの業界内支援制度の下では6%未満に落ち込んだ信用組合に対して我々が支援するという仕組みになっていた。それが今般、自己資本比率6%を上回っていても、組合側がもう少しリスクを取るために資本バッファーを厚くしたいと考えた場合には我々が支援できるようにした。問題を早期に発見すれば早期に回復するということだ。支援資金も少なくて済む。具体的な検討をさらに重ねて実行に移し、組合の足腰を強化していきたい。このスキームは国が地域経済活性化のために積極的な支援姿勢にあり、リーマンショック直後に改正された金融機能強化法によって可能になった訳だ。しかし、資本を入れれば問題がすぐに解決するとは思っていない。新しいリーダーシップのもとに経営そのものの体制を変え、きちんと利益を出せる仕組みを作らなければいけない。これについては金融当局も十分なサポートは難しい。健全性を唱えてリスクをとるなということは言えても、もっとリスクを取って儲けろとはなかなか言えないからだ。しかし、儲けなければ資本は返せず、経営はさらに悪化する。裏を返せば、儲けることで地域経済が良くなっていくということだ。そのために連合会がどのように関与していくのか、これからもしっかりと考えていきたい。

――自民党は地銀を再編した「スーパーリージョナルバンク」の創設を提案しているが…。

 内藤 地銀の経営統合はひとつの選択肢ではあるが、そこに経済合理性がなければ上手くいかないと思う。お互いの問題意識と冷静な計算の上での意見の一致と納得が必要であり、当局が旗を振ったから動くというのであれば、それは先が思いやられる。話は飛ぶが、欧米はリーマンショックで使った公的資金を最後に、金輪際公的資金注入はしないという方向に舵を切った。つまりToo Big To Fail政策を否定した。一方、日本はガタガタになったデフレ不況の経済を立て直すためや金融システムの安定を図るために、必要であれば公的資金の注入も行うべきという考えだ。それは金融機関の経営者に楽をさせるためではなく、最終的には経済全体を復活させるためである。経営責任の問題と金融経済の回復や成長の問題は峻別して対応すべきだという割切りである。こうした意味からは、金融を支える日本の制度は世界最高レベルに整備されていると言えるだろう。それらを背景に今後も地域の特殊性を考えながら独自に工夫した取り組みが求められると思う。

――信組は信組なりの特色が必要だが、これについては…。

 内藤 特に東京都はメガバンクが圧倒的な力を持っており、その中で地域の金融機関がどのような特色を出していくのかが大きな課題ではないか。信組については、やはり、地道に足で稼がなければ駄目だ。それが基本となる。そもそも信組は銀行からお金を借りられない、借りにくい、そういう人達が集まって設立された。つまり信組の融資は経営者と一緒に歩むための出資・投資でもあり、取引先を金融機関の側から引き金を引いて簡単に破綻させるなどしてしまったら地域全体が冷え縮んでしまうという意味で大きな責任を背負っている。こうした意味で、これら中小・小規模事業者への融資に対しては少し工夫の余地があるのではないか。例えば、国際的に活動する銀行については、バーゼルⅢをはじめとする国際統一基準としての自己資本比率規制の遵守が求められるが、国内の活動に専念している金融機関を取り巻く経済社会の状況は、各国において様々であり、大きな違いが見受けられるのが実情だ。日本においても国内業務に専念する金融機関については、もう少し国内の実情を勘案する工夫が必要ではないかと思う。

――今後の新3カ年計画のポイントは…。

 内藤 資本提供という直接的サポート、情報提供という間接的サポート、その他色々なサポートがあるが、今後は「経営サポート企画本部」を作り、状況に応じて総合的に対応できる仕組みを立ち上げるつもりだ。我々の組織を見渡すと、目標を与えればそれを遂行していく力はあるのだが、「自分で企画する」という力が弱いのではないかという反省がある。それを総がかりで強化していかなければならないと考えている。この業界が生き残るために、出来る範囲内のことを優先順位をつけながらやり、色々な要望に応えられるようにしていきたい。(了)

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