金融ファクシミリ新聞社金融ファクシミリ新聞

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「アジアNO.1を目指し質を向上」

東京証券取引所
代表取締役社長
清田 瞭 氏

――東京証券取引所を率いる立場となられて…。

 清田 東証は、日本取引所グループ(8697)代表である斉藤CEOが東証の社長だった頃から、株式会社として「営業」という感覚を持つことが必要だという風に、良い方向にカルチャーを変えてきている。ここで言う「営業」とは、証券会社と共にIPO企業を発掘したり、一段上の市場に移るためのお手伝いであったり、投資家に対して投資の教育をするようなことだ。今後、市場運営、自主規制、決済、情報提供という4つのファンクションをどのように強化していくかといったことに注力していきたい。

――日本取引所グループに統合され、現物株は東証、デリバティブは大証というように役割分担されたが、これによるメリットは…。

 清田 これまでは東証と大証がそれぞれに現物とデリバティブを抱えて、合計4つの売買取引システムが動いていた。それを2つのシステムにまとめることで、コストが大幅に下がり、システムトラブルの発生リスクも半減するようになる。上場企業や証券会社にしてみても、これまで東証と大証のそれぞれに支払っていたコストが1カ所で済み、投資家からみてもそれぞれの手数料が一つにまとめられ節約できる。色々なことが上手く整理されていくだろう。

――不公正取引防止のための取り組みは…。

 清田 証券取引等監視委員会や日本証券業協会等と密接に連絡を取り合いながら、様々な不公正取引の防止に取り組んでいる。例えば、我々は時々刻々の取引を常時監視している。取引上で何かおかしな動きがあればすぐに端末上にピックアップされるようなシステムになっており、さらに自主規制法人ではそういった動きを追跡して詳細な分析を行う。そこで本当に不公正取引が疑われるものに関しては、証券取引等監視委員会へ報告して、摘発されたり、課徴金納付命令が出されることになる。そうした連携はかなり上手にできており、不公正取引防止の役割を果たしていると思う。

――現物取引でも夜間取引を要望する声があるが…。

 清田 夜間取引については過去に幾度か検討されてきたが、いつも「時期尚早」とされて見送られてきた。しかし、世の中がグローバル化し、日本市場の売買代金の約6割を海外投資家が占め、約3割が個人投資家、個人投資家のほとんどがネット証券を通じての取引という現在において、ネット証券のユーザーアンケート調査結果で「夜間が開いていればやりたい」という意見が8割程度あったという事実が示すように、夜間取引のニーズは高まっている。また、主要企業の決算や重要事項が取引終了後に発表され、その結果がどのようなものであっても翌朝9時の取引開始を待たなければならないことや、日本の取引時間外で海外の主要指標や金融政策が発表されたり、大きな世界情勢の変化で日本市場を大きく揺らす事件があっても、日本で市場が閉じている間は何も出来ないといったことに対して、市場運営者である取引所が何らかの策を立てるべきではないのかといった問題意識が高まっており、現在検討を進めている。

――デリバティブやFXについては夜間取引が盛んに行なわれているが…。

 清田 それも、マーケットが動く要因は海外によるものが多いということの表れだろう。現物取引でも、例えば取引開始を朝7時に早めるとか、取引終了を夜11時半まで延長するなど取引時間の延長を巡っては色々な意見がある。ただ、実際に行うとなると、年金や投信が使用する基準価額をどうするのか、或いは決算に使う数字はどの時点のものを使用するのかといった問題や、決済をいつ行うかといった問題もある。こうした問題をひとつひとつクリアにしていく必要がある。現在、有識者による研究会を開催し、様々な問題を洗い出し整理してもらっている。証券会社には、業務の体制を変えなければいけないという問題もあるだろう。色々な論点をきちんと整理したうえで、やるかやらないかを含めて、東証としての結論を出したい。

――日本経済が足踏みしていたなか、上場外国企業が減ってしまっているが…。

 清田 この数年で東証上場に伴うコストとリターンがはっきりと見えずに日本から撤退した外国企業は多いが、最近、アキュセラ・インクという米シアトルの眼科領域のバイオベンチャーが東証を選んで上場してきた。このような外国企業の上場についてはもっと力を入れていきたいと考えている。アキュセラ・インクのように日本人が外国で起業した会社を日本市場で上場させるといったケースも大歓迎だ。先日、アリババが香港での上場を断念してNYにIPO先を移したと話題になったが、背景には香港証券取引所では議決権に差のある種類株の上場が認められていなかったことがあると言われている。この点、東証では08年に議決権種類株の上場制度を整備しており、今年3月26日に上場したサイバーダインは制度整備後初めて、議決権種類株を発行する会社が上場した事例だ。そういったニーズも出てくるのではないかと思う。

――今後の抱負は…。

 清田 今後我々が行うべきことは、統合後の質の向上だ。アジアで最も選ばれる取引所を目指して日本株の魅力向上に努めていきたい。投資家に好まれる魅力的な企業を増やすためには、まずはIPOを増やさなくてはならない。同時に既存の上場企業に変わってもらう必要もある。例えばコーポレート・ガバナンス面で、アベノミクスの成長戦略の一環として「金融・資本市場活性化有識者会議」でも打ち出されているように、東証は社外取締役の設置を強く要請していく。東証の上場規則にも「独立社外取締役の確保に努めなければならない」とあるが、会社法においては、仮に社外取締役を採用しない場合も、社外取締役を置くことが相当でない理由の説明義務を課す改正が予定されている。すでに、これまで比較的慎重だった日本を代表するような企業が続々と社外取締役の採用を発表しており、この取り組みは市場の魅力向上につながっていくと思う。また、日本株が弱い根本的なもうひとつの理由として、ROEが低いということが挙げられる。ROEの向上を意識した経営については東証でも事あるごとに発信しており、それを具体化したのがJPX日経インデックス400だ。

――JPX日経インデックス400の影響により企業の体質も変わってくる…。

 清田 このインデックスは、ROEや営業利益のような収益力を見る指標を重要視しており、投資者にとって投資魅力の高い会社で構成されている。もちろん市場の流動性を考えれば時価総額も必要だ。それに定性的要素としてコーポレート・ガバナンスの観点から独立した社外取締役の2人以上の選任、グローバルな投資対象として英文での情報開示を行っているか、IFRSを採用しているかが加点要素になる。このようなインデックスを作ることで日本企業の魅力をあげようというのがJPXのスタンスだ。さらに、我々は企業価値向上への取組みが特に顕著だった企業の表彰や、その他IFRSの採用等、所定のデーマで秀でた企業行動をとった企業の表彰なども行っている。アベノミクスが始動してから約1年4ヶ月、証券業界は比較的恵まれたビジネス環境になっているが、それは他力本願によるマーケットの改善だ。今後、我々がさらに日本株の魅力向上に力を入れ、日本企業の実力が増していけば、着実に日本マーケットは自主的に活性化していくだろう。(了)

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