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「3つの機能をフル稼働し国際化に対応」

国際協力銀行
代表取締役総裁
渡辺 博史 氏

――昨年12月より国際協力銀行の総裁となられた…。

 渡辺 当行は一昨年4月に日本政策金融公庫から分離・独立して株式会社となった。1950年に発足した日本輸出銀行が日本輸出入銀行へと改称し、99年に海外経済協力基金と統合し更にその後の変遷を経て現在の国際協力銀行になったという歴史があり、設立当初は輸出金融が業務の100%だったが、今では業務範囲が大幅に拡大し、輸出金融のウェートは大きく下がった。海外進出して国外に工場をもつ企業が多い現代において、日本企業が国内で製造した製品や技術を海外に提供するような輸出金融は徐々に縮小し、変わって日本の企業が海外に工場を作るための支援となる投資金融が増えてきたということだ。また、政府系金融機関の改革で99年に海外経済協力基金と統合した時には一時期ODA円借款も行っていたが、08年10月には円借款部分が国際協力機構(JICA)に移管されたり、「国際金融秩序の混乱の防止またはその被害への対処」と、「地球温暖化防止等の地球環境の保全を目的とする海外における事業の促進」という2つの分野が新たに明確に当行ミッションに加わったりしたことなどから、我々の業務内容は拡大してきている。しかし、それは必然の流れだ。

――海外展開支援はますます拡大しているようだが、その中身は…。

 渡辺 海外展開支援については、大体、約半分が資源・エネルギーの確保や開発で、残りの半分がM&Aだ。リーマンショックが起こる前の年まで、これらの事業は1兆3000億円程度の規模だったが、08年下期には金融不安を背景に約1兆8000億円に膨らみ、さらにリーマン・ショックの影響が通年化した09年には約2兆7000億円となった。また、10年度、11年度は米国経済が回復してきたことで2兆円台まで戻したが、12年度の当行承諾額は4兆円を超え、すでに約2兆5000億円が当行から市場に供給されている。日本企業がそれだけ活発に海外進出を行っているということだ。同時に日本政府としても、05年に国内人口が頭打ちしたことを受けてアジア経済の活気を日本に取り込むことをスローガンに掲げているため、我々は、日本企業の国際競争力の維持・向上を支援するという立場からそれに資する取組みを行っていく。

――CO2削減のための途上国への支援もされているが、順調な回収が見込めるのか…。

 渡辺 これも政府の環境プロジェクトの一環として行っているもので、それほどリスクが高いものではない。申し上げておきたいことは、当行は基本的に設立以来、利益を出し続け、過去の融資に焦げ付いたものもほとんどないと言えるだろう。加えて、国からの補助金や利子補給金などもなく、毎年約250億円ずつ国庫に納付しているいわゆる超優良企業ということだ。それでも民営化しないのは、先程冒頭でもご紹介したように、我々のミッションの一つに「国際金融秩序の混乱の防止またはその被害への対処」という業務があるからだ。例えば、政治が不安定で経済が悪化している国に対して支援をする際に、株主の中に「儲からないのに行くべきではない」と反対が出れば、そういった仕事を機動的に行うことが出来ない。それでは当行のミッションが果たされない。

――民間の金融機関はBIS規制などで縛られて自由に動けない。そういった部分をカバー出来る御行の存在は貴重だ…。

 渡辺 もちろん当行も金融検査を受けているため、あまりにも過剰なリスクはとれないが、我々は民間金融機関と違って資金調達の年限が比較的長く、国債に準じる金利で5年債や10年債を発行したり、財政投融資特別会計から7年程度の長期資金を調達することが出来る。一方で現在の民間の銀行の平均調達期間は2~3年で、「短期調達で長期貸出は危険」という銀行のポジションを考えれば、どんなに工夫をこらしたとしても10年を超えた貸出はかなり難しい。そこで、途上国のインフラ整備や環境関連に必要な長期プロジェクトで我々が協調融資をするということは、量的な補完のためだけでなく、期間の部分での補完的な役割を担うことが出来るという訳だ。

――その他、御行の特徴は…。

 渡辺 当行には主に3つの機能があると思う。一つ目は「サイクルに対して反対に動くこと」だ。他の銀行が縮小している時にこそ我々が頑張らなければならない。二つ目は「金融機関同士の触媒的機能を果たすこと」だ。協調融資を原則とする我々が参加し、場合によってはイニシアチブを取って、例えばシンジケートなどで、色々な銀行を集める役割を果たすべきだと考えている。そして三つ目は「これまでの日本とはあまり馴染みのないような地域に率先して進出していき、トラブルが起こったときにその影響を最小化すること」だ。例えば途上国などにおいてプロジェクトの途中でその国の政策変更などがあり仕事が継続できなくなるようなケースに陥った場合、大使館として相手国と接しているのであれば、日本全体の利益を考えて一定の距離を保つ必要があるが、我々は貸し手として直接の利害関係者であるため、日本企業全体を代表する立場で相手国と接し、問題解決に取り組んでいく。これは非常に重要な責務だと思っている。特に今の時代はこの3つの機能をフル稼働していかなくてはならない状況だ。

――その中で、今の国際金融の注目点は…。

 渡辺 国際金融で今一番注意すべき事は、米国が現在行っているテーパリングが世界各国にどのような影響を及ぼすかだろう。これについてFRBイエレン議長は「悪い影響が出る国もあるかもしれないが、それは過去数年に少し怠けていた国であり、それは仕方がない」と発言しており、確かに、過去に米国債の金利プラス3%でも調達できなかった時代から、11年頃には1%未満の上乗せで資金調達することが可能になったことを考えると、その時に構造改革せずに怠けていた国が今大変な状態になっているのは、米国の責任とはいえない。実際に昨夏の米国のテーパリングのスピードが若干速まった時、インドやインドネシアから大量の資金が引き上げられ、インドルピーは昨年9月に史上最安値をつけるといった事態にもなったが、その後、各国中央銀行はそれぞれに対応している。マーケットが破壊的に崩れることはないということだろう。

――これから世界のマーケットで予測される事は…。

 渡辺 昨年末、フィナンシャル・タイムズが予測した「2014年にありそうなこと」ではブラジルのワールドカップ開催への懸念やビットコインの破綻をあげており、これらはすでに結構あたっている。その中で日本が2%のインフレ目標を掲げていることや、中国が7%成長を割り込むとバブルが破裂することも列記している。気になるのは、昨年頃からBRICs4カ国をはじめとする新興国の成長率がそれぞれ2%程度減少していることで、さらにこれを背景として中国やブラジル、そしてフラジャイル5のひとつであるトルコでは所得の不均衡が大きな問題となっている。中国については高齢化や公害汚染問題もさらに深刻となっていくだろう。成長が見込まれる国としては、当社の貸付状況を見ていると、今後はラテンアメリカやオーストラリア、インドなどが伸びてくると感じている。特にメキシコに関しては、まもなく貸付上位ベスト5に入ってくるのではないか。

――中国のシャドーバンキングが問題となっているが、その影響は…。

 渡辺 中国は、経済面で世界経済に与える影響は大きいが、金融面での繋がりは薄く、上海市場における海外投資家の数もそれほど多くないため、シャドーバンキング問題が世界に与える影響はそれほど大きくないと思う。ただ、市場、投資家のセンチメントが悪化することは不可避であり、それによって世界全体の金融が引き締められたり、あるいは中国が起こす何らかのアクションによって周辺国の格付けが下がるような状況になれば、起債が難しくなることは考えられ、その時に、我々が量的な不足部分を補うということはあるかもしれない。例えばインドネシア政府やフィリピン政府が日本で円建て債を発行する時などは当行が部分保証することで金利を下げ、有利な資金調達を実現しているが、今後も仮に大きなショックが起きれば積極的に支援していくということも当行の役割だ。

――最後に、日本市場における今後のポイントは…。

 渡辺 マーケットは第3の矢がきちんと打たれるのかどうかを気にしている。例えば、海外の投資家は、安倍総理は色々と刀を振り回しているようだが目的の幹や枝にはあたらず葉っぱだけを切り落としていると評しているとする海外メディアの見方があり、TPPの農業構造改革にもあまり本気ではないとの観測もある。また、気になるのは経常収支で、今後原油の値段が一割上がり、為替が110円を超えるようなことがあると、日本の強みである経常収支の黒字がギリギリの状態になれば、日本の基礎的な強さに対する疑念が出てくるかもしれない。それを払拭するためにも、アベノミクスの第3の矢によって、マーケットを失望させない何かをやらなくてはならないとの見方が海外には多いようだ。(了)

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