食品と暮らしの安全基金
代表
小若 順一 氏
――食品の放射能基準は1.1ベクレル/kgに改めるべきだと主張なさっているが…。
小若 我々は2012年2月からチェルノブイリ原発事故が起きたウクライナを4回調査して、放射能汚染が少ないとされている地域で、食品汚染が1kg当たり1.1ベクレル以上になると、頭痛や鼻血が出ることをつきとめた。それは国際学会でも発表している。最初に調査した村は汚染地に隣接していたが、空間線量は0.015マイクロシーベルト/時程度で、我が事務所のあるさいたま市と同レベルだった。日本のメディアで取り上げられたことのない村だが、その村の小学校の子どもたちの半数以上が、頭が痛かったり、足が痛かったりすると言う。我々は何とかしてあげたいと思って、その意を伝えると、「子どもたちを1~2週間、南の地域に保養に行かせて欲しい」という答えが返ってきた。彼らはそれが一番いいと思っているが、2週間で痛みが消えるはずはないし、保養から戻れば、痛みは再発してしまうので、私は、痛みを治す基礎原理を見つけようと思った。
――どのようにして調査したのか…
小若 まず、原発事故の直前に生まれた26歳の女性を70日間、はるか南の非汚染地域に保養に出してみた。すると、45日目まで痛みは変わらなかったのに、それから痛みが少なくなり、73日目に我われの前に現れて、「ほら、どこも痛くないのよ」と笑顔で言った。その後、彼女は、心臓病のニトログリセリンも持ち歩かなくなっていて、首都キエフに移り住んで結婚し、今年1月には赤ちゃんが産まれる予定だ。農村の住民は、国から300坪の畑と60坪の家庭菜園がついた家を与えられているが、現金所得は月に1万5000円ぐらいしかない。それで、森に入ってキノコを採ったり、川で釣った魚を食べたりして、自給自足の生活をしている。そこで次は、放射能値の高いキノコと、川魚を食べることをやめてもらい、その代わりに肉と牛乳を提供して、子どもと大人の健康がどうなるかを調べる5カ月のプロジェクトを行った。すると、頭痛や足痛があった80人のほぼすべてが改善し、痛みが消えた人も出てきた。その後もキノコと川魚を食べないでいると、さまざまな病気が治ってしまった。
――キノコに含まれる放射線量はやはり高いのか…。
小若 チェルノブイリ原発から200㎞ほど南の「非汚染地域」で、森に入ってキノコを採り、検査に出すと1kg当たり210ベクレル。その他の食品は10ベクレル未満の「不検出」だった。それで、キノコを止めてもらえば何とかなるのではと思ったわけだ。80人中2人の子には、「奇跡が起こった」といわれることが起きた。7歳から脚が曲がり始め、肢体不自由児になって学校に行けなくなっていた10歳の男の子と、生まれつき乾燥したサメ肌で酷かった12歳の女の子には、会ったときに、化学調味料の一切入っていない出汁の粉末を1kg渡し、女の子には超高純度ワセリンも渡して帰国した。それから、1カ月後に食事改善プロジェクトを始め、調査期間が終わる半年後に行ってみると、男の子の脚はわずかだが良くなっていた。そこで、こんにゃく体操とも呼ばれていた「野口体操」で体を30分ほどゆすると、まっすぐに歩けるようになって、家族はあっけにとられた後、大喜びした。生まれつきで治らないはずだったサメ肌の女の子の肌は、ピカピカの美人に変わって友人もできていて、家族は「奇跡が起きた」と言った。
――1.1ベクレル/kgという値はどのように算定した結果なのか…。
小若 食事改善プロジェクトと並行して、村人が食べる食事に含まれるセシウム137の量を調査していたが、なかなか数字がつかめなかった。最初は、1kg当たり10ベクレルまでしか測れない検査器で調べたが、1つも数値が出なかった。次は、別の検査機関で1.8ベクレルまで調べたが、37食品のすべてが不検出だった。奇跡的に良くなった子が2人いる村では、このような低線量の食事を摂りながら、ときどき200ベクレルのキノコや、10ベクレルほどの川魚を食べていたのだ。そんなときに訪ねたのが、放射能汚染が一番少ない地域にあった村だ。環境汚染もない地域の学校で、16人の子どもに足が痛いかどうかを質問すると、1人しか手を挙げなかった。次に、頭痛がするかどうかを聞くと、ほとんどの子が手を挙げた。よく鼻血が出る子も、よく風邪を引く子も半数以上いた。この村の子が食べている1日分の食事を村長さんから提供してもらい、それを精密に検査して数値を出したのが1kg当たり1.1ベクレルだ。日本は、一般食品について100ベクレルまでは安全だとする基準を作っているが、このような甘い基準では、すでに福島で「痛み」の出た被害者が出ているかもしれない。頭が痛い、足が痛い、鼻血が出る、風邪をひきやすいといった症状を、本人も医師も放射能の影響としては診ていないので、見逃している可能性がある。放射能の被害調査は、特定集団の死亡統計の死因を調べて、ガン、心臓疾患がどのくらいいるかを分析するのが普通だからだ。痛みの被害調査には、国から費用を出さないから誰も調べていない。ウクライナでも調べていないから、我々がカンパを集めて行った調査が世界で初めてだと思われる。
――日本の100ベクレル基準を1ベクレルに変更するべきだと思うが…。
小若 福島は難しいかもしれないが、その他の地域では割りと簡単に規制できると思う。東京で出回っている食品の99%以上は1ベクレルを下回っているからだ。基準を変えないのは、稀に1ベクレルを上回るような食品が出た時にマスコミが騒ぐので、政府がそのバッシングを受けたくないからだ。放射能を溜めやすいと言われるキノコだけは、スーパーで買えば10ベクレル程度のものがいくらでもあるが、1ベクレル規制にすれば、キノコ業者は放射能で汚染されていない外材の木屑を使って育てるから、あっという間にセシウム137は検出されなくなる。やり方はいくらでもあるのだ。日本政府は風評被害を恐れて1.1ベクレルで健康被害が出たという結果を無視しているが、そのような判断は、将来の被害を拡大させる事になる。
――全ての子どもを福島から疎開させるべきだと言う指摘もあるが…。
小若 私は、福島でも汚染レベルが特に高くなければ、住むことは可能だと思っている。ただ、水と食品は外部から調達すべきで、その基準も1ベクレル以下にすべきだ。また、子どもは外出時にマスクを付ける必要があるだろう。また、50歳か60歳を過ぎれば放射能の影響はほとんど受けないという定説があるが、私の実際の経験からこれは間違いということも分かった。9月にウクライナの高汚染地域を訪ねた時に、各家庭で季節のキノコをどんぶり一杯ぐらい盛って、我々をもてなしてくれた。内心は恐いなあと思ったが、団長として断ることは出来ないと思い、積極的に食べたのだが、半年後に体のあちこちが痛くなり、私は酷い目にあった。この地域の食品検査の年次報告書を手に入れ、通訳に訳してもらうと、キノコの汚染は1kg当たり最大7万5千ベクレル。基準は500ベクレルだが、基準違反率は57%だった。私はジョギングが趣味なのに、半年後には足の筋肉が痛くて走れなくなり、変な感じの痛みが2カ月ほど続いた。その後に、ふっと痛みが和らぎ、暫く経ってまた2~3週間程度痛みが続く状態が続いて、ようやく回復してきたところだ。キノコを食べた50代の男性は4カ月後、60代の私は6カ月後、70代の女性は8カ月後に体調の悪さがピークになり、私と同じような痛みを体験している。その理由は、筋肉細胞の遺伝子が傷つくと、その細胞が分裂するときに細胞死が起きるからで、影響が出るまでに時間がかかるのだ。歳をとってやっと歩いている人が、放射能で筋肉細胞を少しでも失うと、歩けなくなる。筋肉への悪影響は、歳をとった人の方が大きくなる。だから、老人は、放射能をとっても大丈夫というのは、ガンでは通用しても、健康全般を考えると間違いだと言える。(了)