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「日本はアセアンの成長の取り込みを」

日本アセアンセンター
事務総長
藤田 正孝 氏

――日本にとってのアセアン諸国の重要性はさらに高まっている…。

 藤田 まさにその通りだが、同時にアセアン諸国にとっての日本の重要性も高まっていると考えている。1981年に日本アセアンセンターが創立された当初は、日本がアセアン諸国を援助するという考えが主流であった。しかし、1980年代、日本の10分の1程度だったアセアン諸国のGDPはいまや日本の半分ほどにまで成長している。この成長を、例えば観光の促進といった形で、日本にも活かすことが必要だ。貿易や投資という観点でも、これまではアセアン諸国からモノを持ってきたり、アセアン諸国に投資したりすることがメインテーマだったが、これからは逆の流れを考える必要がある。

――これまでは日本がアセアン諸国に投資するイメージだ…。

 藤田 実際、現時点でも、金額でみると日本からアセアン諸国向けの方が、アセアン諸国から日本向けの投資よりも遥かに大きい。ただ、全体の投資額に対するシェアでみると、過去3年間で日本からのアセアン諸国向け投資が全体の十数パーセントに過ぎないのに対し、アセアン諸国からの投資は日本向け投資の約23%のシェアを占めている。これは中国や韓国からアセアン諸国向けの投資が増加していることや、元々日本向けの投資が少ないことも大きいが、アセアン諸国の経済力が強まっているのも背景にある。その力を、日本はもっと取り込んでいくべきだろう。アセアン諸国には日本にはないノウハウもあり、例えばハラールビジネスでは、人口の約40%がムスリムであるアセアン諸国の方が当然日本より優れた知識を持っている。ムスリムを日本観光に誘致するためにも、そうしたノウハウは必要だ。日本は歴史的に欧米の技術を取り込んで産業を育成してきたが、今後は欧米に限らず、アセアン地域も含めた世界の優れた技術を取り込んで成長していく必要があるだろう。

――今後の具体的な取り組みは…。

 藤田 私が事務総長に就任してから毎日強調しているのは、考え方を従来から変えることだ。具体的には、開発機関として、2015年9月に国連で採択された「持続可能な開発目標」を意識した活動を行う方針を定めている。同目標は150を超える参加国のもと採択されたものであり、今後15年間続く世界的な開発の枠組みだ。これは加盟国全員が貢献しなければ達成できないものであり、日本アセアンセンターも意識する必要があると考えている。もう一点は、成果主義の徹底だ。我々の活動資金は納税者が納めたものであり、当然成果をもたらす責任がある。そこで私は全ての活動を、目的への適合性、質、効率性、効果の大きさの4つのバリューから評価しており、今後はこれらのバリューにそぐわない活動は削減あるいは中止し、よりインパクトを生み出せる分野に資源を集中させることを考えている。

――その他の戦略は…。

 藤田 今後重視したいのは、他の機関との差別化だ。日本アセアンセンターには日本とアセアン10カ国が加盟しているが、彼らは当然、我々が他の機関と同じことをするのを嫌う。従って、我々独自の活動を打ち出していく必要がある。ただ、同時にお互い協力して事業を行っていく意義はあると考えており、例えば観光事業であればUNWTO(国連世界観光機関)、投資であればUNCTAD(国連貿易開発会議)など、各分野の専門家とは協業していきたい。彼らとの協業によってシナジー効果が見込めるだけでなく、我々の職員のスキルアップにも繋がり、モチベーション向上も期待できる。予算に制約がある中で、資源を投入する以外の形で成果を拡大する方法については今後も検討していきたい。

――中韓も日本に追随してアセアンとの国際機関を設立している…。

 藤田 中国と韓国の機関は最近設立されたこともあってか、活動内容が似ている場合がある。各国の事情はあるだろうが、アセアン側からすれば、これらは単純に重複しているように見えるだろう。現在、我々はアセアン側からの要請もあって、中国や韓国の機関と何が協力できるかについて議論を行っているところだ。ただし今後、非公式会合を行う段階で、具体的な話が進んでいるわけではない。無論、他機関とは例えば投資分野などで競合する部分もあるだろうが、お互い利益をもたらせる分野では協力を検討していきたい。

――TPPの影響は…。

 藤田 アセアン地域の一部の国からは、脅威に映っているようだ。今年はアセアン経済共同体(AEC)が設立されるが、TPPによってその影響が薄れることが懸念されている。規模が違うだけに注目度が違うのは仕方がないが、重要なのは一部のアセアン諸国がTPPに参加していることだ。これによって、非加盟国から加盟国に投資が向かうことや、対アメリカ向けの輸出基地として加盟国が選別されることが危惧されている。また、AECはTPPと違い、サービスを思ったようにカバーできていないという点も指摘されている。一般的に、経済開発が進展すると、経済に占めるサービスの割合は増加するため、アセアン域外から域内へのサービス業向けの投資需要も当然強まる。その投資はアセアン諸国にとっても成長の機会だが、現状ではサービス業の自由化は当初の予定通りには進展していないのが実情だ。アセアンはEUのような強制力があるわけではなく、内政への相互不干渉が原則であるため、自由化には時間が必要だ。だが進展さえすれば、成長のポテンシャルは極めて大きい。アセアン地域は人口が多い上、若い世代が多く、当面人口ボーナスを享受できるし、企業ネットワークも張り巡らされており、現状でもアセアンはEUに次いで統合が進んでいる共同体だ。サービス業の伸展は経済全体の生産性を高めるだけに、自由化は非常に利益が大きいだろう。

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